因縁の天使?
「健全なる不毛な魂」
天使の言葉が体中にこだまする。真っ暗な世界の中で、天使の声だけが響いていた。
「長き眠りから、ついに覚める時が来たのです。さあ、行きましょう?」
「わたくしめがこの地に降りたのは、他でもなく貴方のためなのです」
「この日を待ちわびておりました。あの日から、ずっと・・・」
何も、見えない。
何も、感じない。
ただ、天使のとろけるような声だけが聞こえた。
「うふふ♡ そうです、そうですとも。それで良いのです」
言って、天使は次第に声を漏らすようになった。
あぁ、とか、えぇ、とか随分嬉しそうな声。それでいて時に真剣な声。
真っ暗だった世界が、時折真っ赤に染まる。
天使の声に呼応して、脈打つように深紅に染まる。
ドクン、ドクンと。
「ああぁ♡ そうです。ようやく、ようやくこの時が来たのですね」
天使の上ずった声がより激しくなった。呼応するように世界は真っ赤に染まる。より激しく、より鮮やかに。
「さあ、こちらへ」
天使の落ち着いた声が俺を諭す。こちらも何も俺は真っ暗な世界にいるのだから、どうしようもないはずだった。
「ええ、そうです。共に参りましょう」
「ああ、行こうか」
!?
俺は声も出ないのに、あまりの驚きに気が動転してしまいそうだった。(既に動転しているような気もするが)
今、俺の声がした。
喋っていないはずの、喋れるはずがない俺の声。
聞き間違うことなどありえない。17年間共に過ごしてきた俺の声色だった。
「まず、どちらから?」
「・・・カタルフィア、その卑猥な衣装をなんとかしろ」
「・・・あら? お気に召しませんでしたか? あなた様が生前気に入っていた衣装だとお聞きしましたが・・・」
「フン、こざかしい真似をするなよカタルフィア。余をよみがえらせた功績は万世称えられるべきだが・・・出過ぎた真似をすることはないようにな」
――余は貴様を殺したいほど憎んでいるのだからな
俺は、そういった。
いや、もはや俺ではないことは確実だった。俺の喋りたかった言葉は音もなく消えていくし、こぶしを握り締めてみても、残っているのは「握ろうとした意識」だけで、俺の体はどこにもなかった。
ただ意識だけの俺が赤と黒の世界に待っていた。閉ざされた視界の中で俺ではない俺と、天使の声だけが流れ込んでくる。
「あらまあ・・・随分嬉しいことをいってくれますわね、あなたさま♡」
「・・・早くしろ、今度こそ殺すぞ」
「うふふふふ♡ 射殺すかのような視線、久々に感じますわ♡ でも申し訳ござません、衣装の替えは持ち合わせておりませんの。天界に戻るまで暫しお待ちいただくしかないようで――」
「――おい、余に気安く触れるな。貴様ごときが触れてよい存在ではない」
「・・・あらあら、連れませんこと。でも構いませんわ、ずっとずっとずーーーーーーーっと、恋焦がれ願い悶え続けてきたのですから」
――あなたさまとの、再開を。
天使の声は上ずったいたずらっぽい声に変わっていた。俺と会話していた時の声とは、まるで違う。俺と会話していた天使が黒髪清楚系JKとするならば、今聞こえてくる天使の声は悪の王女様みたいな、随分邪悪ないたずら声だった。
念のために言っておくが、俺は羽根つき天使と再会したわけではない。初対面で、ファーストブッキングである。
俺は、殺されたのか・・・?
混乱が混乱を呼び、俺の体の所有権が俺以外の誰かに渡っているという今世紀最大の謎によって、ようやく自分の現状に目を向けられそうになった時だった。
「では・・・神の思し召し・「我らを運べ、光の粒子よ」」
俺の世界が、真っ暗で真っ赤だった世界が――
一気に現実に引き戻されたのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます