ラブコメの天使?
「ラブコメについて、どう思います? あなたさま」
「ふぇっ!?」
俺は肺の中にあった酸素をすべて吐き出すかのように驚きの声を上げていた。
俺の意識が、視界が現実に戻ってきていた。
隣に佇む羽根つき天使・・・ん?
「・・・あらまあ、これは驚きましたこと。人間がよもやこんなことを・・・」
「いや、あんた、驚いてるとこ悪いんだが・・・」
「・・・はい?」
「な、なんじゃあこりゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
スカイトゥスカイ
フライングスカイ
ダイブトゥスカイ
空天空天sorasorasora
「なんで空飛んでんだよおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
「うるさいですね人間・・・」
あきれ顔の羽根つき天使を横目に、俺は叫ぶ。
体中ですさまじい速度の風を感じる。びゅおーとかじゃないゴゴゴゴゴって音が体の芯に響いてきやがる。
空を飛んだことはあるか? 俺はない。この瞬間まで一度もな。
「あわわあああああああああああああああああああああああああそ、空飛んでるっ、しぬ、しんじゃうだろこれぇぇっぇ!!!!」
「落ち着きなさい人間、あのお方の体でみっともない動きをするんじゃありません」
「み、みっともないってなんだ! 落ちたら死ぬんだぞ! 馬鹿か!! 馬鹿天使かお前!!」
「て、てんし・・・?」
俺の言葉に羽根つき天使は顔つきを変えた。風がゴゴゴゴと吹き続けているにも関わらず、羽根つき天使は何食わぬ顔だった。
天使の沈黙に合わせて俺の心も落ち着いたのか、風の音は凄いが、俺の体に風を浴びているわけではないことが分かった。いや、厳密には浴びていないわけではない。浴びてはいるが、「その影響を感じない」というべきだ。
前方から吹き抜ける風で、後方には飛ばされない。そういう感じだった。ゆえに、天使は風を一切気にも留めぬ様子で、それでいて俺の言葉に引っかかっていたのだった。
「てんし・・・ですか? 私が?」
何をおかしなことを言ってるんだこの羽根つき天使。迷子が自分のことを迷子だと認知できないときみたいな喋り方すんな。
というか、忘れるはずもなく、俺はこの天使に殺された?のだ。なんか腹が立ってきた。怖いけど。
「羽ついてんだから天使だろ」
「私が・・・天使・・・えへへ、天使ですか」
「え、何急に」
突然、天使は頬を赤らめて照れだした。桃色の髪をくるくるといじりながら、それほどでも、なんて恥じらうのだ。
え、なにそれ。
不覚にもかわいいと思ってしまっていた。肌を露出しまくっていたレースのワンピースはどうやら露出を少し減らした衣装にグレードダウン(?)されたようだった。
「ね、ねえ、人間、さん?」
「なんだよ」
人を弁当の歌のごぼうさんみたいに呼ぶんじゃねえよ。
「もう一度、私のことを呼んでくださらない?」
「は?」
「で、でですから、私のことを、もう一度・・・」
「羽根つき天使」
「――きゃふんッ♡」
俺の言葉に、天使が悶えていた。胸を抑えるようにして、呼吸を少し荒げる。
え、なにこいつほんとに。
「も、もっと…――」
求めるように俺を見る天使
「天使」
「あぁ!♡」
「羽の生えた天使」
「いやん♡」
「羽根つき餃子」
「あぁぁあぁん♡」
・・・・・・?
「あ、まちがえました・・・って、からかうんじゃありません!!」
いいながら、天使は俺の肩をぽかんとたたいた。先ほどまでの強靭な力ではなく、か弱い人間並みのパワーだった。
俺はポカンとした。空を飛んでいる――それもどこを飛んでいるかわからない。何かに乗っているわけでもなく、身一つでただ空を舞っているだけの自分と、この天使に。
なにがなんだか、さっぱりだ、まったく。
身もだえ息を上げている天使を見ながら、俺は宙を仰いだ。
ラブコメについて? うるせえ。
大体な、
ラブコメ世界は、こんな奇想天外じゃねえよ。
ラブコメ、おひとついかがですか? そこらへんの社会人 @cider_mituo
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