2.新しき生活と出会い
ホールランドとの話し合いを終えた私たちが外に出ると、空は夕焼けに染まっていた。
この空を見てここが地下だと言われても誰も信じやしない程、綺麗なオレンジ色。
街中もそろそろ夕食の準備もあり昼間より人では明らかに減っていた。
馬車を見つけてそこから数十分。慣れない馬車にお尻を痛めつつ目的の村に到着する。
「ご利用ありがとうございやした〜」
街から遠く離れた海沿いの村。そこでも数人の人と、二人は挨拶を交わし、私はミーリアに抱えられ、村からさらに歩いて辿り着いたのは小高い丘。
「あそこが私たちとこれからはホムラ。お前の家だ!」
(大きな家だな……)
水辺を一望することのできる場所に立つ木造二階建ての家。どうやらここが彼女らの住いであり、私の新たな家らしい。
眼前に広がる光景に、私は水辺を指差し思っていた疑問を聞いてみることにした。
「あの。この巨大な島?の周囲にある水辺は海なんですか?」
「ん?ええ、そうよ。理屈は私も詳しく知らないけど。地上の海から水を引っ張ってきて空から街周辺の土地を囲む水辺に流し込んでいるんですって」
空の大穴から流れ落ちている水は、どうやら海水らしい。それなら美味しい魚も食べられそうだ。
私はミーリアに下ろしてもらい、彼女らに続いて家に入った。
「お邪魔……します」
「お、お邪魔しますって。ホムラ、これからはお前の家でもあるんだらそんな他所様の家に入るように言わなくてもいいんだぞ……」
「アリューミア。いきなりお前の家だって言ってもホムラちゃんも困っちゃうだろうし。少しずつ慣れていけばいいと私は思うわ」
ミーリアのいう通り、正直お前の家だと言われても未だに実感が湧いてこず、初めてきた家のように部屋の観察をしてしまう。
部屋の家具も木製の物に統一され温かみのあるリビングで、海沿いの方には大きな窓もありその絶景を一望できる。
「おーい、ホムラ。こっちゃこいこい」
呼ばれて後ろを振り向くと、アリューミアが階段手前で手招きをしていた。アリューミアの元へ駆け寄ると彼女はゆっくりと階段を登り始め、私もそれに続く。
案内されたのは二階の一室。
そこは物置になっていた。
「あ、あー……。ここをホムラの部屋にって思ったんだが。まずは片付けからだな……」
「ハハハ……」
どう反応していいものか、私はただ笑うことしかできず、積まれたもののせいで窓の外も見えないなと思っていると、
「アリューミア!もう帰ってきたのか!?」
一階から聞き慣れない子供の声が響いてきて、私は後ろを振り向いた。
「はぁ……。あいつは……あれ程いったろうに……」
後ろ手に髪を掻くアリューミアは、その辺に置いてあった雑誌を一つ乱暴に掴み取ると、階段をゆっくりと下りていた足取りはだんだんと速くなり。手に持った物を筒状に丸め込んだ。
「人様の家に勝手に上がり込むなとあれほど言ってるだろうが!ドアホ!!」
「いてッ!!」
それはもう勢いよく。片手で持った雑誌で“スコーン”と黒髪でアリューミアと同じ半獣人の少年の後頭部を引っ叩いた。
「何すんだよ!」
頭を抱え怒る少年に、アリューミアは目を瞑り、空いた反対の手のひらを雑誌で叩いていた彼女の手首が止まり、半目を開ける。
「先に言うことがあるんじゃないか?ん?」
「……ごめんなさい」
「よろしい」
少年の耳と尻尾がシュンと垂れ下がっている。
「もう、アリューミアはレオン君に厳しすぎると思うよ」
「厳しすぎるって。ミーリアは逆に甘すぎるんだよ……」
どうやら少年はレオンというそうで、ミーリアが庇ってくれると見ると「そーだ!そーだ!」と元気よく拳を上げて声を出し、アリューミアに「お前はそうやってすぐ調子に乗るな!」と再び怒られる。
「で、レオン。お前は何しにきたんだ?」
「そ、そうだ!今日こそこの前言ってた奴を見てもら…… 誰、あいつ?」
(やばい。気づかれた)
階段の中心、折れ曲った所に身を潜めて眺めていたのだが見つかってしまったらしく。レオンはこちらを指差し。アリューミアは腰に手を当て。ミーリアは見にくいのか腰を軽く曲げてこちらを見つめる。
レオンは尻尾をまっすぐに伸ばし、すごくこちらを警戒している様子で、出るに出られない。
「ホムラちゃん。そんな隠れてないでこっちおいで」
ミーリアの呼びかけに今がチャンスとばかりに階段を下りる。
「こいつはホムラっていうんだ。今日から私たちの娘ってことになったから仲良くしてやってくれ」
「ふーん……」
なんだかすごい睨まれている。
そんな彼の事を知ったか知らずか、アリューミアは私の髪をワシャワシャともみくちゃにする。
「レオン君。この時間なら夕食はまだでしょ?よかったら食べていく?」
「今日はやめとく……」
少年はぶっきらぼうに答えると、そそくさと玄関の扉を開けて出て行ってしまった。
「お邪魔しましたぐらい言っていけと…… 」
「まあまあ」
鬼の形相のアリューミアとそれを
「さて、ホムラの部屋はあんな感じで今日中に使えるようにするのは無理だろうし……。夕食の準備でもするか」
「え?アリューミアさんが作るんですか?」
「?そうだが?」
意外だ。申し訳ないけど意外だった。
口が乱暴で、ガサツに見えるアリューミアに、料理はミーリアがしているのだと勝手に思い込んでいたが、どうやら料理は彼女がやるらしい。
「ミーリア。その間ホムラを連れて風呂入ってこい」
「えっ!?」
「はーい」
ミーリアが軽い返事を返す中、私の脳細胞はフル回転した。
逃げる?
ご一緒する?
髪も変わってしまってはいる。体が縮んでしまった。しかし、私も精神年齢は35歳の紳士である。そんな歳になって子供の姿で女性と風呂など正直ラッキー……。ではなく、非常によろしくない。
ここは全力で逃走あるのみ。
「逃がさないわよ」
ホムラは逃走に失敗した。
走り出そうとする寸前。片腕で服の後ろ
「あ、あの。私そこまで汗かいたないので。それに、自分で入れますから」
「ええ。でも……少し汗の匂いもするし。一人ではいると溺れちゃうかもで危ないよ?」
匂いを嗅がないでいただきたい。
ジタバタ暴れても無駄な抵抗と、私は持ち上げられて、
「じゃあ行ってくるね」
「おう。完成までに時間かかるから、ゆっくり入ってこい」
「アリューミアさん!助けてーーーーー!!」
キッチンでフライパン片手に今夜のメニューを考えているご様子のアリューミアへ手を伸ばし、助けを求める叫びが虚しく響く。
「……あいつ。風呂嫌いなのか?」
アリューミアに変な勘違いをされた事など、風呂場に連行された私は知る良しもなかった。
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