第9話
其れからというもの、仕事が終わると、彼女とは、毎日のように会うようになった。
例え珈琲一杯だけでも、色んな会話をするようになった。
将来の話も。
「結婚式って、結構な費用になるんですね」
私は、彼女の言葉に、
「はい、式だけじゃなくて、披露宴や新婚旅行、結構な額になるみたいです」
と言いながら私は、今の貯金に、薄給を加えて貯め始めている。
「旅行から帰って来て、新しい生活が始まって、想像すると楽しいけど、生活も頑張らないと、ですよね」
彼女の言うことは、最もだと思う。
「はい、三人で暮らすとなると経済的にも大変だと思います」
「えっ?」
「いえ、子供ができたらって言う意味です」
「・・・・・・・・。」
「あっ、ごめんなさい。変なこと言って」
「一緒に暮らしませんか」
「はい?」
「其の方がお金を貯めていけると思うんです」
「はい!」
私は部屋に戻ると、早速、ことの次第をぺペンギンさんに告げた。
「そうかぁ、最初に彼女の話聞いた時、そうなるんちゃうかぁって思てたんや」
「でしたら、三人で一緒に暮らしてくれるんですね。私からちゃんと彼女には説明します」
「いや、二人や」
「え?」
「お前ら二人で暮らすんや」
「どういうことですか? 彼女ならきっと分かってくれる筈です」
「ワイも、そう思うよ。彼女はええ子や、間違いない」
「じゃ、三人で暮らしてくれますよね」
「ちゃうねん、ワイが出て行くねん」
「どうしてですか」
「実はな、もうすぐ、宇宙巡回船が此の星の上に来よるねん。ワイ、其の船の乗船予約してん。ほんまはな、置き手紙して出て行こう思ててんけどな。丁度、ええ機会やし、ちゃんと言葉で伝えとこう思てな」
「置き手紙なんて、酷いじゃないですか。行かないでくださいよ」
「なぁ、今のお前の顔、めっちゃ素晴らしいで。初めて会うた時、そらぁ酷い顔してたで。其れが今はどうや? めっちゃ輝いてるやん」
「そんな事、そんな事、ありません。行かないでください」
「あかんたれやなぁ、ほんまは言わんとこ、思ててんけどな。やっぱ言うわ」
「何んですか」
「お前な、彼女に初めて会ったんは、会社の廊下やて言うてたやろ。ちゃうねんで。
彼女はもっと前からお前の事、見ててんで。世の中の不幸を一人で背負ってるような顔して、背中丸めて歩いてる姿をずっと見ててん」
「・・・・・・・・。」
「ほんでな、ある日から彼女はな、夜の星にお願いする様になってん。あの人を助けてあげてください、ってな。夜空で輝いてる沢山の星やのうて、沢山あるうちの一つの星にお願いする様になりはってん。其の星がな、たまたまワイの住んでる星やってん。其の願いを聞いたワイの上司がな『お前、何とかしに行ったれや』言うてな、ワイは此の星のお前の部屋におんねん」
「でも、どうして彼女が」
「お前なぁ、人を好きになるんに理由なんかいるんか?」
「でも、私が目覚まし時計を見つけないと」
「お前らはな、想像を超える出来事があったら、偶然にしてまうやろ。ほんまはちゃうねんで。全部必然やねん。いつか、何処かで、必然が生まれてな、其れが重なり合って、今に繋がってるねん。其の最初の必然を証明するのがワイの星のワイの仕事やねん。宇宙理論物理学や」
「・・・・・・・・。」
「まぁ、そう言うことで、今夜はせっかくやし、飲み明かそやないか」
「・・・・・・・・。」
「そんななぁ、しけた顔せんと、飲もうや」
「・・・・・・・・。」
「ほら、酒、もってこいや。で、シラスはあるやんな?」
「在庫切れです」
「アホか! 最後の最後まで!」
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