目覚めたら廃墟の中でした
--システムの異常を確認。
--直ちに該当箇所を特定。全プログラムチェックを開始。--了。
--プログラムの異常がない事を確認。再度システムチェックを行います。
--エラー。システムの異常を再度検出。これにより当機はプログラム外、カプセル自体の損傷が原因と判断。修復用ロボットの起動を実行シマス。
--修復用ロボットの起動に失敗。
--緊急事態と判断。直ちに担当職員は問題の解決に当たってください。
…………………………規定時間内に決められた手順による操作がない事を確認。規定にしたがい被験体の緊急覚醒プロセスを実行します。
▲
何が起きたのだろうか。確か私は謎の黒服集団に襲われて…… そう。確か口元を何かで押さえられ強烈な匂いがしたと思ったら意識が遠のいたのだ。それから私は……
「ゴボッ?!」
少しずつ、私が意識を取り戻していくと、そこは水中だった。正確にいうと水が満たされた狭い空間のようなところ。何故こんな所にいるのか私はいるのかという疑問はあるが、今はそんな事考えている場合でないとだけはわかる。人間、死んでしまったらお終いなのだ。
なんとかしようともがく。息をしようにも周りにあるのは水ばかり。水中では踏ん張りは利くわけもなく。目の前の透明な壁を力一杯に蹴り飛ばしてもびくともしない。
このままでは本当に死んでしまう。パニック状態の中、偶然上げた右手の先、
「っ!?」
それは、掌が水面から出た感覚を感じた。
そこからはもう必死だった。顔を天井へ向け、足を動かし上へ。
「プハッ!」
ほんの少しの隙間から顔が出た瞬間に、目一杯息を吸う。正直、この瞬間はこの狭い空間にある酸素を使い切ってしまうなどという考えが及ばず、ただ生きたいという思いだけで息を吸い。吐く。
幸いにも自分の入れられた容器に満たされた液体の水位は徐々に低下していきいるのが感じ取れる。
徐々に…… 徐々に、液体が全て排出され、それの完了と同時に目の前の透明の壁が、けたたましい排気音と共に上部へと開く。
「うわっ!」
先程までは命の危機を迎えていたとはいえ、なぜかうまく力の入らない身体は、液体と透明な壁という支えを失った私は重力に従って前のめりに倒れ、顔面を地面にぶつける既の所で両手をつく事で顔を強打するという難をなんとか逃れた。
「えっ?」
最初は自分のだとは思わなかった。しかし、立ち上がろうとした時に嫌でも気付く。気が付いてしまう。。視界に映る両手。その掌が異様に小さい。
そもそも、体を支えられず倒れる直前、いや、今でさえやけに目線が低い。
「ま、まさか。体が縮んだのか?」
ありえない。漫画やアニメじゃあるまいし黒ずくめの男たちに襲われて気がついたら体が縮んでいたとか、どこの少年探偵だという話ではあるのだが。
「--明らかに普段の私の声より高い……。それに…… 」
身体中を動かしたり、眺めてみると明らかに成人男性のゴツくて長くはない、細く短い腕が己の思い通りに動く。開く。
筋肉が発達していない短く細い足を前に動かせば私は前進した。つま先で床を啄めばその感覚が返ってくる。明らかに子供サイズのシンプルな短パンと半袖シャツ。髪を掴んで見ると、辛うじて見えた髪色は、慣れ親しんだ黒髪でなくショートの
転生。一瞬そんな言葉も思い浮かんだが、まったくもって訳が分からない。
周りを見てもそうだ。周囲には机や椅子。収納スペースと言えるものすらなく。あるのは先程自分が入っていたのであろう巨大な容器とそれに繋がれた装置や配線。パイプ。
壁や床は何故だか地割れ、そこから太い木の根や草が生えたまるで廃墟のような場所。
「とりあえず。ここから出ないと」
何が何だかさっぱりわからない。せっかく助かったというのに、このままでは飢えと水分不足でどのみち死んでしまう。
決して広くはない部屋を歩き回りる。扉のような壁の前に立ったが反応はない。
なぜ扉だとわかるのだって?それはその箇所だけが明らかに他とは作りが違うのが一つ。
そしてもう一つの理由がこの扉と壁にできた隙間。長い歳月をかけて大きくなったのであろう木の根が、少しずつ。少しずつ。子供ならかろうじて通れそうな隙間を形成してくれていた。その先に通路が見え、向かい側にも同じような壁があることがわかる。
「今なら通れるか?」
結果だけを言うと。難なく。すんなりと通る事ができた。
部屋の外は車が一台通る事ができそうなくらい広い通路で、ここも至る所から草木が生え、しばらく歩くと、天井が崩れて抜けてしまっているところもあり、そこから入ってくる陽光があたりを照らしている。
(今は日中なのか)
どれくらい時間が経ったのだろか。なぜ私はこんな廃墟にいるのか、まるでわからない。
(人類は幼児化の研究に成功し、私をその実験台にした?)
笑えない冗談だ。そんな馬鹿なことがある訳がない。第一、本当に幼児化の実験をしていたとしてなぜ私を生きたまま放置しているのか。強引に私を拐い同意も得ずに非人道的とも思える人体実験を行なったのだ。もし私が研究者ならばそんな証拠、残しておく訳がない。
--ドンッ!
「ッ……!? なんだ?」
遠い。私の後方から何かが爆ぜるような音が轟いた。それと同時に響く、何かが崩れる音。
そして、一歩。また一歩と近づく何ものかの足音と、
「グルル……」
何かの飢えた唸り声。
(なんだ!? なんなんだよッ!あの化け物は!)
熊よりもデカいその巨体。見た目は狼のようなその黒い獣は、少しずつ私の方へと唸り声を上げ近づき。
慌てて私は辛うじてあった物陰へと口を右手で押さえ、身を屈めて潜む。
(人体実験だけじゃなく動物実験までやってんのかよ。ここは!?)
どれくらい経った?足音は消え、唸り声も聞こえなくなった。
(行ったか?)
そう思った。私はそう願った。しかし、現実は非情なのだった。
「ガッ!?」
背後から襲いくる爆発音と突然の衝撃。小さくなった私の体がそれに耐えうる訳もなく。ボールのように簡単に、吹き飛ばされ回転し、宙を飛び、背中から逆さに壁へ激突して床へと落ちる。
そこまでは本当に一瞬の出来事。
「アアッ…… ッ!」
痛い! 息ができない。
生きているだけでも奇跡に思えた一瞬。逃げなければ死ぬ。そうわかっていても、ただ悶え苦しむことしかできず、身体は言うことを聞かない。ただそこにあるのは、痛みと怪物という形を持った恐怖だけ。
(ああ。死んだ )
痛みで飛びそうになった意識がハッキリしてくる頃には、そいつはもう目の前で、その黒い獣が右前足を振り上げたきった直後だった。
「ミーリア! バックアップ!!」
それは、獣が腕を振り下ろす寸前のこと。
私と獣の間に、一つの人影が身を軽く屈めて滑り込んでくる。
左手に構えた盾は淡い紅の閃光を纏って獣の腕を受け止め、腕を振り払うようにして弾き返し。勢いをそのままに左回りに捻りを加え、ガラ空きになった獣の腹へと左足での後ろ回し蹴りのような格好で足を入れ、蹴り飛ばす。
右手には銀のロングソード。布地のあるオシャレなギンヨロイを纏い私の前に堂々と立った赤毛の人。
「たくっ……。なんでこんなとこにガキがいるんだよ…… 」
(え? 耳?尻尾?)
人だと思ったその人の頭には、獣の耳とお尻のあたりには犬にも似た短い髪の毛と同じ赤い立派な尻尾。声を聞いた限りでは女性だろうか。
彼女は体勢を立て直し、ゆらりと立ち上がり、睨む獣に対して剣を向ける。
「魔物風情がガキに手を出すとは上等だ……。私がテメェをぶった斬ってやるッ! 」
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