第22話 イケメンと嘘

 俺は一度深呼吸してから自分の教室へと入る。

 既に昼食終わりのチャイムが鳴っており皆席に着いていた。

 俺は少し正直心配していた。

 暗示の何かの影響があるのではないかと思ったからだ。

 だが俺の心配も杞憂きゆうに終わる。

 みんな得に何かに囚われているような感じではなかったからだ。

 俺は安堵し自己暗示について考える事にする。


 今俺は自己暗示を掛けている。

 掛けている暗示は『どんな状況でも動揺するな』。

 動揺だけなら俺の心臓の鼓動だけの話なので俺に対して負荷が掛かる事はない。

 ただ、これはあくまでも仮で掛けただけだ。

 正直もっと強力な自己暗示を掛けてもいいんじゃないかと思う。

 ただ、欲張るといい事がないことが目に見えているので欲張らない程度にしよう。


 俺の弱点は…俺は俺に自信がない。

 これは自分に自信があればある程度の事で動揺することもなく強く出れるのではないかと思う。

 この弱点を簡単な自己暗示で解決する方法は…。

 俺は午後の授業も聞かずに一生懸命考えた。

 まあ、これしかないよな。 

 

 俺は午後の一つ目の授業が終わると同時に大きめの手鏡を持って男子トイレに入った。

 そして他に人がいない事を確認してから自己暗示にはいる。

 

 俺は右手を鏡と俺の顔の間に持ってくる。

 そして『自己催眠、涼太りょうた、お前はイケメンだ』、俺は指を『パチン!』と音を鳴らす。

 あーやってしまった感があるが試して見よう。


 俺の中でイケメンと言う言葉は全てに対して上位の人類と言う位置にある言葉だ。

 ちまたでは上位カーストなんて言葉が流行っているが、その上位カーストとは頭が良くてイケメンで友達が多いと言うのが俺の中の上位カーストの中身だ。

 そして俺の自信と言う中でイケメン・・・・と言う言葉は俺を心の底からふるい立たせる。


 さあ、授業が終わったらあかねを連れて今日起こった事を超常現象部ちょうじょうげんしょうぶに伝えないとな。


 *


 俺の催眠術は自分でも恐ろしいと思う。

 教室の椅子に座っているだけで自分は出来る男だと思ってしまうほどだ。

 こっこれはいいかもしれないと思った。


 そして授業が終わり俺はあかねを連れて超常現象部ちょうじょうげんしょうぶへとやってきた。

 部室に行くと既に部長のメガネ男子の石田いしだ先輩と女子のくすのき先輩がいた。


 「失礼します。あっ先輩お疲れ様です」


 俺は部室のドアを開け先輩に挨拶をする。


 「あっよく来てくれたね上杉うえすぎ君と進藤しんどうさん」


 先輩の挨拶はそこで終わらず俺にさらに声を掛けて来た。


 「上杉うえすぎ君はここ数日で何かあったのかな?何か雰囲気が違うように見えるんだけど」


 お~先輩にはどうもわかってしまうらしいが俺はあえてそんな事を言う事はない。


 「いえ、得にありませんけど今から話す内容が関係しているかもしれません」

 「それは興味あるね、さっ椅子に座って早速話をしよう」


 俺とあかねは部室の椅子に座り俺は今日会った事を話し始めた。

 ただし、能力に関しては当然のように話す事はないので作り話を話す。


 「俺のクラスで噂されていた超常現象ちょうじょうげんしょうが分かったので報告します」

 「もう分かったのか、凄いね!」


 メガネ男子の石田いしだ先輩は机に身を乗り出す感じで話してくる。

 俺はゆっくりと話始める。


 「俺は先輩達の情報を頼りに自分のクラスを観察していました。すると一人の生徒が自分の言葉を繰り返し最後には友達の肩を叩く行為を発見しました。俺はそれを見た瞬間に”暗示”だと確信しました。暗示は『自分が望む状態』を、相手に繰り返し伝え洗脳する行為です。そして暗示と言うのはとても簡単に解く事が出来るのです。まあこれはどの系統の力も同じとは思いますが、掛けた相手が解くのが一番です」


 メガネ男子の石田いしだ先輩と女子のくすのき先輩そしてあかねも俺の話に聞き入る。

 俺は3人の目を一人づつ見てから話を続ける。

 

 「ただ残念な事にその暗示を掛けていたのが俺の友人でした。俺はこっそり友人を呼び出し交渉しました。お前の名前を出さない代わりにクラスの友達の暗示を解いてくれと…。本来なら先輩達に聞いてから交渉するのですが、俺にとって正直部活より友達を優先したいと思いました。そして交渉の末暗示を解除してもらい。事件は一応仮ですが解決しました。そして付け加えると友人との取引で3年間監視してもいいとの確約もしました。名前を明かさないと言う条件で。報告は以上です」


 俺が話終わるとメガネ男子の石田いしだ先輩は腕を組んで目を閉じて考え込んでいた。

 そして目を開け真っすぐ俺の顔を見てから話し出す。


 「なるほど、そうゆう事だったんだ。まあ聞くだけ無駄だけど友達の名前は明かさないよね」

 「ええ、それが契約なので」


 俺は堂々と答える。  


 「はぁ~上杉うえすぎ君がした事は素晴らしいし責める事はしない。だけど、だけど、とても残念だ!君の友達が暗示を掛ける所を実際の目で見たかった!」


 俺は心の中で笑った。先輩らしいなと。

 まあ普通こんな事通常では見られないからな。

 俺は少し有頂天になっていたが俺の横に座るあかねからは少し冷たい視線が刺さっていた。

 俺はその視線に薄々は気づいていたが話が終わるまではスルーしていた。


 俺は話ながら俺自身が掛けた自己暗示の『お前はイケメンだ』効力による自信を振りまいていた。

 だが、目の前に座るメガネ男子の石田いしだ先輩と女子のくすのき先輩には効果があったが、隣に座るあかねには効果がないと判断した。

 いや、ないのか薄いのかは分からない。

 俺はそれが気になり早めにこの話を終わらせようと思った。


 「先輩、また後日詳しい話を詰めると言う形で今日は終わっていいですか?」

 「あっああ、今日はご苦労様。又、じっくり話を聞かせてくれよ」

 「はい」


 俺は返事をして席を立つと隣に座るあかねも同時に席を立ち部室を後にした。

 俺はあかねと一緒に自宅へと向かう為に学校の敷地から出た。

 そして俺は歩きながらあかねに問う。


 「あかねあかねには俺はどう映っている?」


 これはとても簡単な質問だ。

 催眠術の影響が出ていれば答えは分かるからだ。

 だが、あかねの返事は違った。


 「涼太りょうたはなんか無理しているように見えるよ。自分を大きく見せたいのかな?」


 俺はあかねの返事で理解してしまった。

 あかねには催眠術が効かない・・・・と。

 

 そして俺は今まであかねに掛けて来た催眠術を思い出す。

 

 わああああああああああああああああ!

 恥ずかしいってレベルじゃねぇ!

 俺はやらかした!

 とてもとても痛い男の子だ!

 だけど、なんで俺の横なんかを平然と歩いているんだ!?

 俺は歩きながらあかねの目を盗んで自己催眠を解除する。

 

 そしてこれからどうしようかと。

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