第14話 500年前の真実

500年前・・・魔界と呼ばれる世界。


日の光の無いこの世界は、一日中闇に覆われている。

この世界を唯一照らしているのは、各所に川のように流れ、または地面から吹き出すマグマから発せられる明かりだけである。

このマグマの熱により、この世界の気温は100度を超える。

マグマとそれが冷え固まった岩石のみが、この世界の全てである。


そんな世界の中で生きている、唯一の生命体。それが魔族と呼ばれる者達である。



とある3人組の魔族達がいた。

いつも行動を共にしている彼らは、今日も一緒に魔界を散策していた。


その先には広範囲にわたってマグマが広がっていた。


「うわ、こんなに大きいの、久々に見た・・・」


「さすがにまぶしいな・・・」


「これはちょっと危険だね。僕らでも落ちたら無事ではいられないね」


100度を超す気温に耐えうる彼らでも、さすがに1000度を超すマグマに落ちたら無事では済まない。

皮膚は焼け落ち、コアも熱により溶かされてしまう。


「少し冷やしとこう」


そう言うと、1人の魔族は手を突き出し、その魔力を集中する。

放たれた闇の矢は、マグマに突き刺さり、その周囲は冷やされ岩石へと形を変える。

3人の魔族はそれを繰り返し、少しずつ着実にマグマの面積は減っていく。


この魔界の中で魔族の命を脅かすものは、このマグマの存在である。

定期的に溶け、マグマと化す岩石を元の状態に戻すために、魔力を使って冷やしているのだ。

魔力は時に熱を操り、時には道を開くために邪魔な物を破壊する手段として使われる。

魔力は魔族がこの世界で生きるための手段として、必要不可欠なものであった。


「あ・・・」


1人の魔族が、岩石の上に転がっている石を発見する。


「誰かがここで死んだんだ・・・」


魔族は体内のコアを破壊されると、石を残して塵と化す。


その魔族はそれを両手で丁寧に拾い上げると、そっと口の中に入れ、飲み込んだ。

これは魔族が死んだ仲間に対する弔いの行為である。

死んだ仲間達も、自分の体の中で一緒に生きてゆく。

誰が考えたのか、魔族の中ではそういう風習が当然のようにある。


「他にもあるかもしれない。ちょっと探してみよう」


そうして3人は自分達が作った岩石の上を探し始めた。


「あ、ここにも・・・」


2つ目の石を手にした彼の前に、突然見たことの無いような光が現れた。


「な、なんだ・・・!?」


あまりの眩しさに3人は目を閉じた。


「相変わらずここは辛気臭い所ですね・・・」


いつの間にか光は消え、3人の目の先には1人の人物が立っていた。

その人物が発した言葉の意味を3人は理解する事が出来ない。


「なんだこいつ!?何言ってるんだ!!?」


自分の姿とかけ離れているその姿に、3人は戸惑い、恐怖した。


「こんなとこにいて、何が楽しいのか・・・理解に苦しみますよ・・・まあ、そんな欲求あなた達には無いのでしょうけど・・・」


周りを見渡しながら、呆れ顔でその男はため息をついた。


「さっきから何を言ってるんだろう・・・」


拾った石を握りしめながら、ただ目の前の男を見るしかなかった。


「もう少し楽しい世界を知ったら、少しは価値観変わるかもしれませんね・・・。ちょっとだけ、お手伝いしてあげますよ」


その男はニヤリと笑みを浮かべると、目の前の魔族の足元に手をかざす。

すると、その足元に魔法陣が浮き上がる。


「な、なんだ・・・!!?」


そして、その魔族の体は完全に消滅し、カランッと音を立てて石が転がった。


「・・・あ・・・」


残された石・・・それが意味するものは・・・


「よ、よくも・・・殺しやがったな!!!」


少し離れた所にいた仲間の魔族が、その男に向けて手を突き出し、複数の闇の矢を放つ。

しかし、それは男に当たる直前でフッと消滅する。


「な・・・!?」


「よく分からない相手に攻撃をしかけない方がいいですよ・・・争いの火種になりますから・・・」


その男は、攻撃を放った魔族の足元へ同じように手をかざす。


「や・・・やめろ・・・!!!」


その光景を見ていたもう1人の魔族は、再び仲間を失うかもしれない恐怖を感じながらも、言葉を絞り出した。


しかし、それも虚しくその魔族も先程と同じ様に姿を消した。


そして残った魔族に対しても、男は手をかざした。

その瞬間、その者の意識は途切れ姿を消し、その場には誰もいなくなった。





「うっ・・・眩しい・・・それに・・・寒い・・・」


再び意識を取り戻したその魔族は、目の前に広がる光景の眩しさに、しばらく目を開けられずにいた。


(なんだここは・・・?さっきの奴はどこだ・・・?俺の仲間はどうなったんだ・・・?)


しかし目は開けられず、頼りになるのは耳に入ってくる情報のみ。


ガサガサッ


(!!誰か来る!!)


見ることは出来ないが、音のなる方角とは反対方向へ向かう。


バチンッ!!!


突然、右足に衝撃が走り、その足に何かが引っかかっているのを察する。

それは人間による、動物を捕らえるための罠であった。


(なんだこれ・・・?)


とりあえず力任せにそれを足から引き離す。

少しだけ傷ついた皮膚は、すぐに元の無傷の状態に戻った。


しかし、その足音はすぐ先まで来ていた。

その時、日が雲に隠れ、辺りは少しだけ暗くなる。


(今なら少し、目をあけられる・・・)


そしてゆっくり目を開いたその先には・・・


見覚えがある姿だった・・・


色白く・・・体に何かを巻き付け、こちらを見つめる瞳。


(仲間を殺したやつ・・・!!)


そして目の前の憎むべき相手に、手を突きつけ複数の闇の矢を放った。

それが相手に効かないのは分かっていた。

だが、攻撃をせずにはいられなかったのだ。


「う、うわ・・・!!!」


それに驚いた相手も手に持っていた銃で目の前の未知な生命体に発砲する。

が、その銃弾が相手に到達する前に、その体に矢が突き刺さり、彼の体は高温の熱を帯び、あっという間に人の形を型どった黒い塊となった。


(・・・・・・は?)


銃弾を受けた体は、その肌を貫くことはなかった。潰れた鉄の塊が少しだけ皮膚をえぐったが、それもすぐに直り、鉄の塊は地面へ落ちた。


そして目の前には動かなくなった塊。


(・・・死んだ・・・のか・・・?)


殺すという行為は今まで魔族には無縁なものだった。

何かを殺して得るものなど、何もなかったのだから。


(あいつには攻撃が効かなかった・・・なら、こいつはなんだ?)


目の前のソレは、動く気配がない・・・


(もしかして、あいつとは違うのか?)


次第にその足は震えはじめ、脳裏には先程の仲間が消滅した瞬間が蘇る。


(俺がこいつを殺したのか・・・!?)


再びパニックに陥った彼は、近づく2つの気配に気付けずにいた。


「おーい!何かあったのか!?・・・っっ!?」


「・・・ひっ!!?」


その声に反応し、目を向ける。


先程の男と似た風貌の2人組を見て、再び怒りが頭をよぎる。


しかし、立ち尽くす2人の姿に、かつての自分達の姿が重なった・・・


目の前の敵わない敵に、抵抗虚しく無力に散ってゆく・・・


彼は何もせず、そのまま踵を返し一目散に走り出した。

とにかく、この場から離れよう・・・!!

走る。ひたすら走る


(どうしてこんなことになったんだ!?)


ついさっきまで、いつもの仲間と変わらない日々を過ごしていたはずだ。


(ここは一体何処なんだ!?みんなは・・・他の仲間達は無事なのか!?)


突然現れた謎の人物。

いったいなんの目的があったのだろう?

俺達以外にも同じ様な目にあった仲間達がいるのだろうか・・・?


(仲間を・・・弔ってやれなかった・・・)


無我夢中で走る中、その後悔だけはいつまでも彼を締め付けた。





500年前のこの出来事は、その後400年も続くことになる人間と魔族の戦いのきっかけとなってしまう。


その魔族の実態は、争いを知らない、仲間想いの、心優しき者であった。

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