第2話 催眠術との出会い

 俺と妹の穂香ほのかは肩を並べて学校に向けて歩きだした。

 穂香ほのかの目は少し眠そうなトロンとした目つきのまま俺の横を歩く。

 今、穂香ほのかの頭の中では兄と歩くのは当たり前と言う言葉に支配されている。

 俺は妹の穂香ほのかに「俺の隣を歩いて学校に行く」と言う暗示(催眠術)を掛けた。

 

 だが、この催眠術…いや、俺の掛ける催眠術には決定的な欠点がある。

 それは催眠術の重ね掛けが出来ないのだ。

 一応、催眠術の重ね掛けの練習は妹相手にしているのだがまだ成功はしていない。

 だからさらなる暗示催眠術を掛けるには一度催眠術を解かないといけないのだ。

 でも、今回の目的はボッチ登校を回避する…いや、妹にお仕置きする為だから一応は果たされているんだが…。

 

 なんか情けないよな…妹に頼らないとボッチ登校を回避出来ないなんて…。

 いや、いや、青春は今からでしょ!

 高校での俺は頑張って高校デビューを果たそうと心に誓うのだ。


 そして、俺が何故こんな超人的な催眠術を使えるかと言うと、その切っ掛けは俺が小学生になる時に話をさかのぼる。


 俺は小学1年生の時にこの建売住宅に引っ越ししてきた。

 周りにも同じような住宅が立ち並びたくさんの人達が引っ越しをしてきた。

 当然同じような小学生もたくさん引っ越しをしてきたが、俺と同じ同級生の家は残念ながら300メートル程離れた家だった。

 たかが300メートルだが小学生にとって300メートルと言う距離は少し遠いのだ。

 だが、俺は自転車と言う乗り物を得て遊んでいた。


 俺の家の隣には老人夫婦が住んでいた。

 いつも俺や家族を見ると挨拶をしてくれる優しい夫婦だったが、おじいさんの方が病気になってしまい俺が小学5年生の冬にその老人夫婦は自宅を売却し去ってしまった。

 俺は引っ越しで空っぽになった隣の家を見て少し寂しい気持ちになったがそんな気持ちは直ぐに吹き飛ぶ事になった。

 その年の春、俺が小学6年になる春に新たな住人が引っ越してきたのだ。

 両親の年齢は俺の親と似たような年齢で当然子供がいた。

 その子供は偶然にも俺と同年代の子供だったが、一つ残念な事はその子が男ではなく女だった事だ。

 普通女子が引っ越してくれば喜ぶのだが、小学生の男にとっては男の方が遊びがいがあり優先度は高かった。


 俺の家に引っ越しの挨拶に来た時に初めて会話をした。

 引っ越しの時にチラリと顔は見ていたが初めて対面し会話をしたのがそれが初めてだった。

 親の紹介からその女の子は進藤茜しんどうあかねと言う名前がわかった。


 「同じ小学校に行くからこれからよろしくね」

 「うん」

 

 会話と言うには言葉が少なかったがそれが出会いだった。


 最初俺は積極的には進藤茜しんどうあかねと遊ぶとか会話をする事はなかった。

 正直、照れと言うのが全面にもあったがやっぱり男と遊ぶ方が楽しいと感じていたからだ。

 だが、ある小学校の帰り道にある事が切っ掛けで俺は進藤茜しんどうあかねとの会話が増えることになる。


 「実はこの前私の誕生日だったんだけど、その時にお父さんから『世界の不思議』って本を貰ったんだけど一緒に読まない?」


 俺の心は直ぐに激しく動揺した。

 それは一緒に読まない?の言葉ではなく世界の不思議と言う言葉に動揺した。

 俺は超常現象や不思議な事に目がなくテレビで放送している時は率先して見るようにしていた。

 当然、本と言う情報手段もあったがやはりから入って来る情報には勝てなかった。

 だって、見ているだけで情報が入るからだ。

 俺は心の動揺を抑えて進藤しんどうに答える。


 「俺も一緒に見ていいの?大切な本じゃないの?」

 「え~だってそうゆう本ってみんなで読んだ方が面白いじゃない?」


 進藤しんどうは笑顔でそう答えてくれた。


 「それじゃあ、家に帰ってから進藤しんどうの家に行っていい?」

 「うん、じゃあ待ってるね」


 俺は進藤しんどうと自宅前で別れると急いで母の元へ行き進藤しんどうの家に行く事を伝えた。

 すると母から丁度もらったお菓子があるから持って行きなさいと言われ俺はそれを受け取り、家に入ってから10分程で自宅を出て隣の進藤しんどうの家のチャイムを鳴らした。


 玄関から進藤しんどうが顔を出し声を発した。


 「はやっ!もう来たの?」


 俺は進藤しんどうの言葉に動揺する事無く答える。


 「まあ、隣だからな」

 

 後から考えるが流石小学生の俺と言った所だ。

 高校生になった俺では到底言えないし出来ない行動だ。

 そして俺は進藤しんどうの母親に挨拶し、持って来たお菓子を渡して俺はリビングに通された。


 家の形状は俺の家とほとんど同じだが置いてある家具が違うだけで、こうもイメージが変わるんだと少し感心したが、そんな事はどうでも良くリビングのテーブルの上に置いてある『世界の不思議』の本に俺は目を止めた。

 本の厚さは2センチくらいあるだろうか図鑑と同じ位の厚みになっていた。


 そして進藤の母親が出してくれたジュースを飲みながら進藤と二人で『世界の不思議』の本を読む事になり、俺はあるページで目を止めることになった。

 それが、催眠術さいみんじゅつだ。 


 実は催眠術以外にも俺は超能力等にも興味を持ったが、あまりにも現実離れしていてそこまで入り込めなかった。


 俺は催眠術のページを詳しく読む。


 『催眠状態とは電車の中でうたた寝をしている状態に近く、誰しもが入る事の出来る現象である。

 催眠状態では外からの刺激や他の概念が意識から締め出され1つの事象が意識を占領することによって、暗示のままに動かされる。この暗示によって様々な幻覚が作り出されてくる。また、潜在意識に働きかけて対人恐怖症やあがり症等を治療する事が出来る』


 なっなんてことがあるんだ!催眠術で相手を思うように動かす事ができるのか。ヤッヤバイ!これは覚えるしか道はないでしょ!

 俺は小学生ながらそんな事を思いこの催眠術の世界にどっぷりハマる事になった。

 当然当時の小学生の俺はな事を考えた訳ではない。

 催眠術覚えたら友達に悪戯いたずら出来るんじゃん。そんな単純な思考で俺は研究することにした。


 最初は図書館に行き催眠術の本を読む事から始めた。

 どんどん本を読みそして親に頼って催眠術も収録されたDVDのレンタルもしてもらった。


 そして俺は研究の結果法則を見つけた。

 1.催眠術を相手に掛ける際に相手に悟られてはいけない。

 理由は簡単だ。相手に警戒心を抱かれては催眠術に掛かりにくいからだ。だから催眠に掛ける際はいきなり掛けるのが有効だ。


 2.催眠を掛ける際は派手なアクションは必要ない。

 俺はいろんな映像を見て思ったのだが、3,2.1、ハイ!なんて大きな声を出して催眠を掛けている人や、古い映像では5円玉をヒモにぶら下げて催眠を掛ける人がいた。

 

 結論から言えば相手の目を見て掛けるのでシンプルがいいと結論を出した。


 *


 俺は妹の穂香ほのかと目的の中学校と高校へ向けて道を歩く。そして大きな交差点で俺達が信号待ちをしている所で俺に声が掛かった。


 「上杉うえすぎ君」


 俺は声が掛かった後ろを振り向くとそこには俺の隣に住んでいる進藤茜しんどうあかねが高校の制服を着て立っていた。

 胸元には俺と同じ東高校のバッチを付けて。

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