第12話 何故勇者は召喚されたのか?

勇者として異世界に召喚された先で、勇者として異世界に召喚された主人公の漫画を発見した時の心境を想像してみてほしい。


まずは、「は?」の一言と、この世界に対する疑心暗鬼である。


そして思ったのだ。


これ絶対見ちゃいけないやつだ。


なので、俺はそれを見なかった事にした。

それを見た事を知られたら、俺は消されるのかもしれないと思ったからだ。


まさか・・・

思考を読み取られていることを知りもせず・・・


「勇者として扱いやすそうな若い男をお願いしたはずだったが、まさかお主のような中年男が一緒に召喚されてしまうとは、誤算であったよ」


国王がちらりとローブ男の方を見る。


「召喚の途中に何者か邪魔が入りましたからね・・・すぐに排除しましたが・・・間に合わなかったようです」


え・・・じゃあ俺が召喚されたのって本当に巻き込まれただけだったのか?


「魔石の事に気付き、あの漫画の存在まで知られ、この勇者召喚計画は失敗したと思ったのだが・・・彼が面白そうだからこのまま続けてみようと言い出してね・・・。確かに、なかなか面白いやりとりを見ることが出来たよ」


まさかローブ男も1枚噛んでいたのか・・・

しかしこうなったからには、俺にはどうしても確認したい事があった。


「俺達に魔力があると言ったのは、嘘ですよね?」


「うむ、嘘だ」


俺の投げかけた疑問に国王はあっさり言い切った。


・・・やっぱりか・・・


過去の異世界人は恐らく俺と同じ世界からやって来ている。

なのに、俺達だけ魔力があるとか、到底おかしい話だったのだ。


ここに来た時に行った魔力測定。

今思えば、ローブ男がエルフならば、自分の魔力を使っていかにも俺達に魔力があるように見せれた訳だ。


「魔石を上手いこと利用して、魔法が使えるように見せかける算段であったのだよ」


なるほど・・・

たしかに魔石を使えばそれは可能かもしれないが・・・

しかしそれにはエルフの協力が必要不可欠な訳で・・・


「エルフの力は戦いに使ってはいけないのでは?」


「そこは確認済みである。エルフが直接戦う訳でも、魔石で武器を作る訳でもないから、セーフらしいぞ。必要なのは魔石を制御するための訓練だけだからな。」


いや・・・かなりグレーゾーンだと思うんだが・・・


「異世界から召喚された特別な力を持った男は、勇者としてこの世界の平和のために悪である魔族と戦う・・・そんな漫画のようなストーリーを期待しておったんだが・・・その勇者がまさか魔族を擁護し始めるのだから、本末転倒であったわ」


国王は笑いながらも、呆れた様子を見せた。


「そういえば魔族と対話が出来ないか・・・そんな話もしていたな・・・。確かに、それも魔石を使えば可能であるのは分かっておった。・・・しかし、それをやる気は毛頭ない。なぜだか分かるであろう?」


そう、それは魔族との和解は不可能の答えでもある。


「魔族とは会話が出来ない方が都合が良い・・・もしも魔族と友好的な関係を築いてしまったら、魔族を殺すことが出来なくなり、魔石が手に入らなくなってしまうから・・・」


国王は俺の返答に納得したように大きく頷く。


「うむ。話をして下手に情が湧いてしまうと、殺し辛くなるからのう。・・・お主も、牛や豚と会話が出来たとしたら、それらを殺し、肉を食らうことを躊躇するであろう?」


食肉として扱われる動物と会話ができたとしたら・・・

「助けて欲しい」「食べられるのは嫌だ」と訴えられてしまったら・・・

俺はそれらを今までと同じ様に食べる事ができるだろうか?


国王が言いたいのはそういう事か。


ましてや、俺の仮説通り、魔族側が本当にそんなに悪い存在じゃなかったら、魔族を殺す口実が無くなる。

この国にとって、魔族は絶対悪でなければならないのだ。

魔族を殺すことは正しい事でなければならない。

そして全滅しない程度に魔族を殺し続け、永遠と魔石を手に入れ続けなければ、この国の文明は幻となって消えてしまうのだ。


「お主も気付いている通り、この国の文明は魔石に頼りすぎておる。100年前から魔石を使っていかに文明を発展させるかばかり考えられておった。今となっては、人々の生活は魔石によって支えられておる。このペースで魔石を使い続ければ、魔族を全滅させないように気を付けた所で、いつかは枯渇するであろう」


たしかに、魔石の需要と供給のバランスは、すでに保てていないのだろう。

この100年、魔族を殺していないということは、魔石も取れていない状況だ。いくら大量のストックがあったとしても、いつかは尽きてしまう。


「だから、その前に海の向こうの国を支配下に置いておく必要があるのだよ。」


・・・海の向こうの国・・・

恐らく魔石とは無縁の国・・・そこで100年間の魔石を使わずに発展した文明を手に入れようというのか・・・


この国は、海に囲まれた一つの大陸全体を占めている。100年以上前に描かれたこの大陸の地図には、この国の他にもいくつか存在したのだが、最近作られた地図には、この大陸全体が一つの国となっていた。


今思えば、魔石の力をチラつかせて乗っ取った・・・あるいは直接戦争を持ちかけて領土を乗っ取ったのかもしれない。

そこの所は詳しく情報を仕入れていないからよく分からないが、この国王の家系なら、何か良からぬ手を使ったとしてもおかしくない。


「この世界には、まだ遠距離を飛行出来る乗り物が実装出来ていないのだよ。過去に試作品は作ったのだが、どうやら海の向こうの大陸は相当距離があるらしくてな・・・向こうの大陸まで到達出来たことはまだ無いのだ。しかし、次の試作品はかなり期待が出来る。だが、それを動かすにはかなりの数の魔石が必要になるのだ」


ここでも結局は魔石頼りなのか・・・


「しかし、魔族討伐をするとなると、こちらの軍も多少の犠牲が出てしまう・・・他国と戦争になる前に、国の戦力を削る訳にはいかない。そこで、昔読んだ漫画を思い出したのだよ。異世界から召喚された勇者の話をな・・・。エルフの力なら、それが実現可能だからの」


表向きは世界のために魔族と戦う勇者。しかし、その真の目的は他国へ攻め込むための魔石を回収させること、という訳か。


「召喚した人間は、翻訳魔法の魔石で思考を読みとることができる。危険人物となりそうならば、魔族に殺されたと見せかけて消せばいいだけだ。色々と都合が良かったのだよ」


そう言う国王の目線の先には俺がいる。

この世界に俺を知る者はいない。

俺が殺されたとしても、悲しむ人も、不思議に思う人もいないのだ。

もともとこの世界に居ないはずの存在なのだから・・・


国王は笑みを浮かべているが、その目は笑っていなく、酷く冷徹だ。


俺は息を飲み込む。

ここで・・・俺は・・・殺される・・・?


「安心したまえ。お主を殺しはせんよ。そのかわり、この城から出す事も、人と会う事も許さぬ。しかしお主が望んだように、寝る場所と最低限の食事は与えよう・・・私が気が向いた時には話し相手になってやる」


そう言うと、国王はローブ男に目配せをした。


その瞬間、俺の意識は途切れた。

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