Everything to stop
第十一話「blood and the future」
大広間のドアを開ける、そこに教官達の姿はなく一人の少年が立っていた。
「君は?」
少年は満面の笑みでこちらを見ていた。
「お初にお目にかかります、副総督ミーレ・イクツガ…僕はミライ」
「さて…どんな骸になるか決めた?」
その台詞を吐いた少年の目は、おおよそ人とはいえない鬼のような目をしていた。
光のない、ただ死だけを見据えている。
…
情報を整理する。
一つ、止国と童楼製薬の関わりは明確に存在する。
二つ、副総督の地位には『ミーレ・イクツガ』という男が居座っている。
「—、あ」
「…ナレイ、憶測だけど少し今思ったことがあるの」
悪寒に近い、寒気がするような嫌な予感がした。
「何、急に…」
「それも含めて説明する、前ロボハンが言ってたことなんだけど…止国は数十年前に投薬実験が行われてた可能性があるって」
ロボハンがあの日、屋上で話したこと。
元はと言えば、父親とその薬品について探るため、テイーストルクの童楼製薬が止国と関係がある可能性を睨んで調査していたのがロボハンだった。
現に父親のことはロボハンが知らなくても私は分かっている、その本人に会ったのだから。
そして童楼製薬は和束家と関わりが深い、そう書かれている以上、止国との関わりも否定できない。
「え…?」
ロボハンは何も間違っておらず、私にも関係のある話だと言っていた。
「人体の永続強化…もしその薬が本当にあるなら…もし、人工的に呪いを作ってるなら…?」
「…まさか」
「筋が通る…それができるなら死んだ人間だって…」
「私も同様、蘇生できたってことね…記憶までは無理でも体は…」
不死性の付与、永続的に身体強化、和束の言葉、死人の蘇生、全てがまかり通る。
「総督は確実にそのことには絡んでない…なら…」
「副総督ね、間違いなく…人工的に呪いが作れるなら半永久的に生きることだって可能なはず…」
ミーレ・イクツガは死んでいない、三代目の副総督ではない。
残痕呪による不死性の重ね掛けにより無理に存命を続けてきた初代ミーレ・イクツガその人だ。
だから存在を明かそうとしなかった、百と数十年生きている化け物など認められるはずがない。
「なら…私にないのは何故…?」
「ミライには血を流すという発動条件があった、つまりナレイはそれを満たしていないだけ…という可能性は?」
「…そうね、確かにそれなら幾らでも辻褄が合う」
その言葉に確信を抱いたナレイは、口をぽかりと開いてとある疑問を口にした。
「—待って、レーリ…今副総督のところに向かってるロボハン達の作戦とかって聞いてる?」
「…えっと、事情を知らない教官の人たちをバーナー先生がうまく別の場所に移して…ミライは副総督の足止め…ロボハンは…」
「—ッ!」
作戦をしくじった、間違いなく。
今語った全てのことが正しければ、ロボハンは残痕呪を持っている可能性がある男と対峙する。
ミライは残痕呪に対する理解がある、副総督が残痕呪を持っていたとしても対応することは可能であるが、ロボハンは違う。
ロボハンが対峙するのは、ナレイと同じく死の谷底からよじ登ってきた、リラの父親であり、私たちが副総督の次に警戒すべき人物。
ミライのように自分から残痕呪の能力をぬけぬけと晒すはずもない、加えて止国の人間というアドバンテージも持っている。
単純な戦闘なら銀階級相手に金階級のロボハンが後れをとるとは思えない。
もしその男が正々堂々、ロボハンと対峙する気なら"確実に"残痕呪を使う。
「まずい…」
「急ぐわよレーリ、ロボハンが死ぬのだけは避けて」
…
「はぁ…」
どうがいても全員あのサズファーと同じ死に方をするだろう、利用されて死ぬ。
止国の人間だけでは、絶対に彼の呪縛は取り払えない。
しかし止国の人間しか彼の目にはないはず、ならそこに例外が一人でもいればいい。
「自然発症の呪い持ちは、初めて目にしたかい?ミーレ・イクツガ」
ミーレ・イクツガの眼中に"ミライ"という人間の呪縛があっただろうか。
自身の腕にナイフを突き刺し、流血させる。
一定量を超える出血量、これで残痕呪は完全となる。
何をもって完全か、それはまだわからない、だが自分の求めているものに辿り着いてこそ、それは完全といえるはずだ。
「…まさか、人工的に呪いを作り出すのにオリジナルを知らずに作れるはずもあるまい」
「—ロボハンから聞いたよ、変な投薬実験してた〜って…薄々そうかなと思ってたけど、やっぱり人工的な残痕呪の開発とはね……誰を"使った"の?」
「何、単純に信仰する神から授かったのだよ」
その男の口から出た言葉は、腹を抱えて、地面を蹴って、壁を叩いて笑いたくなるほど馬鹿げだモノだった。
神、自然、そんなものは人間の常套句。
「…何それ、空の上から呪いが降ってきました〜とでも言いたいの?」
「君は何か思い違いをしているな…明確に形がある神が私にはいるのだよ」
「形がある…神?」
「ああ、告も示唆も幻聴ではない、明確に私を導いてくれる完璧な神だよ」
一つ言えることがあるとすれば、この男の正義感の出どころが分からない。
ただ自分の地位と狂気に縋ってきた人間が、ここまで止国の兵士を超える抑止の感情を持てるのだろうか。
「…ふ〜ん、よく分かんないや」
ナイフを構える、狙うは脳と心臓。
相手がどう動くかよく分かる、出血量と血の再生量の均衡が崩れ、前者が上回っている、時間はない。
ここまでしないと勝てない相手だが、ここまですれば"勝てる"ということだ。
深く息を吸う、体の力を完全に抜いて、死を眼前にリラックスを決め込む。
「—死ね」
地面を抉り、姿を一瞬、完全に風と化した。
…
神が運命から孕んだ天使である自身は、自然現象により産み落とされた必然と偶然の矛盾、善と悪の矛盾を抱いた人の子を導く必要がある、ミーレ・イクツガはそう私を神と称え崇拝した。
その理念はどうでもいい、私はただ求められた通りに行動した、形があり、唯一姿を表す神と彼に言われ崇められた。
「…悪い気はしませんが、荒事は好みませんね」
私の目の前に、椅子に座って下を向いたまま動かない一人の青年がいた。
虚な目であるが生きてはいる、しかし動かない植物のような青年だった。
「ごめんなさい、あなたとレーリ・クラークを会わせるわけにはいかない」
包丁を青年の心臓に突き立てた、気は進まないが刺すと決めた以上はもうやめる気はない。
が、それは動かないはずの青年自らの手で阻止された。
「…あなた、意識があるのですね」
包丁の刃先を掴んだまま青年は何も言わない、私に危害を加えようともしてこない。
ただそれ以上、刃が進むことを許さぬようただ力強く握っていた。
「わかりました」
青年はその言葉に反応して手を離した。
「ですが、何の理由もなく辞めてしまったのでただの役立たずになってしまいますね」
傷の一つや二つなければ、"殺せなかった"の言い訳が効かなくなる。
私は自分の腕にその包丁を刺そうとした、その刹那。
—刹那の間に、包丁は砕けた。
「…驚きました、まだ健在なのですね」
青年が掴んだその時から、包丁は既に壊されていた。
とてつもない力で掴んだのだろう、しかし青年の手に傷どころか血の一滴も付着していない。
もはや人間の域ではないのだと理解した。
「そうですか、無謀な優しさですね…誰も救わない」
…
「スミレトス、お前…」
—目の前にあるのはもう、人間じゃない。
既に目はその男を人間として認識するのをやめている。
正真正銘それは化け物だ、肉塊だ。
「ハハ…ハハハハヒヒヒ…アッハハハハハハハハハハハハハッ!!!!!」
肉声も、人間のものではない、獣でもない。
高らかに舞う笑い声には共感も愉悦も感じない、ただ一つの狂気。
「…A-0401…ッ…どうでずが、ごれが私の目指ず人類の形ッ!」
肌は青と白が入り混じり、赤く血管がくっきりと現れてなんとも"醜い"姿になっている。
「キモいな、勘弁だ」
気分を害する見た目にそう一言、返した。
腰にかけた銃に手を伸ばす。
「拒絶ずる必要ばない、あなだば礎になる…あなたばごうなれずに死ぬ!」
「どっちも勘弁だ、だからお前を殺す」
伸ばした手を止める、コイツは銃では殺せない。
嵐を引き起こすように、地面に大穴を開けるように、全力の一歩で加速する。
男の後ろに周りこむ、後頭部を目掛けて拳を放つ。
「—ッ!」
首を横に振っただけで避けられた、その刹那を完全に読み切られた。
目では見られていない、対応できる時間すら与えているつもりは毛頭なかった、それでも避けられた。
その隙を待っていたかのように、男は背後にいる俺の横っ腹を蹴り飛ばした。
飛ばされた、激痛よりも先に壁に背中が衝突した。
「…ッ—」
吐血、血は一瞬で腹底から上がってきた。
ある男との戦いを思い出す激痛、岩を割り、鉄を砕き、地を鳴らし、空気すら引き裂いた、一撃の味だった。
足にも腕も力は入る、まだ俺の体は正常だと言い聞かせて立ち上がる。
「流石に金階級、一撃で終わらぜではぐれぬか」
数年前に何度も何度も喰らった味、その程度で倒れることは許されない。
「あぁ…今度はヘマはしない…」
ゆっくりと、その足で、男に一歩一歩接近していく。
今度は虫でも分かるようなスピードで。
速さを捨てることはデメリットだらけではない、速さは自分の制御を一時的に放棄する瞬間がある。
それをなくしてしまえば、"相手の攻撃"は喰らわない。
「……」
体に力を入れ、その男の前に立つ。
乱れない鼓動に呼吸は必要ない、ただ生きてその男を凌駕すればいい。
一秒、男の攻撃。
避けられる前提の右からの拳のフェイント、足に力を入れバランスを取り上半身だけを空気に倒し込むことで回避する。
目に頼らない、相手の足を狙えば勝てる状況に持ち込まれたなら誰だって足を狙う。
男の攻撃は当然、足狙いの蹴りだ。
横蹴りをすれば足を粉砕しちぎることができる、そこまで先手が読めたのならやることは一つだ。
足でバランスを取るのをやめ、全身を空中に投げ出す、空中とはいえその足蹴りを喰らえば危ういだろう。
「—ッ」
衝撃に合わせて体を回転させ、そのエネルギーを自身の足に流し男の顔面を蹴り飛ばす。
「—ッ—ア」
反撃、カウンターと言われるものだ、相手からの衝撃はどのような形であれ返すことができる。
一秒二、自身の最大火力をモロに返された時の反応は誰であれ一つだ、怯む。
空気が焼けるほど熱く体に力を入れて、熱い世界を感じるように息を吸って、全てを屠るように照準を合わせ、その一撃はゼプトもヨクトも凌駕する。
男の理想、馬鹿げた理想、狂っている真実を、肉体と共に崩壊させる。
それが今すべき、自身の目的だと痛みによって確信した。
—何かを成し遂げようとする時のお前は強い。
とある男がそう言った、それが本当なのかを今ここで確かめるとその一撃は一つの理想を砕いた。
…
大広間の真下。
地下の中にあったのは、文字通りの"洞窟"だった。
光はなく、天井の高さは歩くたびに変わり、水の音が聞こえてくる。
「どうしてこんな場所に洞窟が…」
バーナー先生も、ロボハンさんも、ミライさんも、レーリさんもきっと今頑張っている。
なら私もただ待っているだけじゃダメだと、決意決めた。
それに私は、何があってもレーリさんを信じるとも決めた。
バーナー先生にも黙ってきてしまったけど、護身用にあの時預けてもらった銃をレッグホルスターと一緒に付けている。
「頑張れ、リラ」
そう自分の胸を叩いて、深呼吸する。
できることなら誰とも遭遇したくない、でもこの先に行けと、誰かが叫んでいるような気がした。
「…きっとこの先に、答えがある……気がする」
ゆっくりとその足を進める、光は段々と失われ、闇だけが広がる空間になっていく。
足音が大きく反響する、窓のない廊下を歩いている、そんな感じだった。
そしてそこにあったもの、それは明らかな人工物だった。
赤色で構成されているが大きく、少し後ろに下がらないと見えないほどの巨大な物だった。
「…これ…って」
本で見たことがある、人間と神域を結ぶ境界線を意味する物。
「鳥居…?」
テイーストルクには神様の家を建てる文化、というものがあると昔聞いたことがある。
いわばそれは、その建物の玄関だった。
つまりそれは、
「この先に…神様がいる…?」
その鳥居の下を、ゆっくりと一歩一歩歩き、先へ抜ける。
特に何も感じなかった、本当に神様がいるのだろうかと不思議になった。
「鳥居は一礼してから通るのが作法ですよ」
知らない女性の声、すかさずスカートの下に隠した銃に手を伸ばす。
「あら、不思議がっていたから神様自ら出てきてあげたというのに不作法なのですね」
奥から出てきたのは、白い服を身に纏った前髪の長い女性だった。
全体的に、真っ白な人だった。
「神…様…あなたが?人間に見えますけど…」
口元が動き、笑った顔して一歩一歩その人も私に歩み寄ってくる。
「ええ、そう言われているだけですから」
「…ええっと、ここの神様なら…その…」
「別に…今の行いは許します」
変わったところはなく、ただの優しそうな人だった。
「ありがとうございます…えっと、その…この奥には何があるんですか?」
「気になるのですか?玉座と一人の青年がいるだけです」
「青年…?もう一人神様が?」
「いえ、彼はそう"言われて"いませんね」
神様とは、この国では人に言われて人がなるものなのかと疑問に思う。
それとも、神様よりも偉い人がいるのだろうか。
「…それにしてもあなた、スミレトスと髪色と目の色が全く同じなのですね」
その人はゆっくりと私の顔の肌に触れ、顔を接近させてきた。
前髪の奥に綺麗な、赤いルビーのような目が垣間見える。
その中心にある黒い点が私を見つめる。
「あの…そのスミレトスの娘です」
「…これは驚きました、あの子でしたか…久しぶりですね」
「久しぶり…あの…以前どこかで?」
話についていけない、この人は一体いつの話をしているのだろう。
「覚えていませんか…六年前ほどなので薄れるほど時間は経っていませんが…」
「—え?」
「ナレイ、スミレトス、"M-Redevelopment"を使用して蘇生した後…あなたが私のもとに運ばれてきました…ですがあなたは自分で自分を蘇生させたのですよ」
真実を語られているはずなのに、どんどんと分からない場所へ導かれているような、そんな話が淡々と続いていく。
「自分…で、自分を…?」
「色々と混乱しましたよ、蘇生された人間はもれなく記憶がなく、一人は…いえ"二人"は自力で蘇生…なので私はスミレトスにはある程度の人格を与え副総督の"監視"を、ナレイには総督の遺書を託しました」
一つ一つの情報が、脳を混乱させる。
「…あのごめんなさい、話にあまり…」
「ああ、一気に話しすぎましたね…奥に来てください、全て話します」
するとその人は、背を私に向け奥へと歩いていった。
「あの、その前に名前を」
足を止め、ゆっくりとこっちを振り向いた。
「名前…名前ですか…名乗るのは九十年ぶりですね…」
唇に指を当て、数秒考え込む。
「私はただの形があるだけの神…覚える必要はありません」
「—童楼咲葉、初代童楼家当主童楼澪の姉です」
「童楼…?どこかで聞いたことあるような…」
確か、レーリさんが童楼製薬だとか、なんとか言っていたような気がした。
「ええ…私は今、童楼製薬の最高責任者です」
—。
それが今、いい情報なのか悪い情報なのかは判断できない、ただそれが"あの人たち"が知らない情報なのは確かに理解できた。
一刻も早く伝えたい、ただ今は今あるべき状況に対応しなければならない。
もう少しで問題のない答えにすら辿り着けそうな気がした。
「—、そこで止まりなさい」
一歩踏み出そうとした時、振り向いたままの咲葉さんがそう私に言った。
「…え?」
その刹那、天井の岩が砕けた。
崩れ落ちてきた石は私には当たらないスレスレのところに全て落ちた。
一瞬の出来事に私は尻餅をついていた。
酷い土煙、視界を開くために手をうちわに風で仰ぐ。
「がぁ…ぎッ…」
破壊され真っ二つになった鳥居と、粉々になった岩の中、ゆっくり立ち上がる。
落ちてきた人間と、落ちてきた"何か"の影が見えた。
先に立ち上がったのは"何か"、その後にもう一人の人間が立ち上がる。
人間の正体、それは
「あ…ロボハンさん…?」
間違いなくその人は、レーリさんの友人の姿だった。
「…お前は…レーリの付き人か…」
「一体何が…?」
「あなたは確か…A-0401でしたか」
破壊された鳥居の上に、咲葉さんは立っていた。
その上からロボハンさんと私を見下げていた。
そしてもう一人の、"何か"を。
「…もう一人は…スミレトス…のようですね」
—その言葉に、もう一度その何かを見つめた。
「スミ…え…?」
「…あれは確かにお前の父親だ、だがもう人間じゃない」
肌の色も、四肢の太さも、皮膚に浮き出た大量の血管も、血の色も、人間のものではなかった。
あれが私の父親、視覚でわからなくとも、感じるようにわかった。
「…嘘」
嘘だ、そうとだけ考えた。
嘘だ、そう信じたかった。
嘘だ、そう誤魔化した。
「スミレトス、あの薬は蘇生の為だけに与えた物ですよ、呪いは使うなと」
「もウ遅いッ!私ハ戻ル気はなイっ!!」
血を流し、叫ぶその姿は獣のよう、目は赤く染まり、片目は完全に潰れている。
「…スミレトス、あなたの理想に異を唱える気はありませんが、——約束を違えろとは言っていませんよ」
咲葉さんが、"私の父親である何か"に人差し指を向けた。
「——乖離は唯一の罪です、あなたはここで」
指先から現れる禍々しい光に周囲の空気が歪み始める。
間違いない、あれは"殺そう"としている。
「待て、スミレトスは俺が殺す、俺が始めた殺し合いだ」
「これ以上、被害が拡大しないように頼みますね…"彼"が気付くと厄介なので」
「…レーリの付き人、あの女は?」
ロボハンさんが私の方へと視界を向けた。
「童楼咲葉、童楼製薬の最高責任者と…」
その言葉に、何かに察したような目をした。
「……ああ、どっちみちこっちは危険だしアイツにお前を殺す気はない、頼めるか」
「わかりました…ご武運を」
私は私のやるべきことを優勢するべきだと、咲葉さんの方へとついて行く。
「…お前の父親は俺には殺すしかできない」
視界を逸らしてそうロボハンさんが口にする。
「いいんです、きっとレーリさんも同じ状況ならそうします」
「…」
…
「今の揺れは…ロボハンか」
ダメだ、今は目の前の、この男を殺すことに集中。
「驚いたな、ただの少年がここまで私に渡り合うとは」
ミーレ・イクツガ、正直言ってこのまま戦えば、確実に血の再生が追いつかず時間切れで負ける。
完全に実力もロボハンより上、ついていけるのは限界出力の未来予知による先読みと身体強化。
「ほんと…こういう時に小さい体って不利だなぁ…」
百五十センチほどの身長、四十キロ前半の体重、血液量なんて高が知れる。
「戦場で油断とはやはり素人だな、君は」
「—!?」
—しくじった、一瞬の思考の隙を突かれて間合いに詰められた。
先読みに気を流し忘れた、せめて受身は取———。
意識が途絶えた。
ただ、何故だろう。
死の味が、しなかった。
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