10)腐肉の龍-6(セネ村の惨状)

 キンググリズリーの死体を遠慮して受け取らないバルドを自ら褒めて照れるミミリ。その様子を見たレナンがバルドに話す。


 「バルド……そんなに気にするなら、お願いを聞いてくれないか? この依頼が終われば、君達は僕達が居るアルトに来るんだろう? だったら僕達と友人になって欲しい。君達は冒険者だ、ティアにとってもいい刺激になると思うんだ……此れからも良き友人として居て欲しい……ダメかな?」


 レナンの願いを聞いたバルドとミミリは顔を見合わせて笑った。


 「ハハハ! 何だよ、そんな事か? 貴族の子息で超強いお前と友人になれるなんて、コッチこそお願いしたいぜ! だけどそんな事位で5万コルトには釣り合わないぞ?」


 「良いんだよ! バルトとミミリの婚約祝いって事で! お金は必要だろう?」


 あくまで食い下がるバルドに対しレナンが意地悪そうな顔でからかった。対してバルドは赤くなって怒り、ミミリも真っ赤になって俯いた。


 「ばばば、ば馬鹿な事を言うんじゃない!」

 「え? 二人はそういう仲だと思ったけど違うの?」

 「ちち、違わないけど……その、あの……こんなトコで言う話じゃねぇ!」


 顔を赤くする二人を見て、今度はティアがからかった。


 「ホント、お惚気(のろけ)ご馳走様……馬車の中が辛いわ……」

 「もー!! 二人ともいい加減にしてー!」


 意地悪い笑みを浮かべてからかうティアとレナンに、遂にミミリが顔を真っ赤にしながら怒り出し、馬車の中は笑いに包まれた。


 そんな中、一人馬車の中で寝た振りをしている新米近衛騎士ベルンは心の中で叫んでいた。


 (う、羨(うらや)ましすぎる……! 俺も早くアーラ先輩と、惚気(のろけ)てみたい!!)



 そんな平和な時間の中、一行はセネ村に向かう。その後、馬車の中で散々弄(いじく)られたバルドはキンググリズリーの体を素材として回収する事にした。


 但し、キンググリズリーの体は総重量4t位有る為、セネ村に着いてから身体を強化出来るレナンと解体役のバルドの二人で解体し、荷馬車に積んで往復してセネ村に運搬し、セネ村の簡易ギルドで買い取って貰う心算だった。


 ちなみに頭部は討伐証明としてダリルが馬に積んでいる。そんな話をレナン達がしている内に、一行はセネ村に到着したのだった。




 「一体……どうしたんだ……これは……」


 セネ村に着いた際、その惨状に近衛騎士副隊長ダリルは思わず呻いた。


 それもその筈だ。この時代の村と言えば木材で出来た高い壁が村を囲み、魔獣等の外敵侵入防止をしている。

 

 しかしセネ村はその木製の壁は無残にも破壊され、木造の家屋を破壊され倒壊している所も有る。まるで嵐に有った様な酷い有様だった。


 馬車を引くバルドも村の惨状に驚愕して呟く。


 「……ヒデェ……何が有ったんだ?」

 「うぅ……こんなの酷すぎるよ……」

 「……村の皆は大丈夫なのかしら……?」


 バルドに続き、ミミリもティアも村の状況に衝撃を受けた。対してレナンも心を痛めながら呟く。


 「とにかく……村長の所へ行こう……」



 一行はセネ村の中心に有る村長宅を訪ねた。村長宅は簡易的な避難所等の役目も有り、一般的な村民の住居より大きく作られていた。


 馬車を降り、救助隊一行は村長宅の木製ドアをノックした。


 「……失礼する……我々はレテ市から来た魔獣被害の救助隊だ……村長殿に状況を伺いたく参った」

 「……おお! 来て下さったか!」


 宅内からそんな感極まった様な声が聞こえドアが開けられた。中から出て来たのは白髪頭の小柄な老人だった。


 「よ、よくぞ参られた……わしは、このセネ村の村長を務めておりますグーセフと申します。怪我人も多く此処に居ります……どうか中へ……」


 村長のグーセフに促されて村長宅に入る一行達。そこに居たのは……



 「ライラ!!」


 村長宅の居間に木で出来た沢山の簡易ベットが有り、その内の一つに女性騎士ライラの姿が有った。


 ティアは横になっているライラの姿を見た瞬間、大慌てで駆け寄りライラの手を取ったが返事が無い。


 よく見ればアルトから共に来た護衛騎士達も向こうのベットで寝かされているが、ライラ同様意識は無い様だ。


 「……ライラ……皆……どう、して……」


 ライラに声を掛けるティアに村長のグーセフが話す。


 「この方々はこの村を守ろうとして……こんなお姿に……ようやく山場は超えたが、予断を許さん状況じゃ……」

 

 グーセフの疲れ切った声を聞いたレナンが状況を確認する。


 「……グーセフ村長……僕はアルテリア伯爵トルスティンが次男のレナン フォン アルテリアです。そして彼女は僕の姉でティア フォン アルテリアです。この村には魔獣被害の救助隊として来ました。この村で何が有ったか教えて頂けませんか?」


 グーセフはレナンが伯爵家の子息と知って慌てて襟を正し、口を開いた。


「こ、これは……御領主様のご子息、ご令嬢とは知らず、とんだご無礼を……それでは改めて、此処での出来事を説明させて頂きます……」


 そう言って、村長のグーセフはセネ村で起こった出来事について説明した。


 切掛けは2週間程前の事だった。この村に魔獣討伐隊が数十名やってきて、このセネ村を前哨地として停留した。


 その時の討伐隊は冒険者達を中心としており、前祝と称して彼らは陽気に過ごしたとの事だ。


 次の日、彼らは魔獣討伐に出掛けた。村の皆にすぐ戻ると言って……。


 しかし彼らは次の日も、その次の日も戻らず、漸く戻ったのは3日後の朝で、しかも戻ったのは5人だけだった。


 しかも全員が酷い怪我を負っており、5人の内、2人はその日の内に亡くなった。


 残った3人は、動ける様になると必死な形相で、まるで逃げる様にセネ村を後にした。

 

 セネ村に異常が起こったのはその日の夜からで、先ず村で飼っている家畜が襲われだした。


 その内に村の塀や家屋が破壊された。遂に村人が殺される等、大変な事態になった。


 何度目かの襲撃の後、レテ市を収めるエミルの元に陳情に行こうとした所にライラ達、二度目の魔獣討伐隊が来てくれた。


 グーセフの話を聞いたライラ達はセネ村に駐留し、魔獣被害からセネ村を守ろうとしたが……ライラ達が来たその日の夜に恐るべき魔獣はセネ村を襲い、ライラ達騎士を中心とした討伐隊は瓦解(がかい)したとの事だ。


 ライラ達の討伐隊は半分近くが殺され、生き残った者も重症を負い床に伏している状態だと言う。


 「……魔獣は人や家畜を食った後は直ぐには来ません……何日か開けてから襲ってくるのです……この村は幾度も襲撃され多くの民を失ってしまいました……騎士様達は、そんな我々の惨状を見て奮闘して頂いたのですが余りにも……魔獣は強過ぎたのです……」


 セネ村の村長グーセフはそう言って肩を震わしながら呟くのだった……


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