第13話 本当に悪いやつは誰だ?

目が覚めるとそこには見知らぬ景色が広がっていた。

硬い床に無造作に寝かされていたせいか、体が痛い・・・

召喚された時の事を思い出させる。

まだハッキリしない意識の中、先程の会話が蘇る・・・

そして湧き上がる疑問。


俺を召喚したのはいったい誰だったのだろう・・・?


ローブ男は、若い男・・・あの男子学生だけを召喚しようとしたはずだ。

そして召喚の途中に邪魔が入ったと言っていた。

そんな事が出来る人物・・・魔法に干渉できる者と言えば・・・


魔族しかいない。


・・・もちろん、証拠も何も無い。

もしそうだとして、そいつはいったい俺に何を望んだのだろうか・・・?

勇者のように・・・この世界を救ってほしいとか?


この世界は魔族による侵攻により、危機が迫っている。そう聞かされてきた。

しかし、真の侵略者は国王であった。

魔族を再び殺し、海の向こうにある国にまで手を出そうとしている。

俺と会話していた時のあの国王の目は・・・完全に悪いやつの目をしていた。

本当に救いを求めていたのは魔族だったのかもしれない。


まあ、今更何を考えてもこの状況はどうにもならない。


目の前にあるのは鉄格子・・・


俺は起き上がり、自分の置かれている状況を確認する。

俺がいる所は、4畳ほどの広さの空間で、窓は無く、明かりも用意されていない。

あるのは綺麗とは言えない古びた布と、用を足すための便器のみ。


どう見ても牢獄である。


鉄格子の先にある松明の明かりがわずかにこの場を照らしている。


俺はこれから死ぬまでここで過ごす事になるのか・・・?


「はああぁ・・・・・・」


泣きたくなる心境の中、深いため息をついた。


かなり予想外の展開だが、皮肉なことに、当初の目的は果たしている。


勇者になることなく、地味な生活を送りたい。


異世界に召喚されたにも関わらず、外へ1歩も出ることなく牢獄に幽閉されて一生を過ごす。これ以上の地味な生活があるだろうか。


「はぁ・・・」


もはやため息しか出てこない。


夢なら早く覚めてほしい・・・

当初のこれは夢である説にかけるしかない。


コツ、コツ、コツ・・・


近づいてくる聞き覚えのある音に反応し、俺は鉄格子の向こうを見た。

そこに現れたのはさっきまで一緒にいたローブ男だった。


男は無言で被っていたフードを脱いだ。

女性のように色白く、中性的で整った顔つき、長く伸びたエメラルドグリーンの髪から先の尖った耳がのぞいていた。

やはりローブ男はエルフだったか・・・


「なかなか素晴らしい推理・・・いや、仮説でしたね」


ローブ男は穏やかな笑みを浮かべている。

松明の明かりに照らされたその顔は、神秘的な雰囲気を纏っている。


「あなたも大変ですね。あんな狸親父の元で働かないといけないなんて」


「狸・・・・・・」


ローブ男は一瞬キョトンとすると、次第に顔の表情が緩み、プルプルと震え出した・・・


「ふっふふふ・・・狸親父・・・ふふっ・・・確かに・・・上手いこと言いますね」


相変わらず笑いのツボが分からないが、俯きながら男は肩を震わせている。


・・・あれ?


そんな男の姿に、俺は小さなデジャブを感じていた。


この光景、見た気がする・・・・・・


まあ、この男はさっきも何度か笑っていたから、その時の様子とかぶったのだろう。


すると、男はゴホンっと咳をすると、「失礼」と顔を上げた。


「実は私、最初に攻撃を仕掛けたのがどっちか、知っているのですよ」


・・・まじ?


エルフは1000年以上生きると言われ、その正確な寿命はまだ分かっていない。

今更500年前の事を知ってる人物はいないと思っていたが、まさかの証人がここにいたのか。


というか、最初に魔族が目撃されたあの場所にこの男がいたというのか・・・?


ローブ男は俺にニッコリと笑顔を向けると、口を開いた。


「最初に人間を攻撃したのは魔族ですよ。」


・・・そっか・・・。


俺は、最初に攻撃したのは人間だったかもしれない。と仮説を立てていたが、違ったわけか。


結局俺の考えた仮説は根拠の無いものだ。

魔族は人間の敵である、という固定観念を崩すことを目的として色々仮説を立ててきたが・・・。

結局はただの都合の良い仮説にすぎない。

魔族が人間界に来た目的はやはり侵略のためだったのかもしれない。


「では、何故魔族は人間を攻撃したと思いますか?」


「・・・はい?」


なんで今更そんな質問をしてくるのだろう?

一瞬思考が止まったが、再び頭の中を動かし始める。


何故魔族は人間を攻撃したのか・・・?


俺は目を瞑り、記憶を掘り下げ自分が立てた仮説を思い出す。

あの時俺は、人間の姿が怖かったのかもしれない・・・と・・・


「ふふ・・・」


ローブ男の発した声に、俺は目を開いた。

おそらく、俺の思考を読み取ったのだろう。


そうだ、あの時もこの男はこんな風に笑った。

いったい何がおかしかったのだろうか?


「そうです。怖かったのですよ・・・人間の姿が・・・」


ローブ男は楽しそうに笑みを浮かべながら俺に話した。

そして更に続けた。


「間違えたのですよ」


・・・・・・間違えた?


「魔族はエルフと人間を見間違えて、攻撃してしまったのですよ」


・・・は?


エルフと見間違えた・・・?

たしかにエルフの容姿は人間と似ている。

魔族はエルフが怖かったのか・・・?だから攻撃したのか?


その時、俺は先程のデジャブの正体を思い出した。


ローブ男が肩を震わせる様子・・・


先程、国王の前で、エルフとの同盟について話をしていた時だ。

エルフを脅迫したのでは?という話をし、ローブ男は人質か?と考えていた時、この男は同じように肩を震わせていた。


その時の話の内容から、恐怖や怒りで震えているのだと思い込んでいたが・・・


あの会話の最中に笑っていた・・・?


「さあ・・・・・・」


少し低く、不気味さを漂わせる声が空間を震わせる。

その瞬間、背筋にゾッと悪寒が走った。


「あなたの仮説の答え合わせをしましょうか」


その目には見覚えがある。先程の国王と同じだ・・・

笑顔を浮かべたその男の目は・・・完全に悪いやつの目をしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る