第四章 『 天使の翼 』

 ――  1 ――


side颯太


 その小さな手の平の温もりが、悲しみに囚われる心を救いだした。

「明日から、祭りだな」

「そうですね。町の雰囲気も、今までにないくらい賑やかです」

 片方の手で買い物袋を持ちながら、二人は活気づく町を眺める。

「屋台もちらほらと出てきてるみたいだけど、寄っていかなくていいんだよね」

 ちらほらとたが、もういくつかの屋台は物を売り出していた。颯太が見た限りではチョコバナナと焼きそば。あと、水あめと、ウミワタリが開催される二日前にもかかわらず開いている屋台は結構あった。

 小さな子どもたちが片手に小銭を握り締めてそこへ向かっていくのを通り過ぎながら、横目にみるアリシアは澄ました顔で言った。

「ソウタさん。私は心に決めてるんです。ヤタイを楽しむのはお祭り当日だと。なので、なるべく私を誘惑しないでいただけると助かります。……うっ」

 チラッ、チラッと屋台で楽しむ子どもたちを覗いては呻くアリシアに、颯太は不覚にも笑ってしまう。アリシアも本当は屋台を満喫したいのだ。

「ま、アリシアがそう言うなら無理に誘ったりしないよ。あと二日。ちゃんと屋台の誘惑に耐えるんだぞ?」

「が、頑張ります」

 苦虫を噛んだ形相を浮かべながらアリシアは頷いた。

 それから、町の賑わう音だけが暫く続いた。

 それは今だけでなく、今朝から続いていたもどかしい静寂だった。

 起きてから目を合わせば「おはよう」だけでぎこちなくなってしまい、朝食の時も何か話そうと思っても上手く言葉が出てこない。そのまま、アリシアは日課の勉強を、颯太はテレビの前でスマホと睨めっこしていた。

――昨日のこと、アリシアにちゃんと礼を言いたいのに!

 このままでは拉致が明かないと思い、そこで提案したのがお昼前の買い物だった。

 その提案をされたアリシアは最初、珍しいといわんばかりの表情をしていた。けれど、流石は天使。颯太の落ち着かない態度にすぐに何かを察したのだろう。いつも通りの元気な声を出して、こうして買い物に付いて来てくれた。

「…………」

 ――駄目だ! アリシアと目が合う度に話しづらくなる!

 昨日の件に礼を言おうとしても、その時に晒してしまった羞恥心がなかなか颯太の口を開かせてはくれなかった。つまるところ、颯太の意気地なさのせいでアリシアにも気まずい雰囲気を味わせてしまっているのだ。

 アリシアはいつでも颯太の言葉を待っているというのに。

「あー、今日も、て、天気がいいなぁ」

「ソウタさん。その会話。もう五回目ですよ」

「そ、そうだっけ?」

 何か話すきっかけを作らねば、そう思って言った矢先、アリシアに苦笑いで指摘されてしまった。流石のアリシアも辟易してしまっている。

 ――はぁ。これじゃ、なんのために買い物に誘ったのか。

 自分の弱腰さ加減に乾いた笑みが零れた。

「なんで急に笑い出したんですかソウタさん⁉」

「気にしないで、今自分をぶん殴ってやりたい気分なだけだから」

「それは気にしない方が無理ですよ⁉」

 ギョッと目を剥くアリシアを横目にして、颯太は大きなため息を吐いた。

 このままではマズい。せっかく町の賑やかな空気に触れて、アリシアと会話もそれとなく弾んできたところなのに、家に着いてしまっては今朝の気まずげな雰囲気に逆戻りだ。それに、颯太の心情的にも長引かせたくはなかった。

 ――俺は、あの時確かに救われたんだ。アリシアに。

 向き合った過去を、己一人では清算できなかった過去を、アリシアは受け入れて、そして、その重荷を軽くしてくれた。その感謝の恩は、絶対に言葉にして伝えたかった。

「アリシア!」

「わっ、なんですか急に、大声だして」

 颯太はその場に立ち止まって、大声で彼女の名前を呼んだ。アリシアはびくっと肩を震わせ、戸惑いながら颯太の顔を窺う。

 ジッと見つめてくる、金色の瞳。その美しさに吸い込まれそうになる。その目に映る自分の顔は、緊張で頬が硬くなっていた。

 ――たった一言。それだけ。それだけなのになんで出てこないんだ。

 目を泳がせ、口は金魚のようにパクパクしてしまう。買い物袋を握る手に力が籠って、肉に爪が食い込む。

 ――伝えるんだ。昨日のこと。ありがとうって。

 町の人たちが、二人の様子を気にしながら通り過ぎる。車の通過音が、やけに鮮明に聞こえた。

 真夏に昇る太陽の下で数十秒。二人は陽炎が立つその場に立ち尽くしたままだった。

 アリシアの額にも汗が滲み出して、頬を伝って落ちていく。アリシアは流れる汗を拭くもせず、ただ、颯太の言葉を待っていた。

「――――」

 その優しげな顔に、昨日の優しい声音が重なった気がした。

 ――ゆっくりでいいですよ。

 その言葉が胸の内に響いて、颯太は小さく息を吐いた。

「アリシア、昨日のことだけどさ」

「――はい」

 ゆっくりと、舌に言の葉を乗せるように呟くと、アリシアは朗らかな表情で颯太を見た。

「ありがとうね。俺の話、聞いてくれて」

 ようやく伝える事ができたぎこちないお礼に、アリシアは小さく笑うと、

「あの時も言ったように、少しでもソウタさんの辛い気持ちを軽くしたかったんです。私にできることはせいぜいソウタさんの悲しみに寄り添うくらいですから。微力でも、ソウタさんの救いになりたかったんです」

「微力なんて。アリシアが思っている倍以上に、俺にとっては力になったよ。アリシアのおかげで、今は気持ちが軽くなった。実際、昨日は人生で一番よく寝れたかも」

実のところ、颯太はアリシアに自身の過去を打ち明けてからの記憶があまりなかった。

 ただ、子どものように散々泣いて、凝り固まったもの全部ぶちまけて、死んだように眠りについたことだけは覚えている。今朝のアリシア曰く、昨日はそのまま、夕飯も食べずに眠ってしまっていたらしい。

 そして、今は体が羽のように軽かった。それはきっと、一人で背負っていた重荷が下りた証拠なのだろう。今なら、現役だった時以上に速く走れるかもしれない。そう思う程に。

「アリシアのおかげで気持ちが楽なった。それに、またやりたいことも出来たよ」

 祖父を失くして以来。目的も夢を見失っていた。けれど、颯太にも新しい夢がようやく見つかった。

「見つけられたんですね。ちゃんと、やりたいことを」

「うん」

 睦まじそうにアリシアは見つめていた。

「もしよかったら、教えてくれませんか。ソウタさんの夢を」

 その問いかけに、颯太はふと笑った。

 今更。アリシアに何か隠し事をするつもりなんてない。ある意味では裸より恥ずかしいシーンを見られたのだから。

 だから。

「それは内緒」

「うえぇ⁉ 今教えてくる雰囲気だったのに⁉」

 直前の真剣な空気感を霧散させるように言った颯太に、アリシアは凝然とした。

 確かにアリシアには秘密ごとなんてする必要ないくらいに心を開いてある。でも、この夢をアリシアに言うにはやはりまだ恥ずかしかった。

 それに、公の目もあって、ここで言って知り合いに聞かれたら颯太はたぶん海に身投げする。

 だから、頬を膨らませるアリシアにもはぐらかすように言った。

「その時が来たら絶対教えるから」

「むぅ。約束ですよ?」

「うん。約束」

「絶対ですよ。ぜーったい。ソウタさんが話していい日が来たら、教えてくださいね」

「あぁ」

 唇を尖らせるアリシアに、颯太は小指を差し出した。アリシアはすぐに意図を理解したようで、買い物袋を持ち換えて反対の小指を颯太の小指に絡めた。

 せーの、と二人で小さな合図を出して、

「「指切り拳万。嘘吐いたらハリセンボンのーます。指切った!」」

 おまじないのような約束を交わした。そして、可笑しそうに笑い合った。

 ひとしきり笑い合って、そして、アリシアがステップを刻んで振り返った。

 真夏に輝く太陽の光。その光を浴びた白銀が燦然と輝く。その輝きと同じほど――それより眩しいアリシアの笑顔は、まさに大輪の花のようだった。

「それじゃあ、お家に帰りましょう――ソウタさん!」



 ――  2 ――


sideアリシア


 ソウタを好きだと自覚してからも、アリシアはそれをみつ姉以外の誰にも知らせることも相談することをしなかった。

 それはみつ姉に告げた通り、まずはソウタを救うことを優先にしたかったからだ。

 アリシアにとってソウタはたった唯一の想い人。その彼が苦しんでいるのに、自分がのうのうと恋愛感情に浸ることはとてもできなかった。

 もしかしたら、それを理由にこの気持ちから目を背けただけかもしれない。みつ姉に指摘され、胸襟され、それでも尚、アリシアは己が天界で犯した罪から解放されなかった。

 罪科を背負う者に、誰かを好きになることなど許されるはずないのだと。

 でも今日。ソウタから感謝された。

 自分のおかげで心が軽くなったと、力になってくれたと、そう言われた。

 それが、アリシアにとって心の底から嬉しかった。それと同時、決意した。

 ――自分のソウタに向ける恋情を、打ち明けるのはやめようと。

 再び夢を見つけて、そこへ前に歩き出したソウタ。その傍に居られるだけで、アリシアにとっては十分過ぎる幸せだった。ならば、この恋心を想い人に明かす必要はない。アリシアはこれ以上の幸福を望んではいなかった。ましてや、幸せになることなど、望んですらいないのだから。

 どう足掻いても、アリシアが罪科を背負う咎者であることに変わりはない。その罪も晴れぬまま、贖う術も持たぬ者が、幸せになるべき人と共にいるのはおかしかった。

 みつ姉の気持ちには叛くことになるが、これが、アリシアが己の恋心に下した決断だった。

 そしてこの先。ソウタの隣に立つ人が現れた時、自分は彼の隣から消えればいい。そして、あてもなく彷徨い続けるのだ。命尽きる最後の瞬間まで。

その時まではせめて、彼の隣にいさせて――。

「――ッ」

 バッ、と音がなるほどの勢いで掛布団を剥いで、アリシアは荒い息を繰り返した。

 はぁ。はぁ。はぁ。

「また、この夢」

 辺りは暗い。灯りは窓辺から差し込む月光くらいで、自分の白い肌がかろうじて見える。

「今日は、すごく鮮明に見えた。それに、まだ覚えてる……」

 額に滲んだ冷や汗を拭いながら、アリシアは苦痛に顔を歪ませて呟いた。

 この頃、アリシアは同じ夢を見るようになった。それもほぼ毎日。

 初めはうっすらと、起きれば記憶にすら残らない夢でしかなかった。

 けれど、それは日を重ねるごとに鮮明になっていった。そして、たった見た同じ夢。まるで現実に起きているのではないかと錯覚してしまうほど、アリシアの体に深く刻み込まれた。

「違う。あれは、私じゃない。私でも、ソウタさんでもないのに……なのにどうして、こんなに胸が締め付けられるの……ッ」

 夢を重ねるごとにハッキリしていく黒影。それが、アリシアとソウタによく似ていた。

 アリシアを蝕む夢。

アリシアを許さぬ、罪が見せる幻影だ。あれは。

 一人の少女らしきものが、少年の手を取ろうとする。けれど、少女が握った手は少年の手からすり抜ける。零れるようにすり抜けて、その手は別の誰かに掴まる。その手に抗えないまま、少女は何処かへ消えてしまう。

 何もない世界で、少女は泣いていた。そして、憎悪した。

 その怒りは、楽しい思い出の全てを忘れてしまうほどに。

 そして、少女は憎悪に身を焼かれるように、死んでいく。

 そんな夢を、アリシアは繰り返し見ていた。

「違う。私は、誰も恨んだりしない。あの人を……憎みはしないッ」

 夢の映像に抗うように、アリシアは奥歯を噛み締めた。

「私は、この世界で生きられる時間を、全力で生きるんだ」

 後悔したくないから。もし別れる日が来ても、最後は笑っていたいから。

 いつまでも、この地球に滞ることはできないとは分かっていた。

 アリシアの魂が消滅していない事実が天界に届けば、おそらく、アリシアは直ちに天界へ連れ戻され、そして今度こそ処刑される。そして、再び魂の消滅を免れるような奇跡は起こり得ない。

 アリシアはまだ、皮肉にも天使のままなのだ。人とは一線を画す存在というのは、どこかで必ず焦点が当てられる。それが、アリシアにとっての最期。

 ソウタの傍にいられるまで、あとどれくらいか。

 数十年後。数年後。数日後――もしかしたら、今日かもしれない。

 たった今消滅するかもしれない。突然別れが来るかもしれない。そんな恐怖を、アリシアはずっと味わっていた。

 ――怖い。怖いよ。

「ごめんなさい。ソウタさん」

 大切な人の名前を呼びながら、アリシアは悲痛の声を上げた。

 せめて大切な人が起きないよう、奥歯を噛み殺しながら。

 苦悶する天使。その腕に刻まれた真紅の紋章――否、烙印。その烙印が何かに呼応するように濃くなっていく。

 果たしてそれが夢の影響か、天使の恐怖からなのか、裁きを下す者が近づいてる合図なのか――あるいは、その全部かもしれない。

 終わりの時が、近づいている。

    


 ――  3 ――


side颯太


 八月中旬。

 晴天に恵まれながら、今日から三日間に渡り開催される潮風町伝統の祭り――ウミワタリが始まった。

 その活気は、家の中にいても伝わって来た。

「おマツリですよ、ソウタさん!」

 早朝から町の騒音が聞こえて、アラームが鳴る前に目覚めた颯太の前に飛び出したのは、すでに身支度を整え終えて祭りにはしゃぐアリシアだった。

 目を爛々と輝かせるアリシアに、颯太は欠伸を噛み殺すと、

「おはよう。アリシア。やっぱり、今日は朝から一段と元気だね」

「当然じゃないですか! だって、今日という日をずぅっと楽しみに待っていたんですから!」

 颯太の言葉にアリシアは興奮気味に肯定する。

「そんなに待ちきれないなら、ちょっとだけ外にいってくれば? みつ姉とかゲンさん辺りなら、町の準備手伝ってるからわりとすぐ見つかると思うよ」

 と何気ない提案をすると、アリシアは右手を颯太の顔の前に突き出した。

「何を言ってるんですか、ソウタさん。私はソウタさんと一緒に行きたいんです。それに、約束したじゃないですか。一緒にヤタイ、回るって」

 心外、と言わんばかりに頬を膨らませるアリシアに、颯太は目を瞬かせた。それからすぐ吹き出してしまった。

「ごめん、ごめん。そうだった。一緒に、祭りを楽しむんだもんな」

「はい。なので、早く顔を洗って、歯を磨いて、朝ご飯を食べましょう」

「はいはい」

「はい、は一回でいいんですよ」

「はい。分かったから、押さないで」

「いーやです。ふふ」

 小さな両手に背中を押されながら、颯太は身支度に取り掛かるのだった。


「ソウタさん。ずっと聞きたいことがあったんですけど……聞いてもいいですか?」

「ん? 別に構わないけど、それって祭り関係?」

「はい」

 今更祭りに関して何を聞かれるかと眉根を寄せながら、颯太は白米を口に運びながら聞く姿勢を作った。

「今日の『ミコシカツギ』のことで少しだけ……」

「あぁ。神輿担ぎね。あれ? 前にも言わなかったっけか」

「それはちゃんと覚えてます。子どもの部と大人部の二回に分けてやるんですよね」

 指を二本立てながらしっかり答えたアリシアに、颯太はさらに眉根を寄せた。

「んじゃ、今更何を聞きたいの?」

「大したことではないんですよ。……ただ、そのミコシカツギに参加できないかなー……と思いまして」

「あー。なるほど」

 もじもじしながら答えるアリシアに、颯太は麦茶を飲みながら呻った。

「アリシアが参加することはできなくはないよ。ただ……」

「ただ?」

 両腕を組み、颯太は難しい顔でアリシアに教えた。

「昔からの変な風習でさ。神輿担ぎは法被を着てないと参加ができないんだよ。まぁ、祭礼だから当然ちゃあ当然なんだけどね。問題は、アリシアの着れる法被がないんだよなぁ」

「ソウタさんも参加したことはあるんですよね?」

「まぁ、この町の住人だからね。ここの住人は必ず一回、ウミワタリの神輿担ぎに参加することになってる。そして、一回だけで良いんだと思い知らされる。俺は爺ちゃんが生きてる時は毎年参加させられたよ。ハハ」

 死んだ目をする颯太に、アリシアはぎこちない笑みを作って続けた。

「そ、それじゃあ、ソウタさんの昔着ていた法被を借りて参加すればいいのでは?」

 颯太は「うーん」と天井を見上げた。

「止めたほうがいいかな。俺も最後に着たのは結構前だから。それからはずっと押し入れの中にしまいっぱなしだから、たぶん、埃臭い」

「そうですか……」

 残念そうな顔するアリシアに、颯太は申し訳なくなる。アリシアが神輿担ぎに参加したいと前から知っていれば、押し入れから引っ張りだして仕立て直す時間は十分にあったはずだ。

 まぁ、法被くらいなら商店街に売っているだろう。店が開いてすぐ買いに行けば、仕立ては無理でも神輿担ぎには間に合うはずだ。

 颯太はよし、と机に箸を置いて、

「なら法被、買いに行こうか。店が開いて買えば、神輿には間に合うだろうから」

 早速、そんな提案をアリシアにする。しかし、

「いえ! いいんです。そんな無理に用意してくれなくても。これはただの私のわがままなので……」

「わがままって……でも、参加はしてみたいんだろ?」

「それはそうですけど……」

 意外なことにアリシアは首を横に振り、颯太は予想外の反応に目を瞬かせた。

 戸惑うソウタに、アリシアはぎこちない表情で言った。

「いいんです。今回はやめておきます。また、来年……参加してみようと思います」

「でも……」

 いつものアリシアと違って消極的な反応に、颯太は追及するのを躊躇った。

 アリシアがやらないのならば本人の意思に従順するまで、颯太は時々こんな風に尻込みするアリシアの背中を押したことがあったが、今日はそれすらもアリシアは拒んだ。

 理由を知りたい一方で、アリシアの複雑そうな顔をみて踏み込めない自分がいた。

「あり……」

 どうなる訳でもなく、彼女の名前を呼ぼうとした、その時だった。

「お困りみたいね」

「どわぁッ⁉」

 声の主は颯太とアリシアの間から。机から頭半分だけ出していたのは不法侵入者――ではなく、みつ姉だった。

 そんな突然の来訪者(不法侵入であることは違いないが)に、颯太は驚愕のあまり椅子から転げ落ちた。

「い、いつから居たんだよ⁉」

「二人が法被の件で揉めてるところからかしら」

「は? じゃぁなに、ひょっとして、ご飯食べてる時からずっと居た、ってこと」

「そーね。そういうことになるかしら」

 あっけらかんと言ったみつ姉に、尻もちを着いたままの颯太は肩を落とす。

 確かにアリシアと法被の件で意識をそちらに集中していた。が、だからといって人ひとり分の気配に気付かないはずがない。いったいどれだけ隠密行動に長けているのだ。

 そんな颯太の心情を読み取ったかのように、みつ姉はウィンクして告げた。

「安心して、そこは空気の読める姉らしく、気配を消して二人の会話を聞いてたから!」

「もはや忍者だろ。それ……」

 観念したようにため息を吐いて、颯太はみつ姉の無駄な才能を受け入れた。それから、よっと立ち上がると、人のウィンナーをつまみ食いしていたみつ姉に黒瞳を向けた。

「で、話聞いてたみたいだけど、みつ姉、何かいい案あんの?」

「もぐもぐ……ん、まぁ、今日はその為に来たようなものだからね」

「ん? どゆこと」

 首を傾げていると、みつ姉は足元に置かれた紙袋に手を突っ込んだ。そして、みつ姉は鼻息を荒くしながら、アリシアと颯太の前にそれを突き出したのだ。

「じゃっじゃーん! これなーんだ!」

「もしかして、ハッピ……ですか⁉」

 真っ先に答えたのはアリシアだった。

 みつ姉はアリシアに向けて親指を立てると、

「大正解! さっすがアーちゃん。良い子~。ソウちゃんはまだまだねぇ」

「ヒキョウダー。エコヒイキダー」

「そんな力が籠ってない抗議ってあるの……」

 颯太にしては珍しく乗ったノリを、しかしみつ姉は頬を引き攣らせて反応に困っていた。

 軽く羞恥心を覚えながらも、颯太は咳払いして話を元に戻していく。

「アリシアの為に法被持ってきてくれたのは嬉しいんだけどさ、それ、サイズとか大丈夫なの?」

 確か、みつ姉が最後に法被を着たのは中一の時だったはずだ。

「大丈夫よ。ちゃんと、アーちゃんが着られるよう仕立て直しましたから。なんなら、今着て確認してみる?」

「だって、どうするアリシア?」

「えーと、そうですね。着てみたい、です」

 恥ずかし気に答えたアリシアに、颯太とみつ姉は顔を合わせる。そして、互いに力強く頷くと、

「よし、早速着てみましょう!」

 みつ姉は好奇心で目を輝かせながら、法被をアリシアに渡した。

 それから一、二分程度で法被を着終えたアリシアは、頬をほんのりと朱に染めながら、

「どう、でしょうか?」

「きゃー! 可愛いわよアーちゃん!」

「うん。似合ってるよ」

 アリシアの普段気慣れない服装に照れている表情も相まって、その可愛さにみつ姉は堪らず発狂。颯太も平常心を装っているものの、内心でガッツポーズした。

「悔しいけど、私が着ていた時よりも可愛いわね。ソウちゃん、いつになったらアーちゃんと結婚するの?」

「みつ姉より可愛いのは確かだけど結婚をする予定はございません。……まだ付き合ってもないんだぞ」

「あらあらー」

「……なんだよ」

 軽口にツッコんだつもりが、みつ姉は口元を抑えてにやついていた。

「べつにー。ただ、可愛いとか、まだ付き合ってもない~、なんて、まさかあのソウちゃんが口にするとはねー」

「う、うるさいな」

 愉快そうに揶揄ってくるみつ姉に、颯太は歯切れ悪くそっぽを向いた。

「あの、お二人は先程からなにを話してるんですか?」

「なんでもないよ。アリシアの法被がサイズ合って良かった、って話してただけ」

「? それにしては、ソウタさんの顔が赤いように見えますけど……」

「だってよー、ソ ウ タ さん」

「~~~~~ッ! あーもう! 何でもないから! いいから早く朝ご飯食べるぞ! みつ姉、ご飯食べてく⁉」

「食べてく食べてく~」

「それでしたら、みつ姉さんは私の隣がいいです!」

「私もアーちゃんの隣がいいわ!」

「はぁ~。じゃあみつ姉はアリシアの隣で、俺はご飯用意してくるから……納豆用意してやろうかな」

「ちょっとソウちゃん、私これから町内会の人と会議あるんだけど⁉」

「フンッ。さっきのお返しですー」

「アア~。ごめんね、ソウちゃん。さっき意地悪したことは謝るから、だから納豆は許して~」

「みつ姉さん。好き嫌いはダメですよ」

 颯太。アリシア。みつ姉。三人は本当の姉弟のように睦まじかった。

 そんな和気藹々とした一時を過ごしながら、

 ウミワタリはもう始まっている。


 ――  4 ―― 


side颯太


 潮風町の一大名物ともいえる祭典『ウミワタリ』は、例年通り地元住民と観光客で活気づく。

 日程としては、一日目に神輿担ぎ。二日目に花火。三日目にこの祭りの名でもある、ウミワタリの順に開催されていく。

「いたいた。おーい、みつ姉」

「あ、ソウちゃん。こっちよ」

「ごめん。少し遅くなった。直前までアリシアと話しててさ」

 神輿担ぎ。それは読んで字のごとく。神輿を社まで担いでいく祭礼だ。

 ウミワタリの始まりを告げるのに相応しいこの演目は、昼の部、夜の部に分かれて行われる。昼の部の主役はこの町の小学生~中学生まで。夜の部の主役は、高校生以上の男性たち(ときどき女性も混ざったりする)だ。

「……結局、聞けなかったな」

「なにが?」

 ぼそりと呟いた言葉をみつ姉が小首を傾げて拾った。

「アリシアが急に神輿担ぎに参加したい、って言ったことだよ。みつ姉、何か聞いてる?」

「ううん。何も聞いてないけど」

 首を横に振ったみつ姉に、颯太は「そっか」と素っ気なく返した。

 ここ最近アリシアは頻繁にみつ姉の家にお邪魔していたから、その拍子にまた二人で何か企んでるのでは、と思ったがどうやら見当違いだったらしい。

 ならば俄然、アリシアの動機が気になるな、とそんな事を考えていると、みつ姉が「う~ん」と小さく呻った。

「まぁ、心当たりがなくはないけど……」

「あるんだ」

 顎に一指し指を当てて思案するみつ姉に、颯太は「それってどんな?」と眉を寄せた。

 けれど、みつ姉は教えてはくれなかった。

「まぁ、ただの女の勘よ。それに、気になるならアーちゃん本人に聞けばよかったじゃない」

 なんの為に話してたのよ、とみつ姉に叱責されてしまった。

 颯太は視線を泳がせながら「いや」と言い訳を探した。

「聞こうとはしたよ。でも、なんかその話をしようとすると妙に逸らされてさ」

「だから聞けなかった、と。ソウちゃんは相変わらず意気地なしねぇ」

「相変わらずってなんだよ」

 嘆息するみつ姉に颯太はバツが悪そうに口を尖らせた。

「とにかく、今はアーちゃんを精一杯、応援しましょ」

「だな」

 仕切り直しとみつ姉が手を叩いて、颯太もそれに乗っかった。

「でもやっぱり、この場所を選んだのは間違いだったかしら」

「だなー。ここ、親にとっては絶好の撮影スポットだから」

「どうする、移動する?」

「少しだけ、様子見てみようよ。それで無理そうだったら、どこか別の応援できる場所に移動で」

「ん、分かった」

 既に周囲は、子どもたちの活躍をカメラに収めようとする家族連れで埋め尽くされていた。掻き分けて前に出るのは難しく、それに邪魔もしたくない。そう判断した二人は、どうにかアリシアを応援できる場所がないか歩き出した。

「それにしても、いくらアーちゃんが神輿を担ぎたい! っていっても、流石に最終グループには止めたほうが良かったんじゃない?」

 ごった返す人の波を掻き分けている最中、みつ姉がそんな言葉を投げた。

「それもちゃんと言ったって。神輿を担ぐのはいいけど、最後はやめようって。でも、どうしてもこの場所が良いんだってさ」

「この場所がいいって……アリシアちゃん、最後がどんなに大変なのか知らないでしょ」

「当たり前だろ。アリシアがこっちに来てまだ一カ月も経ってないんだぞ」

「なら、尚更止めるべきだったんじゃない?」

 みつ姉の声音は颯太を咎めているようだった。

 みつ姉が颯太に憤りをみせているのは、颯太自身も理解していた。

 アリシアが神輿を担ぐであろうこの場所は、いくつかあるグループの最後だ。

 最終グループの参加者は全員、中学生以上の高学年たちで固まっている。その殆どが男子で、数十人いる女子もおそらく運動部の子たちだろう。

 つまりそれだけ、最後の箇所は難所なのだ。

「反省はしてる。でも、俺はアリシアのやりたいことを応援するって決めたから。その為の世話係だし」

 毅然とした面持ちで言い切った颯太に、みつ姉は、

「そうだったわね」

 そう頷いて笑った。

 元々、アリシアと颯太の関係はみつ姉が作ったようなものだ。

 何も知らないアリシアに、地球の事を教えるようみつ姉に頼まれた日。その日から颯太はアリシアとの同棲生活が始まり、そして、彼女の世話係になった。

 そんな関係が今は、互いに互いを支えるほどの仲になっている。絆と、そう言ってもいい。

 颯太にとってアリシアは、かけがえのない存在の一人になったのだ。

「だから、俺はアリシアを信じるよ。アリシアなら、きっとあの坂も乗り越えられるって信じてるから」

 眼前に見据える、長い長い坂。そこが、最終グループが登る、社に辿り着くための道だ。

 坂の名前は白崎坂――別名、人食い坂。

 この神輿担ぎが始まってから付けられた、地獄の坂だ。



 ――  5 ――


side颯太


 歓声が後ろの方から大きく聞こえてくる。

 人の波に揉まれながらそれを認識すれば、もう前のグループが最終地点まで神輿を運んできているのだと分かった。

 もうじき、アリシアの出番が来る。そう思うと、神輿を担ぐわけでもない颯太だが何故か妙に緊張してしまう。

 せめて一つくらいエールを送りたい。その気持ちが颯太の足を動かしていた。

 そして、人波の先。黒瞳はしっかりと捉えた。

「あ、いた! ソウちゃん、アーちゃんいたわよ!」

「ん、大丈夫。俺も見えてるから」

 幅二十メートルほどの神輿担ぎの為に確保された道路。眼前には何十人もの保護者やこの祭りの委員の人たちが忙しなく動いている。そして、これから最後のバトンを託されるであろう者たちが、湧く歓声になぞられて準備を始めていた。

 そこに、一際異色を放つ少女の姿もあって。

 颯太は白銀の少女の姿に目を奪われた。

「あー。やっぱり、アーちゃん緊張してるわね」

 隣に立つみつ姉が不安そうな声でそう言った。

 二人の視線の先に立つアリシアは、目を伏せたまま微動だにしなかった。ピン、とその場に立ったまま、まるで何かを念じているように。

 その姿に見覚えがあって、颯太は思わず笑ってしまった。

「みつ姉、アリシアは大丈夫そうだよ」

「え?」

 颯太の言葉にみつ姉が目を見開いた。理解できていないみつ姉に、颯太は黒瞳に白銀の少女を見つめながら答えた。

「あれ、俺が走る前にいつもやってたやつ」

「走る前……あぁ。確かに、似てるかも」

 振り返るみつ姉が、アリシアの姿に何かを似重ねたように淡い笑みを浮かべた。

 颯太が陸上部にいた頃。レースの本番前にやっていた儀式。それを、アリシアは真似ているのだと、颯太にはすぐに判った。

「まさか、あれをアリシアがやってくれるなんてな」

「嬉しい?」

「いや」

「そこは素直に嬉しい、って言いなさいよ」

 みつ姉に軽く脇腹を殴られて、颯太は必死に顔が嬉しさで綻ぶのを耐えた。

 あの儀式は、颯太が強くなるために掛けていた自己暗示だ。自分の力を認めさせるための儀式が、今、形を変えてアリシアの力になっていた。

 そんなの、嬉しくないわけがなかった。

「がんばれ、アリシア」

「もっと大きい声で応援してあげなさいよ」

「いいんだよ、これくらいで」

 からかうように言うみつ姉に、颯太は口を尖らせた。やっぱり、人前で大声を出すのは躊躇いがあった。

 だからせめて、この目でアリシアの雄姿を最後まで見届けるのだ。

 前のグループが、この最後のグループに神輿を渡す残り二百メートル前まで近づいて来ていた。

 最終グループがいよいよ動き出す。

 女の子の一人が駆け寄って、アリシアの肩を叩いた。目を開けたアリシアはその子と何かを話しているようで、時々笑顔をみせる。そして、女の子がこちらを指さして、釣られてアリシアが顔を向けた。そこでようやく、颯太とみつ姉の存在に気づいたらしく、アリシアは二人に大きく手を振った。

「ソウタさん! みつ姉さん!」

 大声で二人の名を呼ぶアリシアに、先に反応したのはみつ姉だった。

「しっかり応援するから、頑張ってね、アーちゃん!」

「はい、頑張ります!」

 胸の前でガッツポーズするアリシアは、次に颯太の方を見た。

「ソウタさん! 私、頑張りますからね!」

「うん。頑張れ」

 大きく手を振るアリシアに、颯太は小さく手を振って返す。その隣で、みつ姉が嘆息していた。

「それだけ?」

「いいんだよ、このくらいで」

「えぇ。せっかく女の子が頑張るっていうのに?」

「うっ……」

 みつ姉にジト目で睨まれて颯太は委縮してしまう。みつ姉の言うことはごもっともだ。これから、アリシアは過酷な坂を上る。そんなアリシアの苦労に比べたら、颯太の躊躇いなど石ころにすぎない。

「アリシアちゃんが一番応援してもらいたいのは、果たして誰なのかしらね」

「――――」

 アリシアの髪が薙いだ。もうすぐ、アリシアはこちらを振り返れなくなる。

 この心の奥底からのエールを、受け取ってもらえるのは、この瞬間しかない。

「っ」

 この中で、この世界で、一番アリシアを応援しているのは、間違いなく颯太だ。他の誰が言い張ってきたとしても、自分が一番なんだと、そう断言できる。

 みつ姉の言葉の意味は、きっと颯太の心情も見透かしたものだ。

 アリシアが待っているのは、誰の応援が欲しいのか、それは颯太の声だ。

 なら、こんな一時の恥じらいくらい消し飛ばしてしまうくらいの大声で――

「頑張れッ! アリシア――‼」

 これまで生きた時間の中で、颯太が出した一番の大声で、アリシアの背中を押す。

 その熱の入った応援は、周囲にだけでなく、確かにアリシアにも届いた。

 もう一度振り返ったアリシアは、これ以上ない自信に満ちた顔をして。

 満面の笑みをみせて答えた。

「ハイ‼ 頑張ります!」

 そして始まる、アリシアの神輿担ぎ。

『男子、行くぞォォォォォ‼』

『女子、行くぞぉぉぉぉぉ‼』

 雄叫びが、真っ青な晴天に轟く。



 ――  6 ――


sideアリシア


 最終グループから社までの距離は約六百メートル。

 社までの道のりは四百五十メートルまでは国道356号線の緩やかな坂道が続く。そこから残り百五十メートルは、地獄の坂を上らなければならない。

 それまでは緩やかな坂道を進んでいく。といっても、重量五百キロを優に超える神輿を肩に担いで歩くのだ。この行程も、決して楽ではない。

「アリシアちゃん。そろそろ交替しよ。ほら、ホカリ飲んで」

「ありがとうございます」

 一人の女の子がペットボトルを持ちながらアリシアに寄ってきて、アリシアは担いでいた神輿から肩を放していく。それと同時、重力に囚われていた体は一気に軽くなり、肩の痛みもわずかに引いた。

 神輿から十分に距離を取ってからペットボトルを受け取って、アリシアは一旦前線から退いた。

「お疲れー、アリシアちゃん」

「お疲れ様です。ふぅ」

「あっはは。やっぱキツイでしょ?」

 肩から息を吐くと、ケラケラと笑いながら隣の女の子が語り掛けてきた。確か、自分の後ろにいた人だ。大粒の汗を流すアリシアに比べて、彼女はまだ随分余裕そうにみえた。アリシアは彼女に苦笑を浮かべながら、「そうですね」と頷く。

「大変だとはソウタさんとみつ姉さんから忠告されましたが、実際にやってみると凄まじいですね」

 吐く息が鉄の味がして、アリシアは不快感を覚える。

 体感して、ソウタが最後まで止めようとしたのが身に染みた。確かに、運動能力も体力も平均的な自分がこの最終グループで担ぐのは厳しいはずだ。

「この道だけでも十分大変なのに、まだ全然ゴールが見えませんね」

「当たり前だよ。だってゴールは坂の先にあるんだから。その坂もあと少しで見えてくるけど、これからだよ、本当の地獄ってやつは」

「ごくっ」

 怖い顔で語る女の子に、アリシアは生唾を呑み込んだ。確かに、先に進んでいくにつれて、皆の顔も険しくなっている。疲れというより、恐怖や緊張で強張っている感じだ。

 坂の斜度も、徐々に上がっている。

 そんな緊張がアリシアも伝播して、肩に力が入っていく――そんな時だった、後ろから背中を強く叩かれた。

「そんな怖い顔しない! 祭りは苦しいもんじゃなくて、楽しむものでしょ」

「――ッ! そうですね!」

 ウィンクして答える彼女に、アリシアはハッとする。

 ――そうだ、オマツリは楽しむもの。精一杯楽しまなきゃ。

 二人は気付いていないが、その会話が周囲の緊張を僅かに解いていた。

「それに、初めてにしてはアリシアちゃん凄いよ。腕とかめっちゃ細いのに、どこから力が出てるのかなぁ。ここかぁ?」

「あはは、ちょ、ちょっとやめてくださいよ!」

 腕や脇や腹を触られて、アリシアはくすぐったくて笑ってしまう。

 ひとしきり弄られたところで、彼女は「それにしても」と問い掛けてきた。

「でもさ、どうしてわざわざこの神輿に参加したの? 私たちは部活とかで殆ど強制参加だったけどさ、アリシアちゃんは別になにもないでしょ?」

 その問いかけに、アリシアは一瞬だけ口を閉じた。そして、思いを馳せるように答えた。

「私の成長を、見て欲しい人がいるからです」

 それが、アリシアがこの神輿担ぎに参加した理由だった。

 アリシアは、少しでもソウタに恩返しがしたかった。その一つが、今までアリシアを傍で見守ってくれたソウタに、自分の成長を見せることだった。

「へぇ、それって、颯太さんのこと?」

「はい……えっ、なんで分かったんですか⁉」

 口には出していないはずなのに何故か気付かれて、アリシアは驚愕した。

「だって、二人はこの町の有名人だからね」

「私たちがですか?」

 思わぬ情報に戸惑うアリシアに、女の子は「そ」と頷いて、

「潮風町の若いおしどり夫婦」

「夫婦⁉ 私とソウタさんは結婚してませんよ⁉」

「傍からはそう見えるってこと。実際、さっきも熱烈な応援受けてたじゃない」

「あ、あれは……私もびっくりしましたけど……」

 にやにやと笑う彼女に、アリシアは頬が朱くなって俯いてしまう。照れているアリシアの顔を頂戴した後、彼女は「ごちそうさまでーす」と継いで、

「ま、この町で颯太さんは超有名人だからね。こんな田舎から全国優勝者! そんな人にカノジョができた、ってだけでも田舎じゃ噂が広がるもんですよ。……それにイケメンだし」

「か、カノジョでもないです!」

 真っ赤な顔で反論するアリシアに、女の子はまぁまぁと手を扇いで、

「とにかく、二人の仲はこの町の皆が知ってるってこと」

「うぅ。嬉しいような、恥ずかしいような、複雑です」

「うわぁ。なんかそういうの羨ましいな。私もカレシ欲しくなる」

 照れるアリシアに、彼女は恋する乙女の顔になっていた。けれどそんな顔はすぐに払拭して、彼女は再び凛とした表情を作る。

「よし、アリシアちゃん。その成長を颯太さんに見せられるように、また頑張るよ!」

「は、はい!」

 力強く言い切る彼女に、アリシアは気合を入れなおして拳を握る。

 そうだ。まずは目の前に集中。自分の成長を、ソウタに見届けてもらうのだ。

 その前に、

「あの、まだお名前聞いてませんでしたよね」

「ん? そっか。言ってなかったっけ」

 腕を捲る彼女は、バッと親指を自分の顔に付き指して、高らかに名乗った。

「私の名前は凛堂道火! ――これからよろしくね、アリシアちゃん」

「! はい。よろしくお願いします! ミチカさん!」

「道火、でいいよ」

「はい。――ミチカちゃん」

 地獄の坂まで残り三十メートル。

そんな時に、アリシアに新しく友達ができたのだった。


 ――  7 ――


side颯太


そして、アリシアたちはこの神輿の最大の難所――地獄の坂登りに突入した。

「いくぞ、男子! 女子に良いところ見せろよー‼」

「「「うおっしゃあ―――ッ‼」」」

 男子らは一層熱が籠り、熱の入った雄叫びを上げる。

 そんな男子らの隙間に神輿を担いでいる女子たち。その中には白銀の天使もいる。

「頑張れ、アリシア!」

「声、段々出るようになったじゃない」

「今はそういうのいいから、みつ姉もアリシア応援してよ」

「もう、わかってますよ。頑張れー、アーちゃん!」

 運ばれる神輿を追いながら、二人はアリシアに声援が届くよう大声で叫び続けた。

 アリシアは坂の入り口から神輿を担いでいる。どうやら、先の交替はこの為だったようだ。

 それまで緩やかな斜面が続いていた道のりは、坂の入り口とともに一気に斜度を上げる。それまでは順調に進んでいた神輿も、この坂に入ってから徐々にペースが落ち始めた。

「アーちゃん。苦しそうね」

「最初だから、て言っても、アリシアにはキツイはずだよ。本来なら体力自慢な連中が参加する場所だからね」

 アリシアの体力は颯太からみても女子の平均だ。いや、それより下かもしれない。力も、あの華奢な腕をみれば力強くはないのは明白だろう。それでも懸命に食らいつくアリシアの姿に、颯太は胸の奥が熱くなる。

 坂の入り口から五十メートルほど神輿が進んだ。残りは百メートル。さらに斜度が上がっていく。そして依然、ペースは下がっていく。

『気合入れろぉ、男子ぃ』『無理ぃ』『し、死ぬぅ』『こんな地獄、部活でも味わったことねぇよぉ』と現在担いでいる男子たちが嘆き始めていた。その気持ちだけは、経験者の颯太も理解できた。

「また変わったわね」

「うん。アリシアも下がった」

 再び、アリシアは持ち場を離れた。遠目からでも分かるアリシアの苦しそうな表情に、颯太は拳を握り締めることしかできない。

 それでも、今のアリシアは一人ではないようだ。何人かの女の子たちがアリシアの傍に集まって、水分補給や汗を拭くのを手伝っていた。どうやら、ここでもアリシアは友達を作ったらしい。

「ふは。アリシアらしいや」

 思わず、笑みが零れた。

 そして、周囲の目にはいよいよ社が見えてきた。

 残りはおよそ三十メートル。

 この坂の為に体力を残しておいたであろう交替した子たちも、さすがに体力の限界がやってきたらしい。神輿が今にも転がり落ちそうなほど傾いている。

 ここからは参加者の総力戦だ。残り僅かな体力を束ねて、この坂を上り切らねばならない。

 掛け声も、もはやまともに聞こえなくなっていた。

「完走、できるかしら」

 そんな風に呟いたみつ姉の声音は不安を孕んでいて、颯太もこの様子を見て一瞬同じ思念が脳裏に過った。

 けれどそれは、本当に一瞬だ。完走できるか、そんな不安はすぐに消える。

「みつ姉、そんなの杞憂だよ」

「え?」

 言い切る颯太に、みつ姉は呆気にとられたように目を瞬かせた。

 この神輿は必ず社まで届く。そう言い切れるのは自信が確かに颯太にはあった。

 だってこの中には、颯太を救ってくれた天使がいるのだから。

「皆さん、最後のもうひと頑張り、行きますよ‼」

 小さな天使が、不安など軽く消し飛ばしてしまうくらいの大きな声で叫んだ。

 その顔に不安はない。むしろ、この苦境を心底楽しんでいるように見えた。

 そして、アリシアの元気な掛け声は、周囲を瞬く間に賦活させた。

『よっしゃぁぁ! 全員、行くぞォォォォォ――――――――ッ!』

『ウォォォォォォォ‼』

 振り絞った声は、これまでで一番大きく聞こえた。

 社まで、残り十五メートル。

 人の目など気にせず、颯太は力強く叫んだ。

「頑張れッ! アリシア!」

 その声が届いたのかはわからない。けれど、真っ直ぐに前を見据えるアリシアは、確かに笑って――

「ハイッ! 頑張りますッ!」

 残り、十メートル。

 掛け声はまだ、力強いまま。

 残り、五メートル。

 全員の足が、力強くその境界線を踏み越えていく。

 そして、0メートル。

 歓声が空高く、天高く響いた。

 アリシアたちは見事、神輿を社まで届け切った。

 皆、その場で立ち尽くしたり、尻もちを着いていた。互いに健闘をたたえ合っている子たちや泣き出す子もいた。

 保護者たちも彼らの活躍を労っていて、この感動の時をカメラに収める人もいる。

「ほんと、皆よく頑張ったわね。ね、ソ……あれ、ソウちゃん?」

 気づけば、颯太は駆けだしていた。誰より速く、何者よりも速く、一番に彼女に伝えたい言葉が、颯太の足を動かしていた。

 颯太の向かう先は、当然――

「あ、ソウタさん。どうですか、私やり切りましたよ――」

 アリシアの姿を捉えた時、颯太は言葉より先に行動に出ていた。

 白銀の髪が舞う時、颯太は目の前の少女を力強く抱きしめた。

「そ、ソウタさん⁉」

「よく、頑張った、アリシア。キミは凄いよ」

 抱きしめられるアリシアは状況を理解できておらず、顔を真っ赤にして手をばたばた振った。

「あ、あのあの! 今私、汗でびしょびしょですから、離れてください!」

「そんなの気にしないから」

「私が気にするんです! それに、ホラ! 周囲の目もありますし」

「どうだっていいよ」

「私がよくないんです⁉」

 女子たちの歓喜の悲鳴。男子の羨望の叫び。周囲のどよめき。その全部が聞こえている。それを分かって尚、颯太は自分がしたい行動をしていた。

 強く抱きしめられるアリシアは、最初は抵抗していた。けれど、それも無駄だと理解したのだろうか、やがて観念したように抵抗をやめた。そして、颯太の胸に顔をうずめた。

「本当に、お疲れ様」

「はい。私、頑張りましたよ。ちゃんと、見ててくれましたか?」

「あぁ。しっかり見てたよ」

「途中、苦しかったですけど、最後にソウタさんの声が聞こえました。頑張れって。だから私、最後まで頑張れたんです」

「そっか。キミの力になれたなら良かった」

「凄く、勇気貰えました。ありがとうございます」

「はは。どういたしまして」

 ゆっくりと、颯太はアリシアの体を離していく。そして二人、ようやく顔を見合わせた。

「やっぱり、ここでやるのはやめとくべきだったかな」

「今言いますか、それ」

 周りの人達は颯太とアリシアに釘付けだ。神主も箒を落として見ていて、颯太はやっと自分の取った行動に羞恥心が追い付いてきた。

「ぷっ」

「ふふ」

 大胆な行動をした自分が可笑しくなって、つい笑ってしまった。アリシアも、釣られて頬を膨らませた。

「本当に、アリシアと居ると調子狂うよ」

「もう、それ褒めてるんですか」

「褒めてはないかな」

「酷い⁉ そこは褒めてくださいよ~⁉」

 二人、笑い合った。他愛無い会話に、心の底から。

 ――こうして、ウミワタリ一日目。アリシアの神輿担ぎは無事に終了した。


 ――  8 ――

 

side颯太


 それから、時は立って二人は海辺にいた。

 神輿担ぎを頑張ったご褒美をあげると提案したところ、アリシアが海に行きたいと所望したのだ。颯太は、初めはそんなことでいいのかと聞き返したが、今のアリシアの満足げな顔を見ればどうでも良くなってしまった。

「うわっ。冷たい! 冷たいですよ、ソウタさん!」

 さざ波を裸足で蹴って進むアリシアは、楽しそうに振り返った。

「そうだな。気を付けなよ、転ばないように」

「はーい」

「ところで、なんで海に来たいと思ったのさ、明後日には来るのに」

 少し離れた所からそんな疑問を声にすると、アリシアは目を細めて答える。

「そうなんですけどね。でも、私、この町に来てからちゃんと海というものを見たことがないと気がつきまして」

「あー。言われてみれば確かに。沿岸沿いは何度も行ったけど、海は二人で来たことなかったっけ」

「はい。なので、せっかくだから海を見たいと思ったんです」

「そっか」

 夕焼けと海面の境界線を、アリシアは耽るように見つめていた。その表情がどこか儚げな気がして、颯太は上手く言葉を返せなかった。

 一つ、息を整えると、颯太もその境界線を見つめながら聞いた。

「それで、念願の海はどうだった?」

「今まで一番見た景色で、一番綺麗です」

「それは良かった」

 アリシアの答えに、颯太もまた満更でもない笑みを浮かべて頷いた。

「また、同じ景色を見られたらいいのに」

「なら、明日も来ようか?」

「ふふ。そういう意味じゃないですよ」

「ん?」

 呟いたアリシアの言葉に反応するも、彼女は首を横に振った。そして、足元に流れる波を両手で掬いながら言う。

「この時間は、今この瞬間にしかありません。もし明日、またこの海に来たとしても、似ている景色が見られるだけで同じ景色は見られません。だから、この時間が特別なんです」

「――――」

 アリシアの掬った手から水が零れ落ちていく。ポタポタと。それはまるで、時を遡らせることはできないと現しているように見えて。

 掬った水が手から全て零れ落ちて、アリシアがゆっくりと颯太に金色の瞳を向ける。夕焼けを映し込むその瞳は、息を呑むほど美しかった。

「この景色を、貴方と見られてよかった。この瞬間は私にとって、忘れることのない思い出です」

 その言葉が胸を鷲掴んだと同時、颯太は彼女に異変に気付く。

 彼女の左腕にある紋様のような痣。それまで颯太が意図的に無視していたそれが、この時間の中で大きくなっている。まるで、彼女を取り囲むように。

「……アリシア。腕の痣が⁉」

「あぁ。やっぱり、長くはないんですね」

「なんだよ、やっぱり、って」

 無視できない言葉を拾って、颯太は声を震わせた。

「ソウタさん。今から少しだけ、私の話を聞いてくれますか?」

 けれど、アリシアは応えなかった。一方的に話し掛けるような態度に、颯太は波を蹴って肩を掴んだ。

「アリシア! 長くないってどういうことだよ⁉ 腕の痣も、なんで急に広がって……」

「痣じゃないですよ」

「え?」

 そう言われて、颯太は面食らった顔になる。アリシアに突如起こり出した異変に、思考が追い付かなかった。

 立ち尽くす颯太に、アリシアは広がっていくそれを右手で触れながら語り出した。

「これは、烙印です。天界においてこの烙印は、『罪科』を背負う者の証なんです」

「罪科?」

 呆気取られる颯太は、彼女の左腕に視線を落とした。

「私は、天界で禁忌を犯しました。何を犯したのか、それは契約により明かせません。告げようとしても、噤まれると思います。そして、私は天帝様が下した裁定によって魂の消滅が決まっていました」

「――――」 

 語られていくアリシアの過去に、颯太は息を呑む。

「私は裁定後すぐ、消滅するはずでした。ソラと空の狭間に落ちて、永劫蘇ることなく宇宙の塵になっていた――けれど、私の魂はどうしてか、この地球に堕ちてしまった」

「まさか……」

 脳裏に過る可能性に、アリシアは肯定だと頷いた。

「流石はソウタさんです。そうです。そうして消滅を免れた私の魂が行き着いた先が、この潮風町でした」

「だから……キミはあの時、空から落ちてきたのか」

 今まで感じていた疑念が一気に晴れていく。一つ一つの点が結ばれて、線となり繋がった。

 本来、消滅するはずだったアリシア。それが奇跡か偶然か消滅を避け、この地球に辿り着いてしまった。その果てで、颯太はアリシアと、奇跡と呼べる邂逅を果たしたのだ。

「本当に、私がソウタさんと出会えたことは奇跡でした」

 アリシアは思い出に浸るように語る。

「あの時、消滅するはずだったこの魂は、この世界にきてもう一度消滅するはずでした。でも、ソウタさんが私を見つけてくれて、そして助けてくれた」

 それから、とアリシアは続けた。

「ソウタさんは私に色々なことを教えてくれました。勉強の仕方。文化や歴史、お掃除や料理の仕方。貴方から教わった全ては天界になくて、楽しい時間でした」

 それだけじゃない、

「この町で、沢山の親切な人たちと知り合えました。朋絵さんや陸人さん。今日お友達になれたミチカちゃん。みつ姉さんのような素敵なお姉さんもできました」

 温もりが胸から溢れていくたびに、烙印はアリシアのその温もりを蝕んでいく。

 それでもと、アリシアの手が颯太の頬を撫でた。

「なによりも……貴方の傍に居られた時間が、私にとって一番の幸せでした」

 触れた温もりは一瞬。アリシアの手が波のように引いていく。

「――でも、そんな幸せを、罪科を負う者が何もせず受け入れていいはずがないんです」

「そんなことあるか!」

 颯太はアリシアの言葉を力強く否定する。

「誰にだって、幸せを願う権利はあるんだよ。アリシアが天界でどんな罪を犯したのか俺は知らない。でも、だからって幸せになっちゃいけないなんてことはない。それを背負いながらでも、幸せになれる方法があるはずだ」

「ソウタさん」

 泣きそうなるアリシアの頬を、今度は颯太が両手で触れた。

「キミは俺を助けてくれた。止まった時間をまた動かしてくれた」

 アリシアは誰にも打ち明けられなかった過去に終止符を打ってくれた。アリシアがいなければ、颯太は今も立ち止まったまま、無意味な毎日を生きていただろう。

 そんな彼女に救われた颯太だからこそ、今度は――

「次は、俺がアリシアを助ける番だ。時間がない、なんてことはない。きっと、二人で探せばどうにかなる方法がある」

「そんなのあるわけ……」

「見つけるんだ。二人で、一緒に」

 否定しようとするアリシアを強く振り切って、颯太は言い切る。

「まだこの世界でやりたいこと、沢山あるんだろ。だったら、全部やろうよ」

「ソウタさん……っ」

 目尻に涙を溜めて、今にも泣き出しそうな天使にそう言って微笑んだ。

 例え、アリシアが天界で禁忌を犯していようと、颯太にとってアリシアは紛れもなく天使なのだ。自分を救ってくれた、ただ唯一の天使。

 ならば、その天使にこれからどれほどの絶望が襲い掛かろうと、それを共に乗り越えていく。そう、心に固く決意した時だった。

「やっぱり、私を見つけてくれたのがソウタさんで良かった」

 ぽつりと、アリシアが呟いた直後だった。

「――ッ」

 突如、周囲に眩い光が迸る。颯太はその光量に、反射的に目を強く閉じた。

 いったい何が起きたのか、この数分で起こるアリシアの異変に脳がいよいよ追いつかなくなってくる。食らいつくのに必死で、颯太は熱の冷めない脳を酷使させ続けた。

 徐々に、視界の覆う光も減っていくのが分かった。

 ゆっくりと瞼を開けていくと、眼前に広がった光景に目を瞠った。

「翼だ」

 夕焼けを覆い隠すほどの大きな翼。それは穢れを知らない純白だった。

その翼は、白銀の天使の背から生えていた。

「アリシア、それって」

「はい。これは私が天使である何よりの証拠。たった唯一、私がまだ天使だと言える証です」

 バサリ、と翼は大きく音を立てて存在を主張しようとする。

 颯太はただ茫然と、驚愕したまま声が出せなかった。そんな颯太の心情を汲んだように、アリシアは弱々しくはにかんだ。

「私も正直、驚いてます。まさか私に、まだこんな綺麗な翼が残っているとは思いもしませんでした」

 颯太はアリシアと出会った当初のことを思い出す。確かに、アリシアは翼は全て抜け落ちたと語っていた。

 自分自身で何度か背に生やした翼を確認しているのだから、本人も予想外なのは本当なのだろう。

 アリシアは夕焼け空を覆う翼を胸の前に持ってくると、朗らかな声音で言った。

「もしかしたらこの翼は、この町の人たちの優しさで生まれたのかもしれませんね」

「――そうかもね」

 冗談のつもりで言ったのだろうが、しかし颯太は肯定した。

 アリシアがこの町の人たちに温もりを与えたように、この町の人はアリシアに温もりを与えた。その想いの形が翼となって顕現されたのなら、アリシアはもう『咎者』ではないはずだ。

 だから。

「アリシアはこの世界に居ていんだ。この町に居ていいんだよ。消えることなんてない。その翼がキミの言う通りこの町の人の優しさで出来たものなら、それはキミがこの町で皆に優しさを与えたからだ」

「――――」

「そんな大きな翼なら、飛ばなきゃもったいないだろ。何処へでも行こう。一緒に行こう。この世界が……キミの居場所だ」

「――ッ」

 アリシアなら、何処へ立って飛べるはずだ。その翼で――否。翼なんかなくとも。

「キミが背負っている罪で何処にも行けないっていうんなら、俺がその罪を一緒に背負ってやる。神輿担ぎみたく。そうすれば、重くたって飛べるだろ?」

 それでも飛べないというのなら、颯太だけでなく、他の人も借りればいい。

「みつ姉だっている。朋絵も陸人だっている。アリシアには沢山友達がいる。その人たちの手を借りながら、歩けばいい。生きて行けばいい――アリシアは一人じゃないんだ」

 アリシアに手を伸ばした。

「キミが居なくなったら、悲しむ人たちが一杯いる。だから、生きる方法を探そう、アリシア」

「――――」

 颯太の心の底からの叫びが、逡巡するアリシアの心を動かしたのは間違いじゃなかった。

 ゆっくりと、アリシアも手を伸ばし出したから。

 ――絶対に、キミを消させはしない。

 互いに伸ばした手が絡み合う――刹那だった。

「そこまでだ。地球人」

 どこからともなく聞こえた声。それが耳朶に届いた瞬間。

「づあ⁉」

 不可視の衝撃波に体が吹っ飛ばされて、颯太はそのまま海面に顔を叩きつけた。

 理解できない状況から、颯太は即座に海面から顔を出す。向ける先は迷うことなくアリシアだ。

「ブハッ! ……アリシア⁉ よかった、無事で……」

 安堵しようとして、しかしそうはならなかった。何故なら、アリシアを捉える黒瞳はもう一人別の姿を捉えていたからだ。

「お前、誰だ⁉」

「口の利き方がなっていないな。地球人」

 吠える颯太に、それは鋭い視線をぶつけた。

 颯太を地球人と呼ぶそれは、豪奢な衣装を纏っていた。

 緑を基調に黄金のラインが入ったローブ。片手に持つ錫杖には、紫水の水晶が嵌めこまれている。そして何よりも目を引くのは――翼だった。

 颯太は即座に悟った。

「お前……天使か」

「貴様にそれを知る意味もなければ、私は貴様に用もない」

 睨む颯太を一瞥して、天使はアリシアに向き直った。

「探しました。純大天使・アリシア様……いえ、罪科・アリシア」

「その顔、まさか貴方、アムネト?」

 どうやら、アリシアは見覚えのある天使らしい。ピクリと眉を動かしたアリシアに、アムネトと呼ばれた天使は僅かに微笑を作ると、すかさず顔を引き締めた。

「覚えていてくれて光栄です。ですが、次に私の名を呼ぶ時には〝様〟を付けてください。今や、私の階級は貴方が天使であった頃より格上だ」

「……そう。聖大天使になられたのですね。だから、私を連れ戻しにこれた」

「えぇ。他の生物に干渉を許されているのは、この階級だけですから」

「ならば何も、言うことはありませんね」

 二人だけで繰り広げられる会話に、颯太は呆然と無理解を示す。

「最後の時間はもう十分お過ごしになられたでしょう。これ以上、貴方に時間を掛けたくありません」

「えぇ。聖大天使の寛大なるご猶予。深く感謝致します」

「……立場を弁えてくれてなによりです」

 アリシアはアムネトに聞こえる程度に呟く。

「私がこの場で足掻けば、ソウタさんを巻き込むつもりでしょう」

「そんな手荒な真似はしません。が、もしも、はあるかもしれませんね」

「ッ!」

 脳がやけに重く、颯太はアリシアとアムネトの会話が聞こえなかった。

 けれど、脳が鳴らす警鐘は正しいと判断できた。

「おいっ。そこの天使、アリシアをどうするつもりだ……っ!」

 立ち上がろうとする足を、波が邪魔する。それも力づくで振り払って、颯太は正面に立つ天使を鋭く睨んだ。

「――――」

 彼の返答を待つ颯太。だが、口を開いたのは彼ではなくアリシアだった。

「ソウタさん。ごめんなさい、ここでお別れです」

「⁉ 何言って……アリシア!」

 突然別れを切り出されて、颯太は目を剥く。

 アリシアとアムネトの背後の時空が歪んで、亜空間が現れたのだ。

 それに気づいた直後、颯太は駆けだした。このままではアリシアが連れて行かれると、本能で理解したのだ。

 砂と波を蹴り上げ、颯太は駆けた。否、駆けたというには遅い。足掻いたといった方が正確だろう。

 足掻く颯太は、夢中で手を伸ばした。アリシアも手を伸ばせば、掴める距離だった。

「⁉ どうして!」

 それでも、アリシアは手を伸ばさなかった。

「もっと沢山、皆さんと一緒に……ソウタさんと一緒に居たかったです」

 亜空間に呑み込まれる刹那。アリシアは瞳に涙を湛えながら、そう言った。

 そして、告げられた。

「さよなら。そしてありがとう――私の世界で、一番大切な人」

 手を伸ばす。伸ばし続けた。腕が千切れても構わないほどに。

「待って、アリシア――――ッ!」

 そして掴んだものは、たった一枚の羽根だった。

 体はそのまま前のめりに倒れていって、颯太はその場に崩れ落ちた。

 周囲には、波の音だけが聞こえた。

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼」

 ただ、叫ぶことしかできない自分を、呪わずにはいられなかった。

 アリシアと別れは、あまりにも唐突すぎた――。



 ――  9 ――


side三津奈


「んぅ~~。つっかれた」

「お疲れ、三津奈」

 んー、と腕を伸ばす三津奈の隣で、晴彦が労っていた。

 早朝の五時から走り回り、時刻はすでに十九時を回ろうとしている。やる気はまだ残っているが、流石に十四時間も外に出っぱなしでは体の方が悲鳴を上げていた。

「家に帰ったらすぐお風呂は入ろー。……屋台は、明日でもいいかなぁ」

「そうだね。あ、でもどうする? ご飯は買って帰る?」

「うん。もう作る体力残ってないから、今日は屋台のもので夕飯にしよう。祭りって雰囲気も味わえるしね」

「賛成」

 晴彦が親指を立てて同意した。

「あとお酒ね!」

「飲み過ぎないでね、三津奈。明日もあるんだから」

「わかってますぅ」

 晴彦が苦笑いで釘を打つのを、三津奈は口を尖らせた。

「そうだ。晴彦くん。夕飯買っていくなら、今日はソウちゃん家に行かない?」

「えぇ? 俺は全然構わないけど、颯太は嫌がるんじゃないの?」

「なんでよ?」

 首を傾げる三津奈に、晴彦は「やっぱり覚えてないんだ」と頭を抱えた。

「ここで明かすのもあれなんだけどさ、三津奈、酒癖凄い悪いよ?」

「う、嘘でしょ?」

 四年目にして明かされた事実に、三津奈は愕然とする。そんな覚えが全くない三津奈からすれば相当なショックだった。もしかして忘年会や親睦会、はたまた町内会議でもやらかしてしまったのでは、と顔色を蒼くしていると、晴彦は「違くてね」と弁明を入れた。

「うん、まぁ、俺や他の人なんかと飲む時はちゃんと意識がはっきりしてるっぽいんだよ。たぶん、大人としてのスイッチが入ってるから、なんだろうけど」

「じゃあ……」

 混乱する三津奈に、晴彦はぽりぽりと頬を掻きながら、面白おかしそうに言った。

「でもさ、颯太の前だと、そのスイッチが完全にオフになるんだよね。もうね、凄いよ。颯太の首に腕回して、ゲンキデスカー⁉ とか、いい加減彼女作れー、とか……彼氏の俺がいうのもなんだけど、あれは俺も同情する」

「そ、そんなに酷いの⁉」

 八年付き合っている彼氏が引くのだからそうなのだろう。

「ちなみに、去年、三津奈が颯太に何やったか聞きたい?」

「う、うん」

 聞こうか躊躇ったが、三津奈は覚悟を決めて頷いた。

「膝十字固め決めてたよ」

「ちゃんと謝ろう! ソウちゃんに!」

 明かされた失態に、三津奈は赤面して叫んだ。幼馴染に膝十字固めを決める女。自分でもドン引きする程の所行だ。

「そうしなよ。あと、颯太の前ではお酒控えな」

「はい。そうします。反省してます」

 反省どころか猛省だ。俯く三津奈に晴彦は苦笑うことしかできなかった。

 そんな気まずい空気を換えるためか、晴彦は演技染みた声を上げた。

「ほ、ホラ、ここでこんな話してるのもなんだし、早速屋台のほうに戻ろうよ!」

「そ、そうね。買いに行きましょう!」

 晴彦の提案に乗って、三津奈は夕日が赤く染める道路を歩き出した。向かうは漁港の駐車場で、距離はそう遠くない。

 段々と、夕日も沈んでいって辺りも暗くなってくる。すでに街灯が照らし出されていて、肌に当たる海風が心地良よりも冷たかった。

 暴露された事実から数分がすぎて、思考も段々と落着きを取り戻してくる。そうすると自然とこんな言葉が零れた。

「まぁ、ソウちゃんの事だし、何も言ってこないならこのままでいい、ってことよね」

「その自信どこから来るの?」

 数分ぶりの一声が先程の反省をひっくり返したもので、晴彦は衝撃を隠し切れなかった様子だ。

 そんな彼氏の疑問に、三津奈は至極当然のように言った。

「だって私は、颯太のお姉ちゃんですから」

「――――」

 その声音にどんな想いが籠っているのかは、晴彦はすぐに察したらしい。

「晴彦くんにとっても、ソウちゃんは可愛い弟分でしょ」

「そこは素直に弟でいいんじゃないかな」

「あら、もうすっかり夫気分?」

「そ、それはまだ……もう少し先の話で」

「もうっ、私の周りの男は全員優柔不断なんだからっ」

 照れる晴彦に、三津奈は嘆息した。それから、

「でも、今日のソウちゃんには私も少し見惚れちゃったかも」

「え⁉」

 突然晴彦が目を白黒させた。

「そっか。晴彦くんは知らないんだっけ、今日の子ども神輿でソウちゃんがやった武勇伝」

「ぶ、武勇伝⁉ なにそれ凄い気になるんだけど」

「ふふ。じゃあ教えてあげるわ……」

 そして、三津奈は午前の神輿で何があったのか晴彦に語り出した。

 アリシアが大活躍だったことも。颯太が初めて大きな声を出したこと。

 三津奈は誇らしげに全部を伝えた。そして、颯太が公衆の面前で大胆にアリシアを抱きしめたことを。

 それを聞き終えた晴彦は、感慨深げに吐息した。

「まさか、あの颯太がそんな大胆なことするなんてな」

「ね。私も、周りも驚いたわよ。ガッ! とアーちゃんを抱きしめて、二人だけの時間見せつけられちゃったわ」

 その後の盛り上がりは言わずもがな、その熱は今も祭りを盛り上げている。例年に比べて、学生たちが祭りで盛り上がっているのだ。午前の子どもの部が大反響だっただけに、夜の大人の神輿は一層気合が入ることだろう。

「颯太がアリシアちゃんに好意的なのは見るまでもなくだったけど、そんな風に抱きしめる、なんてのは今までしなかったはずだよね」

「ソウちゃんは奥手だから。でも、アーちゃんの頑張りに何かせずにはいられなかったんでしょうね」

「好きな人の前だと、人は変われるもんなんだね」

「あら。私は、晴彦が私のために変わったとなと思う面がないのですが」

「ありままの俺が好き、って言ってくれたのは三津奈だろ」

「そういえばそうでした」

 二人で笑い合ってから、

「となると、今頃、颯太はアリシアちゃんに告白でもしてるかもな」

「そうね。そうだといいけど……」

 晴彦がそんなことを呟くのを、三津奈は神妙な顔で頷いた。

 颯太とアリシアが結ばれるのは、三津奈にとってそれ以上ない宿願だった。

初めは、アリシアなら颯太を変えてくれるのでは、そんな淡い期待を込めて提案した同棲生活だった。それが今、二人の関係は三津奈が想像した以上になろうとしている。

 もしも、颯太とアリシアが付き合うことになれば、三津奈という姉の存在は必要でなくなる時がくるのだろう。ふとそんな想像が脳裏に過って、三津奈は胸中に生まれた感傷に浸った。

「……な……つな……三津奈っ」

「⁉」

 ふいに大きな声が耳朶に響いて、三津奈はハッと意識が我に返った。かぶりを振って、三津奈は名前を呼んだ晴彦に「どうしたの」と聞き返した。

「いや、あそこに誰かいる」

「え? あそこって……」

 困惑しながらも、三津奈は晴彦が指さした方角を目で追った。

 周囲はすでに薄暗く、晴彦のように人の姿をうまく捉えることができない。それでも、三津奈は目を凝らして見る。

 黒い物体が、海辺にあるのはどうにか捉えられた。

「確かに人っぽいけど……岩じゃなくて?」

 そう言うと、すかさず晴彦が反論した。

「海辺だよ? それに、あんな大きな岩、漁港の人たちがみたらすぐ退かすでしょ」

「そう言われればそうだけど……」

 自分より遥かに海の事情に詳しい晴彦の言葉には説得力があった。

 しかし、三津奈が疑問視するのも無理はなかった。こんな暗い時間に海辺に人がいれば、それこそ自分たちより先に見かけた人たちが注意するはずだ。屋台の集中する場所から離れているため人通りが少ないのは分かるが、それでもこの町の住人ならこの時間帯に海辺に近づくことはなしないはずだ。

「とりあえず、もっと近くで確認しましょ。それで人だったら、注意しようよ」

「……そうだね」

 三津奈の提案を、晴彦は歯切れ悪く頷く。やはり、晴彦の表情がどこか重い。

 三津奈と晴彦は、ゆっくりとそれに近づいていった。

 晴彦はおそらく、相手が相手だった場合を想定しているのかもしれない。突然襲って来るような奴ならば、先に襲われるのは十中八九、女である三津奈の方だろう。だから、晴彦は慎重に行動しているのだろう。

「大丈夫よ。晴彦くん。私だってそれなりに鍛えてるんだから」

「それでも、だよ。三津奈にもしもの事があったら、俺は悔やんでも悔やみきれない」

 そういう所は男らしい晴彦に、三津奈は場違いにも見惚れてしまいそうになる。僅かに孕んだ緊張がそうはさせなかったが、そんな決めた台詞は日常でも欲しいなと思ってしまった。

 三津奈の思惑を他所に、二人の足取りは歩道を跨いで砂を踏んだ。そして、次第に謎の黒い物体の正体も掴み出していく。

 それはやはり、晴彦の言葉通り人だった。それが明らかになって、三津奈の恐怖心が強くなる。

「――――」

 それは、こんな暗い時間の海辺で倒れ込んでいた。両手両膝を砂に突き、押し寄せる波に微動だもしない。

 恐怖心が増していく。無意識に、三津奈は晴彦の腕を掴んだ。

 晴彦が、声を出した。声音が、恐怖とは別の感情で震えていた。

「ねぇ、三津奈……あれって……」

「なに、晴彦くん」

 どうしてか立ち止まった晴彦に、三津奈は怪訝に顔を顰めた。

 晴彦は三津奈より目が良い。暗がりでも人を見分けられるほどだ。

 その晴彦が数秒後に放った言葉が、三津奈に衝撃を与えた。

「あれ……颯太じゃないか?」

「え?」

 まさか、と三津奈は初め言葉を疑った。こんな暗がりに、まして颯太が一人のはずがない。アリシアと一緒にいるはずだ。それを、三津奈は晴彦にそのまま言葉に伝えた。

「何言ってるの、晴彦くん。ソウちゃんならアーちゃんと一緒にいるわよ。神輿の後から、ずっと二人きりだったんだから」

「でも……あれは颯太だ」

 三津奈の言葉を振り切って、晴彦は断固としてあの人影を颯太だと言い切る。

「そんなはず――」

 胸に沸いた、ただならぬ不安。

「ソウちゃん?」

 気づけば、三津奈は人影に向かって名前を呼んでいた。

 どうか間違いであってほしい、振り向かないでくれ。

三津奈と晴彦は、同じことを胸中に宿していた。

そんな願望を宿しながら投げかけた声に――しかし人影は振り向いてしまった。

ゆっくりと振り返ったその顔は、間違いなく颯太で。

「――ッ!」

 晴彦より速く、三津奈は駆けだした。波を蹴って、濡れることなど厭いもせず、三津奈は颯太の下までただ全力で走った。

「ソウちゃん! ソウちゃん!」

「……みつ、ねえ……」

 颯太の下まで行って、三津奈は彼の肩を激しく揺らした。力なく揺られる颯太の体に熱はなく、冷え切っていた。いったい、どれだけの時間、波に打たれ続けていたのか。

 その顔に生気がなくて、三津奈は一層恐怖心に煽られた。

「ねぇ、ソウちゃん⁉ 何があったの⁉」

「――――」

 何度呼び掛けても、まともな返答がない。

「ソウちゃん、アリシアちゃんは⁉ あの子は何処にいるの⁉」

「――――」

 アリシアという単語に初めて反応があった。ぴくりと眉が動いて、そして、言い表せようもない悲壮感が颯太の顔を歪めた。

「――た」

「……え」

 掠れた声音で颯太が何か言おうとしたのが分かった。三津奈は耳を颯太の口に近づけて意識を集中させた。

「また、俺の大切な人が……居なくなった」

 泣くことも疲れたような、そんな声。

 そして。 

「ソウちゃん⁉ ソウちゃん⁉」

 颯太は目を瞑って、三津奈の肩に倒れかかる。何度呼び掛けても、今度こそ返事は帰ってこない。全身から血が引いていく。

「晴彦くん、急いで救急車呼んで‼」

「分かってる!」

 叫ぶ三津奈に、晴彦は既に手に持ったスマホを操作した。

 数分後。赤いランプを明滅させた救急車が到着。そしてすぐに颯太が運ばれた。

「お願い、ソウちゃん……死なないでッ」

 冷たい手を、三津奈は強く握り締め続けた。

 ――ウミワタリ一日目は最悪の形で幕を閉じた。

 

         ―― Fin ――




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