第15話 答え合わせ


「何故魔族は人間界にやってきたのか・・・」


ローブ男は笑みを浮かべたまま、俺の方を見ながら口を開いた。


「あなたの仮説では、魔族は魔界にいられなくなった。ってことでしたね。その要因として、天変地異、魔族同士の争い、何者かによる魔界侵略、と挙げていましたが・・・今もその考えに変わりは無いですか?」


さっきこの男は、最初の魔族はエルフと人間を見間違えて攻撃したと言った。

つまり、魔族はエルフを敵と認識していたことになる。


エルフと人間の見た目はよく似ている・・・

その特徴ある尖った耳を隠せば、人間と一緒にいても見分けられないだろう。

人間を見慣れていない魔族にとっては、どちらも同じように見えたのかもしれない。

そして攻撃してしまった・・・人間を・・・


500年前の魔族と人間との戦いにまで、エルフが関わっていたというのか・・・?


まさか・・・


「エルフによる魔界の侵略・・・?」


エルフは争いを嫌う種族と言われている。

だが、もしもその前提が間違えていたら・・・?

俺は魔族=悪の固定概念を崩そうとしていた。

ならば、エルフが悪では無いという概念も、考え直す必要があるのでは・・・


「うーん・・・残念ながら、魔界を侵略しようとは思わないですね・・・あんなつまらない所、自分のモノにしたいとは思いませんね・・・」


期待外れの答えだったらしく、男は目をつぶり、残念そうに首を振った。


俺は他に考えられる答えを探す・・・

そして目の前の男を見つめる。


魔族が人間界に来たことに、エルフが関わっているのは間違いないのだろう。


ホントに、人間にとっても魔族にとっても、エルフが関わるとろくな目に合わない・・・


・・・あ。


何を深く悩んでいたのだろう。

あるじゃないか。

俺も経験したじゃないか!

魔族が人間界に来た原因・・・


魔族が異世界に来た原因が・・・!


「エルフによる異世界召喚・・・」


「御明答。さすがですね」


俺の答えに、男は満足そうに微笑んだ。

そして続けて話し出した。


「魔界は本当に何も無い所なのですよ・・・日の明かりもない、暗闇の世界の中にあるのはマグマとそれが固まって出来た岩石くらい。そんな世界で一生を過ごすなんて可哀想じゃないですか・・・。なので、連れてってあげたのですよ。楽しい異世界へ」


ローブ男はいかにも良いことをしてあげたと言うかの様に語っている。


「異世界に行けるなんて、夢のような話でしょう?それを経験させてあげたのですよ」


異世界が、自分にとって必ずしも良い場所では無いことは、俺が身をもって知っている。


ならば、魔族がエルフと思って攻撃したのは、その勝手な行動に腹を立てたのだろうか?


「ああ、それはね」


俺の思考を読み取ったのか、ローブ男は何かを思い出したように話し出した。


「最初に人間界に飛ばした魔族が、他の魔族の魔石を持っていてね・・・。人間界に送った時に、その魔石を落としたのですよ」


偶然・・・という言葉を強調する様に話すが、その表情は意味ありげな笑みを浮かべている。


「姿を消した後に残った魔石を見た仲間の魔族が、殺されたと勘違いして私に攻撃をしてきたのですよ。もちろん、私にそんな攻撃効きませんでしたが・・・。でも私は寛大な心を持っているから、攻撃されたからって、殺しませんでしたよ?平等に、ちゃんと人間界に送ってあげました」


そういう事か・・・


仲間を殺されたと思った魔族が、人間界に来た時、そこに居合わせた人間をこの男と見間違えて攻撃を仕掛けた・・・

しかし、人間はその攻撃を防ぐ手段を持たず、攻撃を受けた人間は死んでしまった。


そしてそれが人間と魔族が敵対する、最初の原因となてしまった・・・


「人間は、魔界から魔族が侵略に来たとか騒いでましたが、魔族は人間みたいに欲深い生き物ではないのですよ」


そう言うと、少し軽蔑するような眼差しで俺の方を見た。


「食欲も無ければ性欲も無い。自分自身で子孫を作ることが出来るのですよ。人間が生き残るために必要とするものは、魔族には必要が無いのですよ。楽な生活がしたい、楽しい事がしたい、そんなことを考えるほど魔界には何も無いのです。あるのは仲間との絆くらいでしょうか」


そう言うと、男は少し俯き、頬を緩ませた。


「あんな外見で無欲で仲間思いとか、ちょっと面白いですよね・・・ふふっ」


だからその笑いのツボは何なんだろうか・・・


たしかに、この男の言う通り、人間は欲深い生き物だ。

ならば、この男はどうなのだろうか・・・?

エルフは、争いを嫌い、人とも交わろうとせず、静かに暮らす事を望む生き物。

この男を見る限り、そんなイメージは結びつかない。


他のエルフ達もこんな性格しているのか?


「あ、ちなみにエルフと呼ばれる存在は私だけしかいませんよ。森で暮らしている様に見えるエルフ達は、みんな私の魔力で作った分身ですから」


・・・・・・今さらっと爆弾発言しなかったか・・・?

エルフはこいつ1人だけ・・・?


「さすがに私と同じような存在がいたら、ここまで自由に動けませんよ」


それは確かにそうかもしれないが・・・

ならば、エルフのとった行動とは、全部この男がとった行動という事になるのか・・・?

魔族をこの世界へ送ったのも・・・エルフと人間の同盟を結んだのも・・・


すると、ローブ男は俺にニッと笑ってみせた。


「エルフは何故人間と同盟を結んだのか・・・?あなたは人間があの兵器をチラつかせて脅したと言ってましたね」


そう、俺はエルフはてっきり兵器を恐れて、と思っていた。

だが、その話をしていた時、この男は肩を震わせて笑っていたのだ。


「まさかそんな理由で・・・ふふっ・・・あんなちゃっちい攻撃で私の結界がやぶれるとか、本気で思ったのかと・・・はははっ!」


男は我慢ができなくなった様子で話をしながら笑いだした。


「しかも君は私を人質だと思ったようだね!あっははは!そんな訳あるはずないじゃないか!!」


いつの間にか口調が変わったローブ男は、声を上げて笑っていた。


なんだこいつ・・・!?


その表情は、まるで少年のように、純粋に楽しんでるようだ。


「ああ、ついに素が出ちゃった☆」


ローブ男はいたずらっぽく笑うと、ぺろっと舌を出した。

その表情は、先程まで話しをしていた男と同一人物とは思えない。


「1000年以上長く生きてるとさ・・・さすがに飽きてくるんだよねぇ。だから、何か面白い事ないかなーって、常に捜してるんだよ」


ローブ男は、つまらなそうにそう言った後に、急にキラキラと目を輝かせながら話し出した。


「でもね、魔族と人間の戦いは、ほんとワクワクしたよ!僕は絶対魔族が勝つと思ったんだけど・・・まさか人間が勝つなんてね!やっぱり仮初の悪役はダメだったねぇ」


ローブ男は、はあっと残念そうにため息をついた。

しかし、すぐにまた目を輝かせながら顔をあげた。


「でもさ、あの戦争が終わってから、当時の国王が同盟の申し出に来た時・・・ニヤニヤしながら、あの兵器の威力がどう、とか聞いて脅されてると分かった時、ゾクゾクしたね・・・!」


先程からコロコロと表情を変えながら話す男の勢いは止まらない。


「ここに欲に目が眩んだ本当の悪役がいたんだって!」


両手を胸の辺りでグッとにぎり、興奮した様子で男は叫んだ。


俺はその勢いに押されて、口を開けたまま様子をただ黙って見ていることしか出来なかった。


「物語は悪役がいてこそ楽しくなる・・・あんな仮初の悪役じゃなくって、本物の悪役なら、もっと面白い物語が見られるんじゃないかってね!」


そしてバッと手を大きく広げた。


「僕は特等席でその悪役の活躍を見たかったのさ!だからあの同盟を結び、協力することにしたんだよ!」


男はドヤ顔で堂々と言った。

そして、言葉を続けた。


「君はさ、魔族が落とすあの石・・・あれに、


・・・は・・・?


どこか含みのある男の言い方に、不気味さを感じながらも、頭は?マークでいっぱいになる。


この国は魔石の力に依存している・・・

その魔石を手に入れるため、100年の時を経て再び魔族は殺されようとしている。

そしてその魔石の力を使い、文明を無理やり作り上げた結果、この国は他国と戦争を起こそうとしている。

それも魔石の力を使って・・・


もしも、その魔石がただの石だったならば・・・?


俺達の様に、特別な力があると思わせただけなら・・・!


俺の中で今までの話の前提が崩れ落ちていくのを感じた。

そんな俺を見ながら、さらに男は話を続けた。


「あの時、国王は城に保管されてる魔石を僕に見せながら、「この石の使い道はないか?」て聞いてきたんだ。だから、僕の魔法をその石に込めて見せた。そしたら、目を輝かせながらすぐに魔石の回収をし始めたよ」


そして男は肩を震わせながら言った。


「ふっふふ・・・ただの石ころを・・・あんな必死になって回収する姿はおかしかったよ!!別にどんな物だろうが、魔力を込める事は出来たのに!!何を勘違いしたんだろうねぇ!あっははははは!!!」


つまり・・・


この世界で起きた500年前からの魔族との戦いも、これから起こるであろう国同士の争いも・・・


全てこの男の望んだ、面白い物語に他ならないのだ・・・

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