第2話
久しぶりにウキウキした気分で、商店街のアーケードの中を歩いていた。
此の空腹感でさえ気持ちいい、とはいうのは嘘だ。
やはり空腹は空腹だ。
商店街の脇に、人と人がすれ違うだけで精一杯という狭い道がある。
其の道へ入ると直ぐに小さな定食屋さんがある。
いや、小さいのは店の入り口の引き戸であって、店内は結構広い。
店内には片手でも持ち上げられそうな質素で簡単なテーブルに所々穴の空いたビニールが掛けられており、其処には何処にでもあるような折りたたみ式のパイプ椅子が添えられている。
私は、お世辞にもクッションが効いているとは言えないパイプ椅子の平たい座面に腰を落ち着けた。
隣のパイプ椅子に財布やハンカチなど雑多に詰め込んであるショルダーバックも座らせた。
いつもなら椅子へ放り投げる様にして雑に置くのだが、今日は違う。
何せ家出した本が帰ってきて、然も其の本は素敵な目覚まし時計というお友達を紹介してくれたのだから。
そして、これから時を刻んでくれる金色の丸い友達は、明日の朝寝坊を未然に防いでくれるであろう可愛い小さなベルを二つ載せている。
職場へ行くのは嫌だが、素敵な朝が迎えられそうな気がする。なんと単純な男なのだろう。
さてと、何を食べようか? 1000円腕時計を見ると午後2時を少し過ぎたくらいだと示してくれている。
結局、朝御飯抜きの遅い昼御飯になってしまった。
何を食べようかといっても此の店で定食は3種類しかない。
トンカツ定食と唐揚げ定食とコロッケ定食である。
今日は気分が良いから一番値段の高いトンカツ定食にしようかと思ったが、気分が良いならビールもありだな、となると定食はコロッケ定食に格下げせざるを得ない。
うーむ難問だ。
難問が私に迫ってくる、滅多に口にすることの出来ないトンカツを食べたいが、今日はビールがとても飲みたい、と暫く迷っていたが、お店のおばちゃんに、
「お兄ちゃん、何にしようかね?」
と聞かれて思わず
「取り敢えずビールください」
と言ってしまったので自ずとコロッケ定食に決定してしまった。
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