第7話 自己催眠かけちゃいます

 俺はベッドで弾む胸に手を当て心臓の鼓動が収まるのをしばし待つ。

 少しすると俺は落ち着きを取り戻し直ぐにベッドから降りて妹の部屋へ壁に耳を当てる。

 妹があの後どうなったか確認するために。

 だが、妹部屋からは得に変わったような音は聞こえず、部屋からは妹の好きな音楽が流れているだけだ。

 俺は妹の部屋の音を聞き安堵した。

 実験の影響はないようだと。

 俺はベッドに寝転がり先ほどの実験の事を考えた。


 俺の想定した通りに催眠は発動した。

 なぜ前回も似たような実験をしたのに前回は失敗したのか。

 まあ前回は妹の服を脱がすような変な事はしていないがな。

 もしかしたら俺の能力が向上している可能性がある。

 確か以前これに似た実験をしたのは1年程前だったが、俺は実験を失敗した後から催眠術の粘度を上げる訓練を始めた。

 催眠術の粘度ねんどを上げる…まあ、要するに目力めぢからの強化に励んだ。

 もしかしたらその努力が今回の実験の成功をうながしたのかもしれないな。 

 よし、これで今回の実験は終了としよう。


 そして次の目標はかなり難しいが遠隔えんかく催眠術にしよう。

 普通の催眠術は掛ける相手の目を見て催眠を掛けるのが通常だが、それを遠隔から…まあ、簡単に言うと少し離れた位置から催眠に掛け操り人形にするのを次の目標とする事にした。

 長い道のりになりそうだな。


 俺はこんな事を考えてると1階の階段の下から母の声が響いた。


 「ご飯の用意するから二人共降りてきて」


 俺は母の声がすると同時に時計を見た。

 時計は既に18時を過ぎていた。

 俺は何時間催眠術の事を考えていたのかと自分にあきれ返った。

 どうせ考えるなら自分にどうすれば彼女が出来るかを考えるべきではないのか?

 俺の年齢は16だ。

 青春真っただ中といってもいい年だ。

 そんな発情真っ盛りの時に女ではなく、趣味の催眠術の事を考えているなんて…。

 いやいや、これは彼女を作る前準備だと思えばいいんだ。  


 俺はベッドから起きて自分の部屋のドアを開ける。

 すると同時に隣の妹の部屋から穂香ほのかが出てきて俺と鉢合わせになった。

 穂香ほのかは俺を目の端にチラリと捉えたが俺に口を開く事なく階段を降りて行った。

 俺はその行動を見て少し安心した。

 催眠術の後遺症はなさそうだと。


 ◇


 翌朝俺は朝食を食べ家を出て高校へと向かっている。

 当然だがボッチだ。

 まあボッチは中学からいつもの事だ問題ない。

 さあ、今日はどんな事が起こるか楽しみだ。


 俺は学校に着き自分の教室に入り窓際の一番後ろの自分の席へと腰を下ろす。

 周りを見渡すとまだ二日目と言うのにいろんな所で友達らしき輪が出来ていた。

 あの輪に入らないと高校でもボッチが確定するのかな…。

 でも俺にはそんな勇気がないけど俺には得意技がある。

 だけど催眠術だけでは友達なんて出来ない。

 俺は友達作りの作戦を考える事にした。

 いや、考えるではなく得意ではないがあれ・ ・をやるしかないな。


 俺は自分の鞄から少し大きめの手鏡を出す。

 俺は鏡で自分の顔をうつしながら思う。

 これをやると少しの間自分が自分でなくなるんだよな…でもやらない事には俺は声を掛ける事ができないんだよな。

 よし!俺は心の中で覚悟を決める。

 そして俺は右手を鏡と俺の顔の間に持ってくる。

 そして『自己催眠、涼太りょうた、お前はあがり症ではなくなる』、俺は指を『パチン!』と音を鳴らす。

 俺はクラス内で男女が集まっている方向を向く。

 心臓の鼓動は安定している。

 俺は少し勇気を振り絞り自分の席を立つ。

 そして男女3人が話している所へ歩いて行く。

 

 「おはよ。話に混ざってもいい?」

 「ああ、いいぜ」


 俺の言った言葉に短髪の男がサラッと返事をした。

 すっ素晴らしいぞ!俺の催眠術は!

 こんなに簡単に声を掛けられるなんて!

 これはいろんな実験をする必要性があるな…まあ、それはいいとして今は会話に集中しよう。


 「俺は上杉涼太うえすぎりょうた、東中出身だ」

 「俺は陣野大輔じんのだいすけ、西中だ、それでこいつらも同じ中学出の上野うえのさやかと木下きのしたゆみだ」

 

 陣野じんのは自分の隣に居る女子二人を順番に指を指しながら紹介してくれた。

 上野うえのさやかと言う女子はメガネ女子だ。

 少しお洒落なメガネを掛けた感じの子だ。

 呼び方はそうだな…メガネ上野うえのかな。


 木下きのしたゆみと言う女子はとても小柄な子だ。

 背がとても小さな子だ。だけど小さい割にはいい体…いかんいかん変な言い方だけど、見た目でちょっとばかしおっぱいの大きい子だ。

 呼び方はそうだな…チビメロン木下きのしただな(笑)。


 だが、俺はそんな女子より陣野じんのと言う短髪の男に違和感を覚えた。

 違和感それは俺と同じ匂いがすると言う事だ。

 あっ決してDTどうていとかそうゆう匂いじゃないぞ。

 俺と同じ異能を使うかもしれないと言う匂いだ。

 こいつは要注意だ。

 女子二人は得に問題ない子達だ。この二人は俺の最初の自己紹介の時に手を挙げた子達だからだ。

 まあ、そうゆう子達がいる所を狙って声を掛けたのだけどな。

 そんな事より話をして仲良くなったほうがいいな。


 「よろしくね」

 俺は女子二人に向けて笑顔で挨拶した。


 「あっうん、よろしくね」

 メガネ上野うえの女子が答えてくれた。


 「それで、本当に坂下さかした先生が男と歩いていたのを見たの?さやか~」

 チビメロン木下きのしたがメガネ上野うえのに聞く。


 「うん、昨日の夜私がコンビニ行った帰りに歩いていると男と腕を組んで歩いている所を見た。あれは絶対に先生の彼氏じゃないかな~。かなり親密ぽかったからね」


 メガネ上野うえのはニヤニヤしながらそんな事を話した。

 担任の坂下さかした先生は歳は20代後半の可愛らしい女性教師だ。

 可愛らしいと言っても大人の女性と言う感じの人で得にいやらしいとかそうゆうのはない。

 

 「いいなぁ~私もそんな彼氏が欲しいなぁ~」

 チビメロン木下きのしたが両腕を自分に絡ませ、少し体をクネクネしながら妄想に入っていた。


 「上野うえの木下きのしたも黙っていれば彼氏の一人でも出来るんじゃね?」

 陣野じんのが二人の女子をおちょくりながら声を掛ける。


 「私達がおしゃべりだとでも言いたいの陣野じんの!」


 メガネ上野うえのが腰に手を当て目つき鋭く陣野じんのに詰め寄る。

 その後、陣野じんの、メガネ上野うえの、チビメロン木下きのしたによる壮絶な言い合い(笑)が繰り広げられ俺はただ茫然ぼうぜんと見ているしかなかった。

 すると予鈴よれいのチャイムがなり俺の第一チャレンジは終わった。

 俺は陣野じんの達に又なと声を掛け自分の席に戻り又手鏡で自己催眠を解いた。


 つっ疲れた。

 やっぱり何度練習しても自己催眠は慣れないよな。

 だが、一応陣野じんの、メガネ上野うえの、チビメロン木下きのしたの三人と知り合いにはなれた。

 まだ友達と言うには壁があるが問題ないだろう。

 そうゆうのは時間が解決してくれると俺は思っている。


 ホームルームが始まり担任の坂下さかした先生より話があった。


 「今日の放課後より一週間部活動の見学が可能です。みなさん入部するしないは別として一度どんな部活が活動しているか見学するといいでしょう。高校の事もいろいろとわかりますから」


 部活か…俺には縁がないものだな…だけど高校は文化部がたくさんある。もしかしたら催眠術のような奇術きじゅつ部があるかもしれないよな。

 俺は昼休みに高木たかぎに声を掛け放課後一緒に回る事にした。

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