始まりの街
崖から見下ろした先に、小さな砦が見て取れる。
しかしそこは、神殿に見える建造物を中心に四方を砦に囲まれた、とても街とはいえない場所。
疑問の答えは思いつくわけもなく。
「なあ、ホムラ。ちびるなよ?」
子供の頭で思考を巡らせていたせいか、私はアリューミアの言葉に気づくのが遅れ、
「私は遠回りしようって言ったんだけど……ごめんね。少しの辛抱だから」
「え?は?」
なんでという暇すら与えられず、私を抱え、彼女たちは躊躇う事なく崖から飛び降りた。
(嘘だろ!?)
正確に述べると崖の頂上から足場になりそうな所へと飛び移っていき、崖の下までという事なのだろうが、なにぶん二人は足が速い。つまりは必然的に降りるのも速いのである。
気分はさながら絶叫マシーン。
「おし、無事到着! ミーリア。ホムラは大丈夫か?」
「わ!ホムラちゃん大丈夫!? どうしようアリューミア。ホムラちゃん涙目になって小刻みに震えてる! やっぱり人間の子供には刺激が強かったんだよ!!」
「うお。マジだ!いや、さっきのちびるなよってのは冗談で--ごめんなホムラ!私がガキの頃はこんな感じで遊んでいたから喜ぶと思ったんだ」
子供の頃のアリューミア、超デンジャラス……。
「だ、大丈夫です。ちょ、ちょっといきなりだったもので…… タノシカッタデスヨ」
ここは男として、大人として強がって見せる。まあ、体はもう子供なのですけどね。
「ほら、ホムラちゃん無理しちゃってるじゃない!」
いえ。無理なんてしてませんよ。
そんなこんなで、アリューミアにはしばらく謝られ、ミーリアに慰められる事数分。私たちはようやく街への歩みを再開した。
「ほら、門が見えてきたぞ」
森をさらに抜けて見えてきたのは跳ね橋をおろし、
遠くから見た時は小さくも思えたが、近くで見たその壁はとても巨大。
「アリューミア。一応おじさんにホムラちゃんの事伝えておくね」
「ああ。頼む」
おじさんとは誰のことだろう。そうミーリアの顔を覗き見ているとまた“あの鈴の音”が凛と響く。
先ほど聞いた鈴の音も、なんらかの連絡手段。例えば一度耳にした『念話』というものから生じた副産物なのかもしれない。
「うん。じゃあおじさん。また後でね」
「おっちゃんはなんて?」
「時間はあるから寄って行けって」
「お。お前らにしてはお早いご帰宅だな」
何か大事な話を聞いていたのに、男の声によって話は遮られた。
見ると、一人の門番のような姿をした男が関所からこちらへと近づいてくる。それを見て、アリューミアは膝の先を軽く上げて、
「よっ、ディック。私たちが早帰りしたら何かまずいのか?ん?」
「いや。お前ら二人が外に出る時は大抵数日は帰ってこないもんだからな。賭けをしてたんだよ。けれど日帰りにかけてたやつなんてだーれもいねぇから、ご破産よ」
「人様の冒険で勝手に賭け事するなよな……」
「まあまあ。これでもお前たちお信じてるからこその賭け事なんだ。許してくれ」
アリューミアはため息を一つつき、彼から目を逸らす。その視線を追った先は検問所の中。男たちが数人こちらを見て、各々腕を顔の前に軽くあげるなどして申し訳なさそうに謝っている。
「まあ別にいいけど程々にな。ああ、そうそう。こいつのことで後でホルランドのおっちゃんに会いに行くから、ギルドに一応申請しといてくれ。」
「こいつ……? て、なんだその子供は?」
ディックはミーリアに抱かれた私を目を凝らすように見つめ、指を刺しアリューミアを見て問いかける。
「まあ、訳ありだ」
「ほー。まあ見た感じ危険はなさそうだな……。お前らが連れてきたんだ。まあ問題はないだろ」
おい。それでいいのか門番よ。
「おら、あんまにジッと見てやんな。お前のこと変態って教え込むぞ」
「て、おい!俺は変態じゃねぇ!!純情な子供に何吹き込もうとしてんだ!」
男はアリューミアに猛抗議をしているが、面白そう……。もとい、私も男に見つめられいい気はしないので話の流れに乗ることにしよう。
できるだけ子供っぽく。
「へんたいのおじちゃん?」
「ゴハッ!」
どうやら狙い通りにクリティカルヒット。変態への効果はばつぐんだ!
「そうだよ。この人は変態さんだから。ホムラちゃんは近づいちゃダメだからね」
「ミーリアちゃんも子供の間違いを肯定しないでくれ!賭けのことは本当謝るし、アリューミアをどうこうなんて絶対ないから!本当その顔勘弁してくれよ」
その顔とはどの顔かとミーリアを見ても、彼女は可愛らしい笑顔のままだ。この変態は何を見たというのだろうか。
ともあれ、子供の悪気たっぷりの変態攻撃とミーリアの意外な援護射撃でディックの心はボロボロのようで、力なく「ギルドには伝えとくから、もう行っていいぞ!あと、ちゃんとその子には訂正しとけよ!!」と、俯きながら中央に立つ建造物を指差し私たちを通してくれた。
ごめんよ変態さん。少しやりすぎたかもしれなあと少し反省。
「すごい…… 」
「ふふ、すごいでしょ。これが街の人を見送り、時には出迎え。この街を訪れた人たちを歓迎する。私たち自慢の街の入り口」
崖の上から見た通り、その作りはまるで石造の神殿。たがその至る所には細かな彫刻や装飾が施され、見るものを圧倒する。
「ほら二人とも行くぞー」
「あ、うん!ごめんねホムラちゃん。門はいつでも見れるから」
ミーリアは私に一言謝り先にある石の扉の前でまつアリューミアの元へと向かう。
アリューミアが隣にあった腰ほどの高さの石柱に手をかざすと、柱が光り。石でできた扉が轟音を響かせ、しかし遅いわけでもない速さで開く。
「お、ラッキー。地上にあったか」
何がラッキーなのだろうか。それは彼女に続いて中に入ることでなんとなく理解できた。上を見上げれば天井があり、中は円を描くように壁がある、車が五〜六台は入りそうな広々とした空間。地上にあるのは運の良いことであり時には待つことになるのだろう。
ここから私が出した答えは、作りこそ全く違い、原理も異なるものだろう神殿の役割は人を運ぶものつまりは、
「ちょっと落ちてるような感覚があるだろうけど、我慢してね」
こいつはエレベーターだ。
床にびっしりと描かれた紋様が、内から外へとリング状の光を放ち。縁にたどり着くとそれは消えることなく私たちを乗せた床が下降し始めた。
床が稼働している間、もしも壁に触れたらどうなるのだろうと疑問に思うが、想像した通りのことが起こると思うと鳥肌が立ちそうになる。
思考を紛らわせようと、外を眺めたくてもそれは叶わず。しばらくして縁にあった光は消失し、スライド式の扉が開く。
(地下にある街。一体どんな所なのか)
ウズウズと沸き立つ思いを胸に秘め、エレベーターの扉を潜る。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます