第10話 ちぐはぐな世界

時は数時間前に遡る・・・


ローブ男に翻訳魔法の話を聞いた直後、俺は魔石の事について詳細が書かれている本を探した。


魔石・・・魔族が消滅した時に残る石。魔石の大きさは魔族の魔力の強さにより異なり、魔力が強い魔族ほど、大きい魔石を残す。その色、材質は多種多様である。魔石にはの力を宿すことができ、魔力を持たない人間でも魔石に施された魔法を使うことが出来る。しかし、その力は一時的なものであり、魔力を使い果たした魔石は、再度使うことは出来ない。

魔石はその用途に合わせて小さく切り取って使用出来るが、大きな魔石ほどより強力な魔法を使うことが出来る。


つまり、魔石はエルフがいないと使えないわけか・・・

俺は今度はエルフに関する情報を探し出した。


エルフ・・・容姿は人間とほとんど変わりは無いが、長く尖った耳が特徴である。人間よりも長寿であり、数千年生きるとも言われている。しかしその総数は100にも満たず、ごく一部の地域でしか確認されていない。強力な魔力を所持し、様々な魔法を使用することが出来るが、争いごとを嫌っており、人里離れた静かな森に結界を貼り住処としている。人との交流はほとんど無く、その生態は謎に包まれている部分が多い。

人間と魔族の戦いにも一切干渉せず、エルフの森で沈黙を貫いていた。

しかし、100年前に魔族との戦争を終えたのをきっかけに、人間と協働同盟を結び、協力的な関係に進展した。

魔石に魔法を施すことが出来る事を発見し、異世界人の召喚を行ったことで、この国の文明の発展に大きく貢献した。


この国でエルフ最強なんじゃないだろうか・・・

では今度は異世界人かな・・・


異世界人・・・100年前、エルフの力により異世界に住む人間を召喚する事に成功した。当初は異世界の言葉が分からず、意思疎通が難しかったが、数年の時を経て、言葉によるやりとりが可能になった。初めての異世界人は2011年の地球という所からやってきたと証言している。その世界の文明はかなり進んでおり、異世界人の知恵と魔石の力も併用し、この国の文明も急速に発展した。

当時は続けて異世界人を召喚していたが、その数が増えすぎる事を危惧した国は、異世界人の召喚は10年に1度、1人のみとすることになった。


この100年の間、この世界にやってきた俺を含める異世界人は、2011年~2021年の時代からやって来ている。

この世界に比べて、俺の世界は時間が流れるスピードが遅いのだろうか?

こちらの世界で10年経っても、俺の世界では1年しか経っていない様だ。


しかし、100年前に使用価値が判明した魔石と、異世界人の知識により、この国は異常なスピードで文明が発展している。


それまで井戸を使って水を汲んでいたのが、魔石の力により水を生み出す事ができるようになった。

遠方へは馬車で移動するしか無かったが、魔石を使った転送装置により、瞬時に移動する手段が出来た。


これらは、異世界人が漫画の世界で見た魔法の知識を伝えることで、実装されたらしい。


他にも俺達の世界にある家電製品を、魔石を利用することで、電力を使わずに使用することが出来る。

例えば、風の魔法を施した魔石で掃除機が出来たり、冷気の魔法の魔石で冷蔵庫や冷凍庫。複数の魔石を使い、ドライヤーやエアコンなど、かなりの家電が実装済みなのだ。


魔石の力を使い切った場合は、新しい魔石と交換することで引き続き使用出来る。電池みたいな仕組みだ。


しかし、テレビやゲーム、インターネットなどのデジタル化絡みは、この世界で再現する事は出来なかったようだ。


だとしても、100年前にすでに2011年の異世界人の知識が広まったこの世界は、随分と俺の世界の文明に近い。それに加えて、魔石による魔法の力で、俺の世界で実現不可能なことまで実装されている。

かと思えば、デジタル化は一切進んでおらず、いまいちアナログ感が抜けていない。


なんだがちぐはぐな世界なってないか・・・?


「はあっ・・・」


一気にこの世界に関する事を読み漁ったせいで、頭の中がゴチャゴチャだ・・・


俺はなんでここへ連れてこられたんだっけ・・・?


『異世界の勇者様。そのお力で魔族を倒し、どうか世界をお救い下さい。』


脳裏に先程のローブ男の言葉が蘇る。


魔力を持ってるからとか言ってたけど・・・魔石の力を使えば別に、勇者とか要らなくないか・・・?


魔石を使えば、強力な武器を作れたりとか・・・

ああ、でもエルフは争いごとを嫌ってるから、争いのための協力はしてくれないかもしれないか。

エルフが協力してくれなければ魔石は使えない・・・

ならば魔族は自分達でなんとかしなければいけない、ということか・・・


エルフと魔石が無かったらこの国は一体どうなっているんだろう・・・


ふと、そんな疑問が頭をよぎる。


100年前から、この国はエルフと魔石の力に依存しすぎている。

本来ならば、水を自由に使いたいのであれば、水道を引かなければいけない。

しかし、魔石の力により、その経緯をすっ飛ばして水を出せる様にしてしまっている。

他の事に関してもそうだ・・・

電力を使う必要が無く、本来必要なハズの複雑な電子回路を魔石で丸々補ってしまっている。

本来通るはずのプロセスを全く辿っていない。


もしもエルフが協力してくれなくなったら・・・

魔石が無くなったら・・・


この国の文明は100年前に巻き戻る。


あれ・・・・・・ちょっと待てよ・・・?


魔石が無くなるってことは・・・魔族がいなくなるって事だよな。


・・・なんだ、魔族殺したらいけないじゃないか。

魔族がいなくなるってことは、魔石が取れなくなるって事だから・・・


・・・ん?


いや、魔石は魔族を殺さないと手に入らない・・・

魔族は殺さないといけない・・・


なんだこの矛盾は!?


俺は目を瞑り、混乱する頭の中を1度リセットする。


魔族は殺さないといけない・・・魔石を手に入れるために。

でも殺しすぎてもいけない・・・魔石が手に入らなくなってしまうから。


適度に生かし・・・適度に増やし・・・そしてまた殺す・・・。


それはまるで・・・・・・


家畜のような存在じゃないか・・・


俺はこの時、この国の触れてはいけない闇に気付いてしまったのかもしれない。

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