7)腐肉の龍-3(バルドとミミリとの出会い)
救助隊一行はレテ市を出発し、ホルム街道を通りながら出現場所に近いセネ村に向かった。
セネ村はレテ市から約50km程度の位置に有り、救助隊の要員を集めるのに時間が掛かった為、セネ村に到着するのは昼過ぎ時だろう。
救助隊一行は駆除隊を搬送する事も考えて馬車一台と近衛騎士達が駆る3頭の馬で向かっていた。
ちなみに馬車の御者は5等冒険者の少年剣士バルドとレナンが交代で行っており、馬車の客席には同じく冒険者の少女ミミリとティアが座り、何やら盛り上がっていた。
「……半年前から村を出て冒険者に!? 凄い! ねぇ、今までどんな依頼をこなしたの!?」
ティアがミミリに詰め寄って問い掛ける。対してミミリは恐縮しながら答える。
「は、はい、ティアお嬢様、討伐依頼は今までグリーンワームの様な動きが遅くて弱い魔獣ばっかり狩っていました。後は素材の収集とか……私達まだ、5等級ですから……」
「スゴイ! 本物の冒険者だ! 私、将来は騎士か冒険者になりたかったんだ。だからミミリの事、凄く憧れるよ!」
「え? ティアお嬢様は貴族の子女なのに……どうしてわざわざ……危険な事をするんですか? あ! わ、私、失礼な事を!?」
ティアの言葉が余りに予想外だったので冒険者の少女ミミリは素で聞いてしまった。対してティアは明るく答えた。
「そんな気を使わないで。私の事はティアって呼んで欲しいわ。貴方の事はミミリって呼ぶから。私は騎士や冒険者になって皆を守りたい……だからもっと貴方達の旅について教えて欲しいの!」
「そ、それじゃ遠慮なく……ティアちゃん」
「うん、宜しくね。ミミリ!」
こうして同年代の若い冒険者の少女ミミリとティアは親しくなる事が出来た。この二人の友情関係は今後末永く続く事になる。
仲良く話合う二人の様子を見て、馬を引く冒険者の少年バルドとレナンは顔を見合わせ笑い合った。バルドがレナンに話し掛ける。
「……俺はバルドだ。改めて宜しくな」
「僕はレナン、こちらこそ宜しく」
馬車に揺られながらレナンとバルドも打ち解けて話をしている。街道に沿って進む穏やかで平和な時間が過ぎて行った。
◇ ◇ ◇
それは、セネ村が近づいてきた頃だった。
「……何か嫌な感じがする……」
「レナン……どうかしたのか?」
レナンは何かを感じ取って呟く。対して横に居たバルドがレナンに問う。
「気のせいだと思うんだけど……森の方から何か感じる……」
“ヒィーン!!”
レナンがそう言い掛けた時、馬が甲高く鳴き、左右の耳を動かして視線も落ち着かない。明らかに馬も警戒している様子だ。
馬の恐れに気付いた近衛騎士副隊長のダリルが馬の手綱を引き、レナンの元にやってきて問い掛ける。
「……レナン様が言われた通り、何かが居るのかも知れません……馬が珍しく怯えています……如何いたしましょう?」
近衛騎士副隊長ダリルは、領主エミルよりこの救助任務を指示された際、レナンの聡明さについて聞いていた為、迷う事無くレナンに問うた。
対してレナンは静かに答えた。
「ダリルさん、僕達救助隊の戦力は少ないです。何が潜んでいるか分らないのにマトモにやり合うのはダメだと思います。このまま守りを固めて全力で通り過ぎましょう」
レナンの返答を聞いたダリルは、的確な指示をレナンが出した事に、内心驚いたが顔には出さずにダリルは答えた。
「……それが良策ですね。私が先導しますのでレナン様は、私に付いて来てください! ハァ!!」
そう言ってダリルは馬の速度を速めた。他の騎士達も、レナン達が駆る馬車も一斉に速度を速めた。
“ドド! ドドド!”
馬の走る音が大きく響き、馬車自体も急に早くなった事により、馬車の客室に居たティア達が不思議に思いレナンに問う。
「レ、レナン! 急に走り出して一体どうしたって言うの!?」
「森の奥に何か居るかも知れないんだ! ここは逃げ切ってやり過ごす!」
レナンの言葉にティアは憤慨して文句を言う。
「何よ! 意気地が無いわね!」
「僕もエビルマスティフ位なら、そうするけどね! ティア、舌噛むから中に居て!」
「レナンの癖に!」
レナンはティアの安全の為に中に入る様指示したが、ティアの中ではレナンは弟、と言う気持ちが強すぎて素直になれない。
ちなみにレナンが言ったエビルマスティフは巨大な犬型の魔獣で、体長が2m、体高1.2m程の大きさを持ち、集団で襲ってくると厄介な魔獣だった。
全力で走るレナン達。これでやり過ごせれば良かったのだが、ホルム街道横に広がる森が、レナン達が走る速度に合わせてざわめき動く。
恐らく、レナン達に合わせて巨大な何かが森の中を並走しているのだろう。
馬の疲れも有り何処までも全力疾走させる訳にはいかない。しばらくダリルを先導に走っていると、ホルム街道横の森のざわめきは無くなっていた。
「どうやら、やり過ごしたか!?」
ダリルが馬車を走らせながら叫んだ瞬間だった。
“ドオウ!!”
レナン達が走るホルム街道の前方の森より木や枝を纏わり付かせながら、巨大な黒い塊が転がる様にレナン達の前方に飛び出した。
ダリルは声を大にして叫ぶ。
「う、馬を! 止めろ!!」
突如眼前に現れたそれは毛むくじゃらの巨大な塊だった。その巨体が蠢(うごめ)いてダリルたちの方を見据えた。
「ば、馬鹿な……キンググリズリーだと…何故こんな所に…」
近衛騎士のダリル副隊長が驚くのは無理も無い。キンググリズリーは森の奥地に生息する魔獣で人里には滅多に降りてこない。
体長は4m、体高は3mもある超巨大な熊系の魔獣だ。腕の太さなど人間の胴位はある。マトモに駆除しようとすれば良く訓練された30名程の騎士が全滅覚悟で挑む必要が有るだろう。
その巨体を覆う針金の様に太く頑丈な体毛は魔法を防ぎ、近付こうものなら、恐るべき巨椀と鋭い爪により引き裂かれる。
その姿を見て若い近衛騎士のベルンが恐怖で慄(おのの)きながら進言する。
「ふ、ふ副隊長……て、撤退しましょう!」
「馬鹿ね! 並走して追い抜かれたのよ! そんな速さで追える魔獣に逃げ切れる訳無いわ!」
ベルンの言葉に先輩の女性騎士であるアーラが噛みつく。
そんな様子が聞こえてきたティアと冒険者の少女ミミリは馬車の客室から顔を出し驚き声を上げる。
「な、何アレ!? ミミリ、あんな大きいのも冒険者ならやっつける訳!?」
「そ、そんな訳ないよ! あ、あんなの見た事無い……!」
驚いて声を上げるティア達にレナンが落ち着いて話す。
「……確かアレはキンググリズリーだ。中規模災厄指定魔獣で……厄介な魔獣だよ」
「中規模災厄指定魔獣!? 何、呑気な事言ってんだよ! 無茶苦茶やベー奴じゃん!」
冷静に説明するレナンに、横に居たバルドが大声で突っ込む。中規模災厄指定魔獣というのは強力な魔獣が引き起こす災厄の程度によって指定されるランクの事だ。
ちなみに中規模災厄指定は人口200名程度の村を単独で滅ぼす事が出来ると予想される災厄レベルだった……
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