エピローグ 『 これからもキミと―― 』

「準備できた?」

「はいっ。ばっちりです!」

 靴を履いて待っていた颯太に、アリシアは階段から駆け下りながらピースを作った。

「お待たせしました、ソウタさん」

「ん」

 アリシアもすぐに靴を履き終えると、敬礼のポーズで準備完了の合図を出した。

「それじゃあ、行こうか」

「はい」

 日差しは眩しき、空気は咽るほどに熱い。陽炎が揺れる下り坂を、二人は歩幅を揃えて下っていく。

「なーんか、最近慌ただしかったせいで、こうやってのんびりするのも久々な気がするわ」

「そうですね。こんなに何も気にせず歩くのは久しぶりです」

「あーあ。こんな時間がずっと続けばいいのになぁ」

「ダメですよ、ソウタさん。来月から学校に行くんですから、それに向けてキッチリしないと」

「そうだけどさ。アリシア、本当に一人で平気?」

「子ども扱いしないでください。家に一人でお留守番するくらい、余裕です」

「ほんとにぃ?」

「はい。それに、学校が終わったら真っ先に帰ってくれるんですよね」

「当然。この世界において、アリシア以外に優先することはない」

「それは嬉しいですけど、でもあまり外では言わないでください」

「あ、照れてる」

「当たり前ですよ! 好きな人からそんなこと言われて、嬉しくない人間なんていません!」

「いていて、叩くのやめて。これからは気を付けるから」

「もうっ、反省してくださいね」

 ――ゆっくりと、時は流れていく。

 嬉しい時も、悲しい時も、二人はこれからその時間を共有していく。

「今日はどんな出来事が待ってるのか、楽しみですね、ソウタさん」

「だね。もしかしたら、あそこからこーんな巨大な魚が跳ねるかもしれない」

「それは大事件です! いえ、大発見です!」

「はは。うそうそ。そんな魚、この世に存在しないから」

「ちょっと酷いじゃないですか⁉」

 他愛もない会話が続く。けれど、それが堪らなく心地よかった。

 二人の影が伸びていく。それはやがて、想いを重ねるように、交わった。


            ―― Thank you ――


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