第3話 Midnight Blues

 


 何処の国へ行っても変わらない事の一つ。

それは、お酒を飲ませる店がある夜の街は深く、眠るのが遅い。

涼太は夜遅いブルックリンの街を此の国で借りている自分の部屋へ帰ろうとしていた時、数人の酔っ払いにぶつかった。


「ヘイ、ジャップ」


 今の涼太にとって、その一言は、鬱積した気持ちの吐口として充分だった。

あとは何を言おうが最初の一言、ジャップ、それだけで充分だった。

アメリカまで来て、最初はチヤホヤされて、今は何をやっても上手くいかない。

一人きりの異国の土地で、この遣る瀬なさの吐口を求めていた。

アメリカまで来て、この悲しみを、この苦しみを、そう思うと、このブルックリンの街を憎みだした。


 ブルックリンに住んでいる人達が敵に変わっていった。

そして、吐口が、ブルックリンが、この街の酔っ払いが、向こうからやって来た。


 勝敗はあっという間だった。

涼太の突然出した一撃が相手の一人の顔面を直撃したが、あとは複数の手と足に翻弄されて終結である。

一人、路上に残された涼太は、通りすがりの人に救急車を呼んでもらえた。

異国の街では、それだけでも運が良かったと思わなければならない。

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