外の世界
「私が一応パーティーリーダー……。まあ、二人だけだが…… アリューミア・エマンティットだ。で、こっちの金色の髪をした術師が-- 」
「ミーリア・エコットよ。よろしくね。カエンちゃん」
軽く、膝から上の手を振りミーリアは笑う。
「さて、カエンのおかれた状況は何となしにはわかった事だし。街に戻る前に閉じ込められていたっていう、カプセルを拝みに行こうか」
「は、はい。こっちです」
誘導するため前を歩く。一人でいたらとても動けやしない。でも二人が後ろについていてくれると分かると不思議と勇気が出て足も進む。
「この扉の奥です」
「ふむ、隙間から見た感じ中はあんま広くなさそうだな……。吹っ飛ばすとカプセルも傷つけかねないか……。二人とも、念のために離れて」
「カエンちゃん。こっち」
ミーリアに手を引かれ、私たちはアリューミアから見て左後ろに距離をとる。
左手を壁に添え、軽く一息息を整え。アリューミアは扉の隙間に右手を差し込む。少しすると右腕は紅色に煌めき、
「オラッ!!」
扉は曲がり、壊れて私たちとは反対、正面に続く通路の先へと消えていった。
「ヨシッ!」
良くはないと思います。
(なんだろう。アリューミアさんは狼とか犬系のはずなのに、一瞬指差し確認をする猫のイメージが…… )
正真正銘の力技。彼女は自身の力と技術で扉を文字どうり投げ飛ばしたのだ。
「開ける方法がないとはいえ本当アリューミアは強引なんだから。そういうところ悪い癖よ」
耳栓代わりに頭上の両耳を左手で押さえていたミーリアも腕を下ろし、「近くに気配はないとはいえ、今の音で魔物が遠からずやってくるよ」と若干の呆れ顔。
「魔法で吹き飛ばすにしても中の物がどうなるかわかったもんじゃないんだ。カエンもいるしさっさと調べて街に戻ろう」
室内へと入る。
「こりゃ、大人一人余裕で入れそうだな」
扉を開き、大きく口を開けたカプセルはただ静かに鎮座している。それが私に戻れと訴えかけるような気さえする。
「あった。これでどうにか操作を……」
「どうだ?わかるか? 」
アリューミアの問いにミーリアは首を横に振った。
「……ごめんなさい。これも操作パネルの筈なのだけれど『緊急覚醒時のエネルギー不足によりエラーが発生』て書かれた画面で止まったまま操作を受け付けない」
「他に調べる方法は?」
「ーーメインのコントロールルームがあるみたいだけど場所が何処かまでは…… 」
申し訳なさそうな後ろ姿が居た堪れない。
元はと言えば彼女たちには関係のない話しなのだ。私の身に降りかかった事を一緒に調べてくれるだけでもありがたかった。
「あ、あのーー」
右手を伸ばし『もう大丈夫ですから』と口に仕掛けた、
「アリューミア。この一番下のここ、------て」
今ある私の身長では操作パネルの画面は見えず、ミーリアが囁いた最後の部分は声が小さくよく聞き取れなかった。
「……街に戻ろう」
「え?」
何か神妙な面持ちをし、提案するアリューミアに私は思わず声を上げた。
「ここに居てもこれ以上収穫はなさそうだし。それに、早くお前みたいなガキを安全な所に連れてってやらないといけないしな」
何が書いてあったのかは教えてくれず。アリューミアは笑う。
「ミーリア。悪いけどホムラを抱えてやってくれない?私はほら、鎧がさ」
「別にいいけど。安全の確保はしっかりしてよ?」
「わかってるって」
体が子供でも、精神的には抱っこされるのは遠慮したいが歩いていては間違いなく余計な危険を呼び寄せる。
「できるだけ前を見ていてね」
「わかりました」
ミーリアはとてもいい匂いがした。服の上からでも慎ましやかではあるが十分にわかる柔らかさ。初めてこの体に感謝の念をいだいたかもしれない。
そんな邪念に私が囚われているとはつやとも知らず、
「それじゃあこのダンジョンに侵入した地点で合流しよう」
アリューミアは盾を構え、剣を持つ。
「了解」
返事が合図となって、アリューミアは紅の光を纏った足で地面を蹴った。地面は爆ぜ、彼女は弾丸のように出入り口正面の壁に接近。軽くジャンプしたと思うと壁を蹴飛ばし速度を落とす事なく曲がっていく。
「さて、私たちも行きましょうか。途中に魔石が落ちてたらそれも回収していくから、しっかり捕まっていてね」
「は、はい」
あの速度で今から走るのかと思うと自然とローブを掴む力も強くなる。
ミーリアは私の様子も確かめながら、ゆっくりと駆け出す。
アリューミア程ではないが大人だった頃の私より間違いなく早い。
「しっかり捕まって!」
抱きしめられている左腕の力が強くない。私も指示にしたが手に力を込めた。
私を片手で抱えながら姿勢を低くし、右手を地面に伸ばして落ちている魔石を流れるようにポーチへと仕舞っていく。それを数回繰り返し、
「おぉ。やっときた」
「まったく。魔石が結構落ちてて苦労したわよ。やっぱり壊した扉の音でやってきてたんじゃない?」
「ハハ。悪い悪い」
私たち二人は難なくアリューミアと合流する。
そこは瓦礫の山が高く積み上がった場所。天井が崩落したのか空にはぽっかりと裂けたような大穴が空き、これなら私でも頑張れば瓦礫を登って外に出られそうだ。
「あの、後は自分で歩けます」
「ダメ。この瓦礫をあなたが登るとは危ないし。街までもう少し走るから、じっとしてるのは嫌かもしれないけど、もう少し我慢してちょうだいね」
「ホムラも我慢ならなくなってきてるみたいだし。先を急ぐか」
別に、抱っこされるのが嫌だとかそういうわけではないのだが。寧ろこの時間がもう少し続いたらと思ってすらいる。
そこからは瓦礫を登り、途中、鈴の音色を聞いたような気もするが森を抜けてとあっという間だった。
「あそこが私たちの住む街の入り口だ」
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