第11話 喧嘩強いとか勘違いしそう

 俺は男が右手で殴り掛かってきたのでどう対処しようか考えた。

 なぜ、俺がこんな余裕で考えているかと言うと俺は俺自身に喧嘩が強くなると言う催眠を掛けたせいだ。

 とりあえずいきなり殴るのは良くないよな。

 俺は男の左へよけて左足を出して男の足を引っかけた。

 そして見事に男は俺の足に引っ掛かり地べたへダイブした。

 

 「ぐわぁ!」


 転んだ男は少し土まみれになりながら地べたへ手をついてゆっくり起き上がる。

 そして俺をにらみながら男は口を開く。


 「てめぇ!何もんだ!?」


 おいおい、そうゆう言葉は最初に言うべき言葉じゃないのか?

 俺はそう思ったが俺は男の質問に答えてやる事にした。


 「言っただろ?むさい・・・男から責められている女子を助けに来ただけの男だ」

 「むっむさいだと!てめぇー鏡見た事ないだろ!」


 俺は男の言葉で傷ついた。

 かっ鏡見た事ないだって!

 おっ俺が一番気にしている事を!

 こいつは死刑確定だな!

 俺は激怒するが冷静に男に言い放つ。


 「いいたい事はそれだけか?」

 

 今のセリフカッコよくね?

 うわぁ~これでポケットにでも手を入れてイケメンの顔でにらんだら絵になるんだろうな。


 「ぶざけんな!やってやるよ!」


 そして再度男は俺に向けて右こぶしを繰り出してきた。

 俺は寸前の所でしゃがんで交わし男の腹へ強烈なボディーブローを叩き込む。

 

 「うぉ!」


 男は腹を抑えながら地面にひざをついて倒れ込んだ。

 そのまま男は動かなくなった。

 恐らくだが痛みで気絶したのではないかと思う。

 俺は呼吸を落ち着けて襲われていた女の方に顔を向ける。

 女は俺と男との喧嘩を近くで見ていたせいか両腕で自分の体を抱いて少し怯えていた。

 俺はどうゆう風に女に声を掛けようか迷ったがそれは杞憂きゆうに終わる。

 女が俺に声を掛けて来た。


 「あっあの…助けてくれてありがとう」


 ちょっとビックリした。

 いきなり声を掛けられたからだ。

 女は身長はあかねと同じくらいの160程度で髪はポニーテールの女子だ。

 遠くからは分からなかったがこの子凄く可愛くないか?

 いや俺は普通な感じの女子を助けたつもりだったんだが。

 えっ何故普通な感じを狙ったかって、そんなのは簡単だ。

 そのくらいのレベルの女の子なら俺になびくかなと…うわぁ~自分で考えていて寒いわぁ~

 いっいかんいかん落ち着け俺。

 そして俺は落ち着いて声を出す。


 「いっいや、当然の事をしたまでだよ」

 「そっそれでも本当にありがとうございます。あっあの名前とクラスを聞いてもいいですか?」


 俺の予想外の展開に俺は少し動揺したが俺は答える。


 「1-1の上杉涼太うえすぎりょうただ」

 「上杉涼太うえすぎりょうたさんですね。私は1年4組の皆川涼子みながわりょうこです。このお礼は必ずします。今日は失礼します」


 皆川涼子みながわりょうこと言う女は地面に置いてあった鞄を持つとポニーテールを揺らしながら小走りに走り去った。

 そして俺は自己催眠を解除する。

 こっ怖かった!

 マジビビった!

 正直しょんべん漏れるかと思った。

 俺は今だに地面にうずくまっている男を見下ろす。

 さあ、コイツはどうしようかなと。


 放置して帰るのは簡単だけど後で付け狙われたのでは安心して高校生活を送れない。

 俺はうずくまっている男の両肩に手を置いて揺らしながら声を掛ける。


 「おい!起きろ!」


 俺が数度声を掛けるとゆっくりと男が目を覚まし俺の顔を見る。

 そして男の表情は少し怯えたものになっている。

 俺が声を掛ける前に男は怯えた声を出す。


 「すっすまなかった!こっ今後あの女…いや、皆川みながわには声は掛けない!それで許してくれ!」

 

 俺は破裂しそうな心臓を抑えながら震えないように声を出す。


 「ああ、それでいい。俺はそれ以上は望まない」


 俺はゆっくりと立ち上がり男の元を離れた。

 こっこんなに上手くいっていいのか?

 俺の催眠史上最高の出来のように思えるのだが。

 もしくはただたんにあの男が弱かっただけなのかもしれないな。

 いやー俺、喧嘩強いとか勘違いしそうになっちゃうよ。

 俺は震える足を引きずりながら夕暮れの道を自宅へと歩くのだった。


 *


 俺は自宅に帰り母に頼んで風呂を沸かしてもらい熱い風呂に入った。

 俺は湯舟の中で今日の出来事を思い出していた。

 俺の催眠術の威力は絶大だなと実感した。

 これほどまでに強い力だと学校を制する事も出来るよなとよからぬ事も考えてしまう。

 まあ、そんな度胸もないしやるつもりもないが。

 俺の目標はただ一つ。

 高校で彼女を作り楽しい高校生活を送る事だ。

 その目標に向かって妥協してはいけないんだ。

 俺は風呂から出て冷たい水で顔を洗って引き締めた。


 ◇


 俺はいつも通りにボッチで学校へと向かう。

 特に町の様子が変わった事はない。

 しかし俺の目には太陽に輝く朝の町が眩しく思えた。

 そして俺の予想…いや、予定通りの事が起きた。

 それは昼休みの事だった。

 俺は昼食を食べて自分の席でくつろいでいると声を掛けられた。

 声を掛けて来たのは廊下側に座る顔見知りの女子、メガネ上野うえのだった。


 「上杉うえすぎ君、誰か来てるよ」


 俺はメガネ上野うえのから視線を外して教室の出入口を見る。

 そこには昨日たすけた女子、皆川涼子みながわりょうこの姿があった。

 俺はまずメガネ上野うえのにお礼をする。


 「教えてくれてありがとうな上野うえの


 そう、ここはしっかりと言うべき事を言うのだ。

 ここを言わない奴はモテないと俺の愛読するラブコメに書いてあったからだ。


 「あっうん、いいよこんなことくらい」


 メガネ上野うえのはそんな言葉を残して俺の元から去って行った。

 そして俺はゆっくりと自分の席から立ち皆川みながわがいる廊下の出入口へと足を踏み出す。

 昼休みの教室内では昼食を食べ終わったりまだ昼食を食べている生徒が半数程度いる。

 そしてメガネ上野うえのの行動により俺に皆注目している。


 ヤバイ!ヤバイ!ヤバイ!

 俺こんなに注目されたことなんてないんですけど!

 見られるだけで震えるなんて、俺の心はなんでチキンなんですか?

 親から受け継いだのですか?

 いや、妹はチキンじゃなくてキケンだよなっ。

 俺は一人漫才をしている場合ではない。

 しっかり歩かなくては。

 右手と右足が同時に出ているって事はないよな。

 俺は地に足が付いているのかわからないまま教室の出入口へと向かう。

 しまったぁー自己催眠を掛けておけば良かった…って人前でやるのは自分で決めたNGだよね。

 

 「おっお待たせ。それで俺に用事って何かな?」


 俺は教室の出入口で皆川涼子みながわりょうこと対面した。

 皆川みながわは小声で答える。


 「ごめんなさい昼休み中に。その少し人目のない所で話をしてもいいですか?」


 ひっ人目のない所で話…。

 えっえっこっこれってもしかして、ってやつですか?

 いやいや焦るな俺、そして落ち着くんだ。

 今の皆川みながわの声も小さいが廊下側に座っている奴には聞こえている。

 落ち着いて対処しよう。


 「あっもっ問題ないよ。そっそれじゃあとりあえず、いっ行こうか」


 俺は震える声を押し殺し皆川涼子みながわりょうこと廊下を歩きだす。

 するとクラス内から「わぁー」と声が上がる。


 そして

 「おい、今の可愛い子4組の皆川みながわだろ?北中出身のっ」

 「そうそう、中学時代からモテまくってた女子だろっ」

 「なんであんな可愛い子がえない上杉うえすぎを呼び出したんだ?」

 「もしかして皆川みながわの弱みでも握って脅してるとか?」

 「あっそれありえるよな…」


 お前ら!

 それ全部廊下まで丸聞こえだからなっ!

 しかも、本人に聞こえてるよ!

 はぁー俺、えないと思われているのね…まあ、分かってはいたけど、実際に言われると辛いな。

 俺は歯を食いしばり歩くのだった。

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