第18話 懐かしい本と気になる人

 俺はあかねに強引に腕を引っ張られる形であかねの家の中へと入った。


 「おっおい、そんなに引っ張らなくても逃げないって」


 俺はあかねに引っ張られながらそんな言葉を発した。

 するとあかねは俺の目をチラリと見て言葉をはっする。


 「迷惑だったかな?」

 「いや、迷惑じゃないけど…」


 俺はこんなあかねを見るのは初めてだった。

 何かあかねにあったのだろうか?と質問しようとしたがあかねから続いて声が掛かる。


 「さっ上がって」


 俺は質問を後にすることにする。


 「おじゃまします」

 

 俺は玄関で靴を脱いで上がる。

 そして俺はリビングに行くものだと思っていたが、あかねは廊下からそのまま階段を登り始めた。


 「リビングじゃないのか?」


 俺は不思議に思い声を掛ける。

 あかねは階段で振り返りながら答える。


 「リビングはちょっとちらかってるから私の部屋に行こ」


 あかねはそのまま階段を素早く上がって行く。

 俺は小学生の頃リビングには上がった事はあったが、あかねの部屋には入った事がない。

 俺は自分でも心臓の音が分かるほどドキドキしながらゆっくり階段を上る。

 階段を上った所にある部屋の扉が半開きになっていて、扉には『あかねのへや』の可愛らしいプレートがぶら下げてあった。

 そして半開きのドアからはあかねの部屋の中が見えている。

 部屋の中ではあかねが少し忙しそうに動き回っている。

 俺はドキドキしながら半開きのドアを開ける。

 

 「ごめんね、自分から誘ったのにちらかっていたから少し片づけてた」


 あかねの手には洗濯物なのか服らしき物がにぎられていた。

 

 「あっ気にしなくていいぞ」


 俺は答えながら初めてあかねの部屋へと入る。

 部屋の大きさは6畳ほどで床はフローリングになっていて、中央にはマットがひいてあり家具は勉強机、本棚、ベッドが置いてあるだけのシンプルな感じの部屋だ。

 あかねの指示で俺は部屋の中央辺りに腰を下ろす。

 そしてあかねはベッドに座った。

 俺は周りを見回しながら口を開く。


 「はじめて入ったけど綺麗な部屋だな」

 「全然そんな事ないよ。余分な物はクローゼットの中に押し込んだから綺麗に見えるだけだよ」

 

 あかねは少し恥ずかしそうに答える。


 「そうか、それで、体調の方は問題ないのか?」


 俺は本来一番最初に聞く質問をした。


 「あっ今はもう全然平気だよ」

 「そうか、なら安心だな」


 そして俺はさっきのあかねの行動を質問する。


 「それで、なんで俺を部屋に上げたんだ?」

 

 俺の質問にあかねはうつむきかげんでボソリと答える。


 「そっその…皆川みながわさんの事とか少し聞きたくて…」


 俺はあかねの返答で今あかねが一番気になっている事がわかったような気がした。

 ようするに俺と皆川みながわの関係が気になるんだ。

 まあ、あかねも女子高生だから恋愛話とかそうゆうのに興味があるのだろう。

 だが残念ながら俺と皆川みながわはそうゆう関係ではない。

 俺は少し話をもってやろうかと思ったがそれはやめにする。

 そして俺は以前あかねに話た通りに同じ事を繰り返す。

 『校舎の裏で皆川みながわを助けそのお礼で食事をし部活に誘った』と。


 「本当にそれだけの関係なの?」

 

 何故かあかねは食らいついてくる。


 「ああ、何度も言っているがそれだけだぞ」

 「でっでも、なんで皆川みながわさんは涼太りょうたの事下の名前で呼んだの?」


 俺はあかねに言われて部室での事を思い出す。


 「それはただのイタズラだよ。あかねがいたからふざけただけだよ」


 俺は笑いながら答える。

 あかねは納得したのかしていないのかは分からないが「イタズラか…」とボソリと答えた。

 俺は話題があまりよろしくないと思いもう一度部屋を見渡す。

 そして俺は懐かしくあかねとの思い出の品を見つけた。


 「なあ、懐かしい本を見つけた」


 俺は本棚のある部分を指しながら語り掛ける。

 あかねも俺の指の方向を向きそこにある物に気づいた。


 『世界の不思議』


 俺があかねと仲良くなる切っ掛けの本だ。

 俺が小学6年生の時に見た本だ。

 俺は一瞬本を本棚から出そうと思ったが思い留まった。

 何故か今その本を見ると何かが変わりそうな予感がしたからだ。

 あかねは本を見つめながら呟く。


 「涼太りょうたと仲良くなった本だね」

 「ああ」


 二人共本棚の本を見つめたまま静かな時間が流れる。

 そして俺はあまり女子の家に長いするのは良くないと思い声を掛ける。


 「俺そろそろ帰ろうかな…」

 

 俺が声を掛けるがあかねは違う返事を返してきた。


 「涼太りょうたって今好きな人いるの?」


 俺は唐突なあかねの問いに少しの動揺と疑問を感じた。

 

 「なんでそんな事突然聞くんだ?」

 「えっただなんとなく気になったからだよ」


 あかねは答えるが少し顔が赤い。

 俺はどう答えようか迷ったが本心を答える。


 「好きかどうかは分からないが、気になる人はいるかな…」

 「だっだれ!」

 

 即答であかねが聞いてくる。


 「いっ言う訳ないだろう!あかねこそ好きな人いるのか?」


 俺は逆に質問してやった。


 「わっ私も気になる人がいるよ」

 「誰?」

 「教える訳ないでしょ」


 まあ当然の返事が返ってきた。

 お互い青春真っただ中にあるんだから当たり前だよな。

 そして俺は悪い事を考えた。

 俺の催眠術であかねの気になる人を言わせてみようかと。

 しかしあかねの気になる人を知ってどうする?

 それを知って俺は平常心でいられるのか?

 俺は悩んだ結果チャレンジする事にした。


 俺は右手をスッと上げあかねの目の前に持って行く。

 そして俺はあかねの目を見ながら指を『パチン!』と鳴らす。


 さあ、あかねよ、お前の心を教えて貰おうとしようか。

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