第5話 女性への抵抗力が弱い俺

 俺の命令により巨乳の安藤あんどうえみこはトロンとした目をしながら壇上へと上がる。

 そしてゆっくりと俺の左側に寄り添うように立つ。

 俺は左手でマイクを持ち下手な歌を熱唱する。

 左腕のひじの所に柔らかい感触キター!


 ひじは腕を曲げる事によって骨が出っ張って硬くなる部分。

 そこの先端には肉はほとんどなく骨の上に皮が乗っているだけの部分に、女性の上半身で一番と言っていいほど柔らかい部分が当たっているのだ。

 もっもっと寄り添って欲しいが安藤あんどうえみこのまぶたが少しピクピクしている事に俺は気づいた。

 ヤッヤバイなっ、催眠術が切れかかっている。

 俺は命令ではなく手で安藤あんどうの肩を持って少し俺から引き離し、少し距離をとった所で俺は指を『パチン!』と鳴らし催眠術を解除する。


 安藤あんどうはどうして自分が舞台袖に立っているか不思議に思っていたが、斎藤さいとうえりかと目が合ったのかすっとその隣のソファーへと腰を下ろした。


 俺は自分が歌っていた歌を直ぐに停止した。

 だって変だろ?一人でデュエット曲を歌うなんて。

 それに、どうも斎藤さいとうえりかの催眠状態も切れてしまったらしい。

 だが一応俺の欲望は満足した。

 まあ、高校初日だしやりすぎはダメでしょ。

 その後俺は催眠術を使わずにカラオケの間に女子との会話を楽しみたいと思ったが、小心者の俺は上手く女子との会話に参加するのは中々難しかったがそこに丁度カラオケを終えた高木が話を女子達に振ってきた。 

 

 「えみこちゃんとえりかちゃんは中学時代なんか部活やってたの?」


 おいおい高木!いきなり下の名前で呼ぶのかよ!

 コイツの度胸に俺は感激し女子達の答えを待つ事にした。


 「えっとぉ~私は中学時代テニス部でテニスやってたよ」


 少し崩した感じの言い回しで安藤あんどうえみこが答えた。

 あ、あのデカメロンでテニスだと!?

 同じ部活の奴がうらやましすぎる!

 いやいや、彼女は今は高校生で中学よりさらなる発展をげているはず。

 楽しむなら今からでしょ。

 そして次に答えたのが隣に座る斎藤さいとうえりかだった。


 「私は陸上部だよ。小学校から少し足が速かったから中学では陸上やってたの」


 それであの美脚か…それで自慢の足を見せたいからミニスカートにしているのかな?

 それより二人共スポーツか…確か、高木はサッカーやってたよな。

 俺は中一で卓球部に入り一か月後から帰宅部だよ。

 恥ずかしくて言えねぇーだが、ここで催眠術を使う訳にはいかない。

 嘘をついていてもそれはいつかバレるからだ。

 そして俺の予想通り次に高木が答えてその次に俺が答え場がシラケタことはあえて言わないでおこう。

 そしてカラオケの時間が終わり俺は駅前で高木や女子達と別れた。

 

 実はカラオケを出た時に高木から昼飯に行こうと誘われたが俺は用事があると断った。

 用事があると言うのは嘘でこれ以上あの二人の女子といると辛かったからだ。

 まだ女性への抵抗力が弱い俺はカラオケで全精力を使い果たしたのだった。


 春の風を浴びながら俺は駅前から自宅へと歩みを進める。

 昼時とあって歩く人の姿は多いが流石平日とあってそれほどでもない。

 そして俺は商店街を抜けて帰ろうとした時に小さな交差点で、小さな買い物袋を下げた隣の家に住む進藤茜しんどうあかねとバッタリ出くわした。


 「あっ涼太りょうた、友達と遊びに行ったんじゃなかったの?」


 進藤しんどうの第一声に俺は少しだけ動揺した。

 なんでこいつが俺が遊びに行った事を知っているんだ?

 まあ、偶然歩いてく姿でも見たんだろう。


 「あっ行ったけど、もう解散して帰る所なんだ。あかねこそなんだよ。昼食の買い出しか?」

 

 俺達は二人の時は下の名前で呼び合っている。

 決して付き合っているとかそうゆう風ではないが小学校の時にそんな言い方に変わった。 

 そう、あの『世界の不思議』の本を見せてもらったあたりだ。

 なんでこうなったかはあまり記憶にはないのだが、一応隣の良き知り合いと言う感じだ。


 「うん、おかあさんがソース買い忘れてそれで私がお使いに来たわけ」

 「ふぅ~ん、そうか、じゃあ一緒に帰るか」

 「うん!」


 あかねは笑顔で答えて俺の横を歩き出した。

 あかねは既に制服から私服に着替えていて、かなりラフな格好をしていた。

 そんな俺の視線に気づいたのかあかねは自分の服をチラリと見てから声を出す。


 「ちょっと服変かな?近くだから部屋着で来ちゃったんだけど」


 ほんの少しだけあかねの頬が赤くなる。 

 そして俺に対して上目遣うわめづかいをしてくる。

 俺はその仕草に又ドキリと動揺する。

 

 「いっいや、変じゃないと思うぞ。家の近くだからいいんじゃいか?」


 俺はなんとか動揺を抑えつつそんな言葉を返した。


 「なら良かった。それで涼太りょうたは何処に遊びに言ってたの?」

 「高木達とカラオケに行ってたんだよ」

 「達って誰が居たの?」

 

 俺はここで少し言葉を詰まらせた。

 女子達の事を正直に話していいものか…それとも濁した方がいいかと…。

 だが、俺とあかねは付き合っている訳でもないから俺は本当の事を言う事にした。


 「俺と高木とクラスの安藤あんどうさんと斎藤さいとうさんの女子二人だ」

 「女の子達とカラオケに行ってたんだ」

 「まあそうだけど、俺が女子を誘った訳じゃないぞ」

 「ふふふふ。そんなの聞くまでもなくわかってるよ」


 あかねは少し笑いながら答える。

 俺はその光景を見て少しムッとし反撃する。


 「おっ俺だって誘えば来るかもしれないぞ?」


 うっ嘘です。誘う勇気なんて持ち合わせていません。

 そんな勇気があれば今頃彼女の一人でもいるでしょ。


 「おっ言うねぇ~じゃあ、今度涼太りょうたが私を誘う見本を見せてよ」

 「うっ!」


 俺はあかねの反撃に既に撃沈されようとしていたが、俺はここは少し踏ん張る事にした。

 まあ、あかねだから反撃するのだが。


 「まっ又今度、誘う手本を見せてやるよ」


 言ってしまった。

 まあ、そんな事は直ぐに忘れるだろうと思い。


 「よしっ!じゃあ、楽しみに待ってるよ」


 丁度話が終わると同時に家の前まで来たので俺はあかねと別れた。

 又、つまらぬ意地を張ってしまった。

 俺はハァ~とため息を一つ吐いて家に帰るのだった。

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