最終話「country to stop.」
「流れ星…?」
あと数時間もすれば朝が来るというのに完全な闇の中に流れていく輝き。
「三つ」
流れていったのは、三つの光だった。ふと、その光を掴もうと手を伸ばした。
◆
最後に三人で集結したあの場所に、港にやって来た。
「まだ、来てないみたいだね」
作戦開始から何時間経ったのか、多分三時間といったところだろう。止国の救助隊たちはまだ来ない。
あっちでも、相当のことがあったに違いない。
「とりあえず、レーリと合流だな」
ポケットから携帯を取り出す。案の定、取り出した刹那——粉々に砕け散った。
「あ〜あ…」
サズファーの攻撃に直接触れたわけじゃないが、その圧力をどこかで少し喰らっていたはずだ。むしろ触るまで粉々にならなかっただけマシというほどに苛烈な殺し合いだった。
「大丈夫かな、レーリ」
結局、あの戦いが終わるまでレーリが合流することはなかった。和束の話では街から抜けるぐらいで別れたと言っていた。
「門の場所に戻るか?けどサズファー倒したこと、あいつは知らないし」
「こっちから探そう、きっと街にいる」
今の和束の目、これからも記憶に焼き付くだろうと確信した。
「和束、変わったな」
「…何が?」
「怖い…と言ったら違うな、そんなギラっとした目、昔はしなかったろ」
ずっと優しい目ばかりを人に向けている奴だった、事実そういう性格なのだから——和束の目は嘘をつかない。
「ロボハンは変わんないね」
「ほっとけ」
「でも、色々あった目をしてる」
「まぁそれは…その通りだけどな」
そうか——俺もいつの間にか色々辿って来てたんだな。
…
あの不終の残党、アドリーの死体を埋葬してすぐ、ニュートラルの場所に戻って来た。
そこに童楼咲葉の姿はなかった。
「…どっか行った…てわけじゃなさそうだ」
土の熱い地面に一切れの布が落ちていた。それは童楼咲葉の身につけていた水色の柄がついた着物の布だった。
「千年近く、頑張ったな」
労いの言葉、かける場所を見失い——たった一切れの布にそう言った。
ニュートラルは完全に停止、それどころか腐敗し今にも崩れそうな形をしている。
「これで過去の遺産はこの世から消え失せる」
世界の人々からすれば平穏に潜む認識できない恐怖ではあるが、それがまた一つ終わりを告げる。
ニュートラルの外壁を拳でコツンと叩いた。ヒビは広がり、大きな揺れとともに粉々に壊れ始めた。
「これで終結…ってわけにはいかないんだろうな」
"子供達"が帰ってくるまで、戦いは終わらない。
"あとは任せます、アスヤ"そう言って彼女は消え去ったのだと、その空間が教えてくれた。
「…あぁ、任せとけ」
人は楽園に住むことはできない。楽園を作るのは容易だ。そして、入ることも。しかし、いずれ人はその楽園から出る日が来る。だから楽園は完成しない、終焉を怯える者がいる限り。
童楼咲葉という人物は、ある意味そういう人間だったのかも知れない。楽園の完成を諦め、虚無の終焉を拒み続け、人の願いを汲み取り続けた"希望になりたかった女"———。
そんな奴はもう、ここにいない。
これからは、未来に現れる子供達のために。
不完全で、永久とは言えぬまでも長い、人の手が必要な楽園を求めることになるだろう。
…
「レーリ!」
ボロボロで尻餅をつき、服を破った布で傷の応急処置をしている遠く背後から和束の声がした。振り返ると、そこにいたのは同じくボロボロの二人だった。ロボハンに至っては隻腕になっていた。
「サズファーは?」
「倒したよ、流石に大変だったけど」
「ごめん、合流できなくて」
「別に、何があったかは見ればわかるし」
和束が目を向けたのは地面に倒れ込む、ミーレ・イクツガの姿と傷だらけの私。
「戦ったんだね、よく——」
和束が少し心配そうな顔をした時、ロボハンが遅れてやってきた。
「負けねーよレーリは、そいつとやるの二回目だったろ?」
これで、ようやくまた三人が揃った。
「聞いて、二人とも。リラを…助けるわ」
ロボハンと和束は、ゆっくりと頷いた。
私は乗り越えた。
母の死を、あの戦争を、師の戦死を、この戦争を?
全てが正解で、全てが不正解だ。
私が乗り越えたのは私を取り巻く私自身。
「止めるための国」
正義の国、ここがそう言われ始めたのはいつからだっただろうか。
生まれた時からここにいる、一番知っているはずなのに私は全然知らない。
今から数百年前、度重なる大戦の終結に痺れを切らした人類が肇国した抑止力。
この国の役割は単純、どこかで戦争が起きたら止める、ただそれだけ。
それ以上は知る必要はない。
それ以上は知らされていない。
だから私は知り続けた。
この国の、止国の真実を。
あの日。リラが私の付き人になった日のことを、よく覚えている。
思えば、あの日から始まった。
「あ、あの…」
「…ん?」
今回は、後ろから声をかけられた。
少しだけ幼い声。
「…誰?」
振り向くとそこには、三歳くらい下の、十三歳くらいの女の子が立っていた。
「あ、あの、付き人ってもう決まってますか…?」
「え?」
そこにあった無邪気、どこまでも無邪気で透き通っていた。
私自身、リラに感じるものがあったのだろう。それは目的に近づくきっかけではなく、私の向かう場所へ背中を押す小さな手。
出張所についた日、私はリラを連れて屋上に出た。
リラに「私は消えない」、そう告げた夜。彼女の手を引いて星の下に出た。
これから増え続ける敵を前に、私は消えずにいられるか——そんな不安はあった。しかし安心できる理由もまた"リラ"という少女にあった。
「レーリさん、あの星」
リラが目を向けた星、一際輝く恒星。
「リゲルって星、綺麗でしょ」
「…はい、すっごく」
私は、消えない。そう誓ったのに、少女の手を離した。少女は遠くへ。
たとえ私がこれから一万年生きたとしても、きっとそれは人生で"一番の後悔"。
そうだ、思い出には続きがある。
「もし私が消えてもあなたはあなたの足で歩くこと」
「…レーリさん?」
「できる?」
「…え…っと…わかんないです…」
リラの手で始まったのは私の物語で、リラの物語じゃない。きっと彼女は自分のページを開けていないのだと、確信した。
「あなたは私の付き人、今は私のために行動して…私がいなくなった時は——」
「そうは、ならないです」
口を挟むようにリラは小さくはない声で、キッパリと断言した。
「私はレーリさんのために行動します…レーリさんがいなくならないように」
星は静かに祝福する。
…
百年、一千年、一万年、いや永遠か。無限に続く世界の中で一人、そんな才能を持つ男が生まれた。
"サズファー"
男が持つ最強の自覚は幻想ではなく、絶対的な力と徹底的な判断力からくる確かな事実。
そんな男が止国を壊滅寸前に追いやった人物となるのは、必然だった。
止国という国の目的、"戦争の抑止"。それを最も体現し、嫌悪し、戦争そのものの壊滅———人類の全虐殺へと乗り出した。
それはサズファーの生まれ持った狂気的な面がそうさせたのではない、最強として止国という地に生まれてしまったが故の結果。
「サズファー」
サズファーが金階級になり、それなりに時間が経った。
最初から能力値がかけ離れていた俺は、彼に離されているという感覚はなかった。それは何よりも大きすぎる差だから気にすることはない。
「お前か」
昔から思っていた、金階級まで上り詰めたこの男に"熱"はない。ただ機械的に与えられた役目を全うしているだけ。
ロッカー室でタオルを肩にかけ、片手に空になりかけのペットボトルを握ったまま座っていた。
「サズファー、お前さ。アーブストルクの作戦、参加したんだよな」
「あぁ、それがどうした」
「…いやまぁ、どうだった…って言うと、なんか変だな」
「別段、気にすることもなかった」
「そうだよな、悪い、変な質問した」
気の迷い、この無愛想で何を考えているかわからない男のことを少しでも知ろうとして勝手に口が動いて言い出した疑問だった。
「いや、一つ不思議な娘に会ったな、バーナーの連れてきた子供に」
サズファーが長い前髪から、鋭い眼光を覗かせた。
「…子供?」
「レーリ・クラーク」
クラーク、聞いたことのある名だ。
過去にあった宗教絡みの戦争、原因不明でジリ貧の戦いを根幹まで突き詰め命を賭して終わらせた人間が、そういう名前をしていた。
「その子供が、どうしたって?」
「俺の遠縁であることは知っていたが、あそこまで一緒か———とな」
「一緒?」
サズファーが見つけた、少女に対する自身との共通点。
「全てを肯定する目、いや…否定できない目だな」
そう語るサズファーは知っていた。自身と似通っている少女は自身と対極に位置することを。
「確かに…お前と似てる、つまり決してお前とは相容れない」
サズファーがその言葉に反応するようにその場で立ち上がった。
「危険だな」
「…危険?」
「戦争という愚行、例え終わらせたとてそれを始めた人間は何事もなかったかのように生き続ける…その地獄に疑問を、否定の意思を持つのが当然だ」
「それは、そうだが」
「人を否定しきれない人間が、そういう過酷な状況で揺らいだ時——そいつは自滅を選ぶ、道連れという自滅」
「———お前とは対極に位置して、お前が危険というその少女、お前が敵にした時一番厄介…ってことか?」
知っていた。サズファーが少女を危険と断じるのは、その他大勢からの視点という話だけではない。それもあるが——サズファーにとって少女はとてつもなく危険、そう感じたのだろう。
「…知っていたか」
サズファーがいつか、止国という基盤に牙を向く、ずっとそんな気がしていた。その言葉はその気を確信へと変える。
「俺を、殺すか?」
「いや——お前が止めるというならそうしろ」
サズファーはあろうことか、俺を横切り廊下へと続く扉を開けた。
「死にたくなければ、止国から出て行け」
「…できるかよ、俺は金階級じゃないんでな」
「そうか」
敵としても、味方としても見れなくなったサズファーという男はそう言って廊下に出た後、ドアを閉めた。
「俺が殺さなくともお前はいつか死ぬ、ウェール」
ドア越しの籠った声、俺が最後に聞いたその男の言葉だった。
「友人一人救えない奴が、のさのさ生き延びるつもりねぇよ」
堕ちていく友人を引き止めもできず、何が人を救う兵士、戦争の抑止力だ———と唇を噛み締めた。
…
イクリスに携帯から電話をかける。ワンコールもかからず彼女は応答した。
「——アスヤ、状況は?」
「爆弾は止めた、童楼咲葉がその時に——あと
不終教のアドリーって奴との戦闘で何人か、銀階級の奴が死んだ」
「…そうですか…できるだけ、その人たちの身元を確認して報告してください」
「分かってる、遺体を移動させるから、タグもその時に回収する」
電話を切り、アドリーに殺された兵士たちの遺体のもとへ歩み寄る。
その中でも特に綺麗な遺体、その首からかけられた銀色のタグをひっくり返した。
"ウェール・ルイス"
「そうか、リーズナーの…」
戦争でもないというのに、今日は何人の———。
「アイツの…サズファーのタグも、持ってきてやるからな」
くだらない情に、俺は流されている。こういうことを人は残酷な美しさと言うのだろう。
戦場における綺麗事。
…
「レーリ、分かる?」
和束が門をぺたぺたと触り尽くす。私はリラの体に異常がないか調べていた。
「リラと話せた時はあっちから繋げてくれただけだもの、私はさっぱり」
「サズファーは副総督の呪いとかで繋ぐって言ってた、和束——腕」
ロボハンにそう単語を述べられた和束は、布で包まれていたロボハンの片腕をパスした。
「とってたの…?腕」
「そりゃまぁ…一応俺の腕だしな…捨ててくるわけにもいかんだろ」
ロボハンは片腕で自分のとれた片腕を門の石に押し付ける。焼けたように変色した片腕は、その力の圧力でボロボロと崩れ始めていた。
「ロボハンは全身に残酷呪が寄生してるから、時間が経てば生えてくるよ」
「…それはそれで嫌だな、なんか」
「サズファーも一緒、倒すのが遅れてたら僕たち詰んでたよ」
和束の"呪いを見る目"は、本人の観察眼とマッチして異次元の領域に達していた。
最初から和束が帰ってきていたら、どれほど情報が早く集まったことか———。
「レーリ、和束」
ロボハンが門を見つめて名を発した。確かに感じた、門が震えた。
風が髪を揺らした。
「中は未知数、無限の空間、必ず入った時一緒にいられるとは限らない」
「まぁ、帰って来れる保証もないよな、どうする?俺だけ行こうか」
「ダメ、リラを見つけられるのは私だけでしょ」
その時、和束が私の手を掴んだ。
「レーリも、ロボハンも、もう一人にはしないから」
"三人で行く"
結局、どう転んでもその結果になっていただろう。
◆
大衆の意見が正しい世界があったなら、それは今で、大衆の意見だけで動く世界。
なら何故、こんなにも間違いだらけなのか。戦争や飢餓を正解だと思う人間はいない。仮にいたとしても決してその大衆には含まれない。
「ミライ、考え事か」
嫌ってほど見た黒い空に浮かぶ白。僕の背後に立つ男。
「ちょっとだけ」
飲み干せなかったオレンジジュースの缶を片手に、無理やり空を見上げている。
僕たちの乗る船はただ暗闇を走る。
「数時間後には副総督のとこに着いてんだ、仮眠ぐらいはとっとけよ」
ロボハンはそれだけ言って、部屋に戻ろうとした。
「ねぇロボハン」
「なんだ?」
「サズファーってさ、結局何しようとしたんだろ」
「…アイツが?」
自分でも曖昧だと思うような質問で引き留める。
「大衆の声が今の世界を動かしてるけどさ、間違いばっかじゃん」
「独裁政治が正しいって言いたいのか?」
「違うよ、大衆で動いても一人で動いても結局間違える…方法じゃなくて、原因が問題なんじゃないかなって」
ロボハンはゆっくりと僕に歩み寄り、柵の上に腕を下ろした。
「原因、つまり基盤自体がおかしいってか?」
「そそ、固定観念?とか絶対に拭えないようなモノにさ」
「…それとサズファーがどう関係ある?」
その質問に対して、僕は上ばかり向いた顔をようやく転換し、じっとロボハンの目を見つめて答えた。
「人間がコレから逃げる方法って他にある?」
…
今でも思う、多分——俺たち人間は"逃げる"という選択ができない。
ミライの言う、固定観念があるとすればこのことだったのかも知れない。
ただ、ミライは明確に一つ間違えている。きっとサズファーが選んだのは"逃げる方法"ではなく"拭う道"だったにほかならない。
「ロボハン」
「おう、開けるぞ」
「レーリ」
「わかってる」
俺たちはこの先ずっと、サズファーとは違うやり方で——非効率で不確定なやり方で、拭い続ける。逃げない道という固定観念に囚われ続ける。
アイツの言う通り、間違いも正解も入り混じり続けるだろう。その正解の中に、そこから辿り着ける未来に、きっと全てを拭う何かが見つかると信じ続けて。
「絶対に、手——離さないでね、二人とも」
友人の言葉に耳を貸し、開いた門の前でその手を取る。
…
"アーブストルク小戦争"
歴史にはこの名で残る戦い、止国の内戦が副総督ミーレ・イクツガの策略によってアーブストルクの貿易港付近で行われた。
後、原因不明とされていた"テイーストルク半壊事件"もミーレ・イクツガの行った作戦の一つだと判明した。尚、被害は止国兵の救助隊によって最小限に抑えられ、テイーストルクの人口から死者が出ることはなかった。毒ガスが放出されたアーブストルクも同様であった。
…
桜が咲いた、季節が変わった。
いつの間にか、記憶を失っていたナレイという
心の拠り所は季節にはなく、むしろ季節が変わることが私を不安にさせた。
白一色の病室、カラフルなんて言葉はどこにもない。そんな部屋のベッドに横たわる少女の隣に、私はずっと座り続けていた。
"リラ・リン"
そんな名前の少女らしい。意識はずっと、戻っていない。
ドアをノックする音が聞こえて、振り向いた時にはそのドアは開いていた。
「ナレイちゃん、来てたんだ」
そこに立っていたのは一人の女性、そしてこのベッドに横たわる少女を助け出しここまで連れてきた一人の止国兵。
私の記憶にはもう止国という言葉はない、彼女が金階級の兵士であるということにも私は関係がない。
「ララスさん、もう体は大丈夫なんですか?」
「私、痛みには結構慣れてる方だと思ってたんだけどね〜流石に辛いモノだね、あ、もう大丈夫だから」
ララスさんはいつも明るい、私にはどうもその笑う気力がなかった。
「その…もう一つ聞きたいことが」
「レーリ・クラーク、彼女はまだ見つかっていないよ」
私は質問の内容を述べていない、しかし察しの良い彼女はいつものように答えを述べてくれる。
「そうですか…」
「捜索はまだ続いてるよ、あのサズファーを倒したんだし、あの子達はこの騒動における最大の功労者だし」
私が"騒動"の内容を知ったのは、全てが終わった後だった。レーリ・クラークが最後の戦いに出向く時、私は状況を理解していなかった。
「ナレイちゃん、君は待つの?レーリ・クラークの帰りを———彼女は、君の姉を殺した張本人になるというのに?」
「私にもう姉の記憶はありませんし、姉のやったことは到底赦されることではない——そう理解はしているつもりです」
「ほんとに?」
「…姉が私を救ってくれたことに対して、私は感謝できなかった、それだけが心残りですけど」
姉は、私を呪いから解放してくれた。未発達だった呪いは完全に体に馴染む前にこの世から消え失せた。
「———私も、レーリ・クラークの帰りは待つつもり。私は好きだからね、あの子のこと」
「会ったことあるんですか?」
「ないよ、でも私の大好きだった人が大好きだった人だからね——優しい子なんだろ〜って」
ララスさんは窓の外、空を見つめながらそう呟いて一呼吸を置いた。
「そうだナレイちゃん、"私の子"見にくる?」
…
ガラスから覗く新生児室、そこには何人かの赤ん坊が並んでいた。
「一番端っこの子、見える?」
「はい、男の子だったんですね」
水色の毛布に包まれ、小さなベッドの上に手をいっぱいに広げて眠る赤ん坊。ララスさんの子供。
「可愛いでしょ」
「ちょっとたくましいですね」
「そう?もうお父さんに似たのかな」
小さな手を強く握り、拳を作っている赤ん坊に覚えたのはそんな思いだった。
「名前、決まったんですか?」
そう私が問いかけると、ララスさんは少しだけ黙って首を振った。
「まだ、ちょっと悩んでる…あの人に似たのなら考えがちょっと変わるかも———"バーナー"そのままつけるのは流石にダメかな」
バーナー・ラステンクス。それが横たわる赤ん坊の父親の名前。
「…きっと、あの子は将来ララスさんから父の話を聞いて誇る日が来ると思います」
「そうだよね、誇れる親がいるってのはいいことだよね」
少し、声が震えたような気がした。ララスさんはまた目を瞑って黙り込んだ。
「また見に来てもいいですか?」
「うん、いつでもおいで」
私は、リラ・リンの病室にまた足を運んだ。
…
海を見ながらタバコを吸っていると、肩をポンポンと叩かれた。
「アスヤ、子供生まれたらタバコやめるとか言ってなかったか」
肩を叩いたのはキイチだった。その声はすぐに判別がつく。
「その子供を今探してるんだろうがよ」
「ほんと、親子揃って放浪癖があるんだな」
「放浪って…お前な…」
事実、親子揃って止国を何年も離れていた。ようやく帰ってきて、ようやく再開したかと思えば、今度はアイツがいなくなった。
サズファーとの戦いの後、門を利用した和束優、ロボハン、レーリの三人組は痕跡一つ残さずにどこかへと消えた。
「帰ってくる、探さなくてもな」
「根拠あんのかよ、それ」
「ある、俺が帰ってこいってアイツらに言ったからな」
キイチは和束とロボハンの教官であり、親である俺よりもアイツらと一緒にいた。
その言葉の方がきっと信頼できるだろう。
「なら、帰ってくるか」
対して吸っていなかったタバコを灰皿に入れた。悩みも、不安も、あの戦いの中じゃ絶えず頭を駆け巡った。でも確信がある、アイツらが帰ってきたらそんなことはどうでもいい、ということだ。
「あ、そうだ——次の総督のことなんだが」
「総督?あぁ、公表したもんな、なら決めなきゃいけないか」
「いや、イクリスをそのまま総督にすればいいだろって話になったんだがな、イクリスがお前に決定権を委ねたぞ——会議を欠席し続けた仇がここで来たな」
「アイツ…」
「で、どうするつもりだ?次の総督」
「…候補はあるが、本人に聞かなきゃいけないな」
…
「
部屋でお茶を飲んでいた時、使用人の人がそう伝えに来てくれた。
「私にですか?」
童楼家にまで来る客人はというのは珍しい、私宛というのは生きてきて初めてだった。
それもそのはず、私は生まれてからこの家を出たことがなかった。私のことを知る人はこの家の人間以外には殆どいない。
「入っていいかしら?」
「どうぞ、こちらに」
ドアの向こうにいたのは、見覚えのない女性だった。
「えっと…こんにちは」
「こんにちは、澪ちゃん。私はイクリス、止国兵です」
イクリス、そう名乗る女性は私に握手を求める手を差し伸べた。私は困惑しながらその手を握った。
「今日来たのは、あなたに渡したいものがあって」
「私に、ですか?」
私が手のひらに置かれたのは、ケースに入った水色の布切れ。
「布…着物の柄みたいな…」
「そう、これは着物の一部」
見たことないけど、記憶にはある。そういう布切れだった。微かな気配、お守りを持っているような力を感じた。
「わかります、きっと私に会いたがっていた人の遺したものなんですね」
「…わかるんだ。これ、友人があなたに渡してほしいって」
「イクリスさん、ありがとうございます」
ケースから取り出した布切れを、胸に当ててただ感謝の言葉を述べた。
…
私が病室に入った時、窓から入る風は少女の髪を靡かせた。そこにいた、ついさっきまで遠いところに意識を置いていた少女は、リラ・リンはその風を確かに目を開いて——太陽の光と共に感じていた。
「嘘…」
リラは病室に入ってきた私に気がついて、こっちを向いて——にこりと微笑んだ。
「…おはようございます」
「おはよう、リラ」
…
春風がこの世界を感じられる久々の空気。
青空は祝福をする気もなく、ただいつものようにそこにある。
「…ようやく帰って来れたな、季節まで変わって」
ロボハンが体についた埃を叩きながら、尻餅をついた。
「何ヶ月ぐらい経ったんだろうね…流石に疲れたかも」
和束もグッと背伸びをして、ロボハンにもたれるようにその場に座り込んだ。
私はその場に立ったまま、空を見上げ続けた。
もう帰って来れないと思っていた世界に、またリラと共に同じ時間を歩めるのだと実感した。
「和束、ロボハン」
「ん?」
「どうしたの?レーリ」
「ありがとう」
◆
「ロボハン」
門の中——不思議な空間の中であったのは、どこかで会ったことのある"生意気なガキ"だった。
「…サズファーのとこ、行かなくていいのか」
「最期にロボハンと話しておきたくて、ちょっとだけね」
確かに、最期に何か話せなかったのは少し心残りだった。その気持ちが俺をここに引き寄せたのかもしれない。
「ミライ、どうだ?結果的には満足か」
「うん…まぁ、僕の末路にしては上出来かもね」
ミライは受け入れたような、少し不満な、どっちつかずな顔をした。
「まだ何か?」
「ねぇロボハン。目の前で大切な人が殺されそうになってる時に誰にも負けない力を発揮する…これが当たり前だって思ったことはある?」
「よくわからんな、そんな経験があんのか?」
「…いや、僕はそんなことできなくて、目の前で殺されちゃったよ」
ミライの目に映るのは過去、珍しく普通の人間みたい目をした。
「俺たちなら、その人を殺されずに済んだと思うか?」
「うん」
「そうか、でも当たり前だと思ったことはないな」
「…やっぱりそう?」
「自分の非力が死ぬほど憎くて仕方ないのが人間だ、それは俺たちも変わらない」
サズファーと初めて対峙した時、どれだけ非力を呪い続けたか。怒りが、哀しみが、意志が肉体を強化してくれない悔しさを押し殺すこともできず。
「やだね、やっぱり人間は」
「そうだな」
ミライはその場で少し下を向いて、座り込んだ。そしてすぐにまた立ち上がった。
「もういくよ、ありがとロボハン」
「そうか」
ミライが背中を向けてどこかへと歩き始めた。そして一瞬立ち止まる。
「ロボハン、僕は死んでいい人間だったと思う?」
「…ミライ、世の中には死んでもいい人間なんていない、"死んじゃダメな人間"と"死ぬべき人間"の二択だ」
「それ、僕はどっち?」
「さぁな」
ミライの横顔、口元が緩んでいたのが見えた。そのまま何処かへと少年は消えた。
少年は、いつしか自分の不幸を呪っただろう。しかしその不幸を最期まで捨てきれなかったのは、不幸がアイツを俺たちに引き合わせたから——なのだろう。
もし少年が幸福であったのなら、俺たちは少年をただの見知らぬ子供として見ていたというのに。
…
「レーリさん!」
リラを見つけた時、先に抱きついてきたのはリラだった。
「迎えに来たわよ、リラ」
「…ありがとう、レーリさん」
抱きつくリラの頭をそっと撫でる。
「リラがいなかったら、私たち負けてたよ」
よく頑張ったと誉めるべきはリラ、私はそう思う。私たちがしたのは私たちとして"当たり前のこと"。そう思うのは私だけかもしれないけど。
リラがやったことは、リラにとってイレギュラー続きな事柄なのだから。
「帰ろう、リラ」
「…はい」
少女の手を引いて、私は歩く。
もう一人、私とリラを見守っているような誰かがいた気がする。いや、誰かはきっと私は勘付いている。その人は私たちが門を出るまで、何かから私たちを守ってくれるような気がした。
…
「優、元気してた?」
目の前に立っているのは、自分が知っているより大人びた姉の姿。きっと、総督として生きて、死ぬ寸前の姿。
「姉さん、久しいね」
姉は微笑む、苦笑いだろうか。そして僕を抱きしめる。
「どうしてこうも、和束家の人間はこう不幸なのかしらね」
「不幸の連鎖に巻き込まれるのは嫌だけど、僕も大切な人のためなら喜んで不幸になるよ」
「…あなたが不幸になれば、それを哀しむ人がいる」
僕が死んだあと、きっとロボハンは悲しんだだろう。レーリもそれを知った後、同じ感情に襲われたと思う。
でも二人は誰かを守っていた、戦場を駆けていた、地上を踏みしめて立ち上がっていた。
「いいよ、僕の大切な人は強いから」
「ならあなたも強くありなさい、不幸にならなくてもその人たちを守れるように」
"彼らが生きている限り、僕に不幸は訪れない"———それは口にはしなかった。きっと退屈で歪な考えだから。
「姉さん、ありがとう」
「行きなさい。その人たちが待ってるんでしょ?」
「うん、じゃあね」
小さく手を振る。もう会えないとしても、会えるかもしれない奇跡に期待する。
…
あれから、何度目かの春。
私は一人街を歩いている。
故郷はなく、旅をするように歩き回り行き着いたところ。そこで私は医療系の学校で勉強をしている。
お金は——思いの外、一生で使い切れるか怪しいほどあり、それなりに時間には自由があった。
今日、私はその自由をまた謳歌するつもりでこうして街を歩いている。
「もう着いてるかな…?」
駅前の広場に辿り着く、平日なので人は少なく、見渡しやすい景色になっていた。
その光景の中にバイクのエンジン音が近付いてくる音がする。
「あ…」
ゴツゴツしていて大きなバイク、その上には運転する男性と、その人のお腹に手を回し後ろに乗る女性。ヘルメットで顔は隠れている。
どんどんとこちらに接近して、私の目の前でピタリと止まった。
先に私の方に振り向いたのは、もちろん後ろに乗る女性だった。バイクから降りて、私の前に駆け寄りヘルメットを外す。
「久しぶり、リラ」
「お久しぶりです、レーリさん」
ヘルメットの奥に隠れていた顔は、あの頃と変わらないようで——戦場にいた頃の凛々しさはもうなかった。ロングだった髪はショートに、薔薇の髪飾りはもうついていない。
「レーリさん、色々変わりましたね」
「そう?リラも随分大きく…私より大きくなってない?」
レーリさんは私の隣に並んで、手を物差しに比べっこを始めた。
「あ、あのレーリさん…あのバイクの方は?」
「優、覚えてる?」
運転手の男性はヘルメットを脱がずにバイクの上からこっちを見ていた。
「優さん…?あ、和束さんですね」
「そうそう」
レーリさんは、そう言うとまた少し周りを見渡した。
「ロボハン、まだ来てないの?」
すると、ようやく和束さんはヘルメットを外してこちらに歩いてきた。
「まだだね、あ、リラちゃん久しぶり」
「お久しぶりです、和束さん」
「あれ、リラちゃんレーリより背高いんじゃないの?」
その言葉で確信に変わったのか、レーリさんの表情が少し変わる。
「前までリラは小動物だったのに…」
適当な喫茶店で、私は近況について聞いていた。
「リラちゃんが止国を離れてから、レーリが総督に指名されてね」
「はい、そこまではナレイさんに聞きました」
私は意識を取り戻してすぐ、イクリスさんに二つの選択肢を渡された。
"止国に戻る"か"別の道を進む"か。最初は前者にするつもりだった、レーリさんの付き人としてできる限りは協力するつもりだったから。
ただ、レーリさんがそれを拒否した。答えは単純、私がいなくなるとナレイさんを一人にしてしまうからだった。
「ナレイは元気してる?」
「はい、最近は童楼家によく顔を出してるそうです」
「童楼家?どうして?」
「後々の処理で出てきた咲葉さんの遺品とか資産をナレイさんが童楼家まで運んでいたみたいなんです、そのうち童楼家のお嬢様に気に入られたみたいで…」
「イクリスから聞いた、澪って子でしょ?」
「はい、最近はララスさんの子供を引き連れて行ってるんだとか」
その時、喫茶店のドアがカランカランと音を立てて開いた。そっと覗き込むと、そこにはあの人がいた。
「遅いよ、ロボハン」
その和束さんの声で気がついたのか、はたまた最初から知っていたのかゆっくりとここまで歩いてきた。
「電車乗り間違えてな」
「この前バイクあげたじゃん」
「この腕で乗れると思うか?」
そう言ってポケットから取り出した右手は包帯でぐるぐる巻きになっていた。理由はなんとなく察しがついた。
私たちの持っていた"
つまり門から出るという行為は、呪いを失って当然の行動なのである。もちろん、それ相応の準備——呪いそのものに出てくる意志があったのなら話は別だ。
門の中でなくなった腕を再生し、完全に治りきっていないタイミングで門を出てきたのだろう。
「あと数週間もすればバイクの運転もできるようになる」
そう言ってロボハンさんは和束さんの隣に座った。
「あ、話、続けていいぞ」
「そうだね、止国の続きの話をしようか」
◆
「そう、あなたらしい判断ね」
私が総督に指名されてから数ヶ月後、ようやく私なりの結果は出ていた。イクリスも薄々気が付いていたのか、否定はしなかった。
「ええ、止国は解体するわ」
その決定は可能だった、止国を建国したのは国隣連合であり——今はその組織も機能していない。決定権は和束家から選出される"総督"へ移行していた。
そして今、それは私の手にある。
「理由を聞いてもいい?」
「これから生まれてくる子供たちに戦場を強要することも、今ある国民全員を止国に縛り付けることも、必要ないでしょ?」
「どうして?」
「戦力ならもう十分ある。戦争はいつだって止められるでしょ」
イクリスは窓の外を見ながら、話を聞く耳を続けた。
「将来的に考えて国ではなく一機関化したほうがいいわ、止国の人間だけで続けたら今回のような騒動にも対応は遅れるし、不終教のような厄介な組織との対立も煽られやすい」
「止国の人間が無国籍になるという問題は?」
「元から無国籍みたいなものでしょ」
そう言うとくすりと笑ってこちらを見た。
「そうですね…なら、その問題は私に任せてください」
…
「ほんと、思いの外…止国の人間を受け入れたいって国が多かったのはびっくりだね」
「イメージ的、政治的にはいいでしょうね。世界中に止国の人間がいればある意味抑止力になるわけだし」
政治的な視点で見れば、止国の人間を受け入れることは"戦争をしない"という一種の宣言であり、元から止国と結びつきのあったアーブストルクなどは進んで受け入れた。
「不終教とか副総督の騒動で止国の戦力が知れ渡ったからな、前より戦争しにくくはなったろ」
今までの止国とは、戦争の抑止力でありながらその他国の視点から見た戦力の不確定さから今一つ抑止力としての力が及ばずと言ったところだった。
「元から色々秘匿気味な国でしたもんね…」
「戦力を悟られないってのも大事だけど、強いところはもうちょっと見せればよかったわね」
一機関化した今、戦力のブレは見られるだろう——しかし止国の人間がいるという揺るがない高い戦力が抑止力としての効果は健在。
「不終教の後始末、和束家とイクツガのいざこざとか、やることは多くて疲れるよ」
「…そういえば、今は関係ない話ですけど…和束さんってあのあと金階級に上がったんですか?」
流石に、あのサズファーを倒した人なのだから階級昇格の話はもらっているはず。
「いや、また離れ離れになるのを回避するために銀階級に留めておいたんだ、ロボハンの付き人になれば二人の近くに居られるからね」
「付き人に…そんなズル技があったんですね…」
「たまたまロボハンが付き人を決めてなかったってだけよ、キイチ教官にはこっぴどく叱られたって聞いたけど?」
確かに、誰もロボハンさんの付き人になりたいという人がいなかったのが不思議に感じる。
レーリさんの皮肉にロボハンさんは嫌な顔で答える。
「志望する奴はいたけど、全員断った、それで怒られただけだ…止国の話はもう終わりでいいだろ…飯食おうぜ飯、腹減った」
「逃げた」
「逃げたね」
「逃げましたね」
…
いつの日か乗ったロープウェイ、古びたトランプ。私たちは汚れた思い出の中にある光る物を頼りに、未来に希望を見出しまた歩き出す。
買い物に行き、食べ歩きをし、現状を語り合い、笑う。私たち止国の人間が至ることはないと思っていた光の時間を過ごした。
そして再会のひと時、楽しい時間はすぐに終わる。
夕日が強く街を照らしながら沈んでいく、私たちはまたそれぞれの道へ戻る。
「今日はありがとうございました、レーリさん、和束さん、ロボハンさん」
「リラもね、勉強頑張って」
応援の言葉をかけてくれるレーリさんの後ろで、ロボハンさんと和束さんは何も言わずに小さく手を振っている。
「はい、ではまた」
私が、自分の足でレーリさんたちに背を向けた。夕日の方向へゆっくりと一歩を踏み出した。
「リラ」
その声に、少しだけ振り向いた。
「今は、楽しい?」
「———はい!」
私は、そう今日あった出来事をいつものように日記に記した。これは流れていく月日の中で他と変わらない一日で、一ページ。
私はこれから、まだまだ沢山乗り越えていく。光と希望を糧にして。
…
夕日を背に、リラとは違う方向へと私たちは歩き始めた。
"リラはもう一人でも大丈夫だ。安心した。"私が今日思ったことはそんなこと。
むしろ、一人では生きられないのは私の方だろう。だからこうしてまた三人並んで歩いてる。
「ロボハン、あなた父親に会ったんでしょ?名前は聞いたの?」
「あぁ〜…名前な」
「それ、僕も気になる」
ロボハンは、別れ道を曲がる寸前まで上を向いたまま歩き少し考えた。
「うん」
何か決心をしたような顔をして、ロボハンはその道を曲がった。ポケットに手を入れたまま私たちの方を振り向いてロボハンは言う。
「ロボハンのままでいい」
珍しく、ロボハンの顔が笑っていた。もう彼に迷いはないのだろう。
「そう、なら今度からもロボハンって呼ぶわ」
「僕はどのみちロボハンのままだろうけどね」
「好きにしろ、じゃあな」
ロボハンは手を振って駅の方へと一人歩いて行った。その背中に寂しさを感じるが、おそらくそれは私の勝手な想像。
ロボハンの中で、ロボハンはもう一人ではないのだろう。彼が見えなくなったあたりで、私たちもまた歩き始めた。
「…優、私たち正しいことをしたと思う?」
「どうかな、僕が和束家——童楼の血筋だから言えることがあるけど…正しいことがどうかって言うのは百年先の人たちが決めることだと思う」
正解、不正解、それは歴史になり、結果となり初めて判別がつくモノ。簡単に感じていた法則が、法則の中の当事者になって初めてその難しさに気付く。
「それに——難しくない選択なら、僕たちがすることはなかったはずだよ」
「確かに、そうかもね」
「今は難しい選択を乗り越えた、それだけで十分だよ——副総督のように僕たちは答えを見据えて行動したわけじゃないからね」
あくまでも、私たちがしたのは"回避"であり、何かを求めて戦ったのではない。
「私たちらしいかもね」
「これからは違う、レーリも僕も、自分自身のために戦っていくんだ——そこに求めない戦いはないよ」
私たちはようやく、あの男——サズファーと同じ土俵にたった。目的地は真逆でもそこには確かな答えがある。
「だからさ、レーリ、行こう」
優は私に手を差し伸べる。その手を取った時、私の決意は揺るがないものになる。
ただ、その心は彼女を連れて止国を出たあの日に決まっていたのかもしれない。
「うん、分かってる」
私、レーリ・クラークは和束優の差し出した手を握った。
真実に辿り着く日があるとすれば、それは百年より遠い———ずっとずっと先のことだ。
『Country to stop. 終幕』
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