第12話 脳内に緊急事態発生しました

 俺と皆川涼子みながわりょうこは廊下を歩く…皆の注目を集めながら。

 みなさんどんだけ俺と可愛い子が歩くのが珍しいのですか?

 それともクラスの奴が言っていた通り俺が可愛い子を脅しているように見えるのか?

 まあ、どう見られても問題ないよな。

 すでに俺はえない奴と思われているんだからな。

 そんな思考をしながら俺は皆川涼子みながわりょうこの後をついて行き、教室からは死角になっている廊下の曲がり角まで来た。

 そして曲がり角まで来た所で皆川涼子みながわりょうこは足を止め俺の方へ顔を向けた。

 俺に向けられた皆川涼子みながわりょうこの顔は少しだけ緊張しているように思えた。

 そんな俺は先に口を開いた。


 「それで話って何かな?」


 俺は気づいているにも関わらずそんな言葉を発した。

 俺は彼女を助けた時に言われたんだ。

 『お礼をする』と。

 何かな何かな~楽しみだな~俺は心をウキウキしながら彼女の言葉を待った。


 「さっ最初に昨日は助けてくれて本当にありがとうございます」

 

 皆川涼子みながわりょうこは深々と俺に頭を垂れた。

 頭が垂れると同時に髪の長いポニーテールがバサっと落ちる。

 俺はこの皆川涼子みながわりょうこにポニー皆川みながわとあだ名を付けた。

 まあ当然、心の中でのあだ名だ。


 「いや~そんなにお礼を言われると少し照れちゃうな」


 俺は頭を少しかきながら答える。

 

 「そっそれでお礼なんですが…よっ良かったら私と食事行きませんか」


 いっ今なんて言った!

 俺にどんな言葉を掛けたんだ!

 もう一回だ!もう一回言ってくれ!

 そうだこうゆう時の決まり文句を言おう、そうすればリピートが聞けるはずだ。


 「えっ!今なんて言いました?ごめん、ちょっと聞き逃しちゃった」


 うっうまいぞ俺。

 そして言葉はリピートされる。


  

 「お礼に私と食事行きませんか?」


 神様ありがとう。

 とうとう俺にもが来ました。

 そう今の季節は…春から夏に変わりゆく季節ですけど、少し遅めの春がきました。

 これはそう・ ・!デートのお誘いってやつですね。

 俺このシチュエーションのラブコメやドラマめちゃくちゃ見たり読みました。

 でも浮かれてばかりではいけない。

 美味しい話には裏がある…いや、そうではない。

 俺、上杉涼太うえすぎりょうたとポニー皆川みながわ…いや、美少女皆川涼子みながわりょうこが一緒に歩いたり食事しても問題ないのか?

 見た目が違い過ぎるんじゃないのか?

 俺は自分の容姿を過剰評価はしない。 

 頑張って評価した所が普通だ。

 凹凸おうとつのない平ぺったい民族の顔だ。

 だからこそ俺は彼女に聞かなければいけないよな。

 そう、傷つくなら早い方がいいからだ。

 そして俺は声を発する。


 「俺…見た目良くないですよ。皆川みながわさんみたいな可愛い子と食事なんて行っていいんですか?」


 俺、情けない…でも言うしかないんだ!

 後で『あ~もぉ~さいあく~誘うんじゃなかったぁ~』って思われたくないじゃん。

 こうゆう事は先に聞いておくべきだと俺は思う。

 でも、ポニー皆川みながわの反応は俺の予想と少し違った。

 両手で赤みの掛かったほほを押さえてクネクネしているのだ。

 何がどうなった?と疑問に思った所で彼女が口を開いた。


 「かっ可愛いなんて、口が上手いんですね上杉うえすぎさんて」


 なるほど『可愛い』と言う言葉はここまで女子の心を掴むのか。


 「あと、上杉うえすぎさん見た目悪くなんてないですよ。それに河合かわい君…いや、私に言い寄って来た人を倒す所なんて超カッコよかったですよ」



 <緊急事態発生!緊急事態発生!>


 脳内に【超カッコよかった】音声入りました。

 ニヤケによる顔面崩壊が進行中!

 鼻が極限まで伸びようとしています。

 鼻の皮を引っ張り顔面崩壊を防いで下さい。

 ・・・

 緊急!口がニヤけています!

 両サイドの口が崩壊中!

 頬の筋肉を強化しリフトアップします!

 ・・・

 鼻と口の顔面崩壊は回避されました! 


 脳内に疑似ぎじ上杉涼太うえすぎりょうた発生。

 まったく本人とは別人のイケメンに生まれ変わろうとしています。

 まっまずいぞ!このままでは自我じがたもたれなくなる!

 直ぐに現実に呼び戻すよう脳内に現実の上杉涼太うえすぎりょうた投影とうえいします。

 ・・・・

 現実の上杉涼太うえすぎりょうた投影とうえいに成功!

 疑似ぎじ上杉涼太うえすぎりょうたの発生を抑え込みました。

 脳内自我じがをサルベージュします。

 ・・・・

 自我じがの引き上げに成功!

 上杉涼太うえすぎりょうたの精神を現実へと回復させます。

 3、2、1


 はっ!?

 おっ俺はどうしてしまったんだ?

 確かポニー皆川みながわからとても気持ちのいい言葉を聞いて…いや、過ぎた事を考えるのはとりあえず止めだ。


 「そっそれじゃ何処に食事に行きますか?」

 「あっ駅前なんてどうですか?」


 駅前と言うのは以前俺が行ったカラオケ等とショッピングモールがある場所だ。


 「いいですね」

 「それじゃあ上杉うえすぎさんの週末の予定はどうですか?」


 俺の予定は自慢ではないがいつもオールクリアーだ。

 しかし、女の子と食事に行くような服を俺は持っていない。

 ここは少し奮発して購入しよう。

 そうすると土曜日に服を買うから…。


 「えっと土曜日は少し用事があるので日曜日はどうですか?」


 俺が言うとポニー皆川みながわは少し怪しむような目をしながら口を開く。


 「もしかして彼女とデートですか?」

 「えっ!?いやいや、俺に彼女なんていませんよ」


 突然へんな事を言われ俺は動揺で変な声を出してしまった。

 するとポニー皆川みながわはクスクスと右手を口元に当てて笑った。


 「ごめんなさい。それじゃあ日曜日の午前11時に広場にある時計の下で待ってます。それじゃあ」


 ポニー皆川みながわは笑顔でそこまで話すと廊下の曲がり角から教室方向を確認してから小走りで俺の元から去っていった。

 夢じゃないよな。

 俺は誰もいなくなった廊下の壁に背中を預けてたたずんだ。

 とうとう俺にも遅めの春がやってきたのかなと…。


 俺は心が落ち着いたので自分の教室へと足を動かす。

 そして俺は歩きながら思い出した。

 俺がここに来たのは教室に美少女皆川涼子みながわりょうこが俺を訪ねてきて来た事を。

 

 教室に帰りたくねぇー!

 俺をどんな目でクラスの奴らは見て来るんだ?

 俺のメンタルはそんなに強くありません。

 みなさんどうか俺に構わないでください。

 俺はビクビクしながら教室の後方の扉から静かに教室に入る。

 10人程度は俺の存在に気づいたが俺に声を掛ける人はいなかった。

 まあ、良く考えればそうだよな。

 俺に声を掛ける奴なんて中学からの友達の高木たかぎくらいしかいないしな。

 その高木たかぎも教室にはいないので俺はそっと窓際の自分の席に座る。

 

 最近俺の高校生活がどんどん加速しているような気がする。

 しかもいい方向に向いている感じだ。

 それら全てに関係しているのが俺の得意としている催眠術だ。

 本当に覚えて良かった。

 やっぱり催眠術に巡り合わせてくれたあかねには感謝しないとな。


 俺は何気に窓の外を眺める。

 木々の葉の色が夏色へと変わりつつある。

 今年の夏はいままでの人生で一番楽しい夏にするぞと誓うのであった。

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