第9話 魔族との和解は可能なのか?

「この魔石には、私達異世界人の言葉を、この世界の人達の言葉に変換する魔法が施されています。この魔法を使えば、魔族と人間が会話をする事が可能になりませんか?」


・・・・・・


俺の言葉に誰も反応してくれない・・・

兵士その2は、隣の兵士をジッと見つめている。


「あ、あの・・・あ・・・」


見つめられていた兵士は遠慮がちに話そうとしたが、何かに気付いて国王の方に顔を向けた。

発言の許可が必要なのだろうか・・・


「続けて良いぞ」


国王に許可をもらい、その兵士は一礼し、こちらに顔を向けた。

少しズレたメガネをかけ直し、1度深呼吸をし、意を決した様に口を開いた。


「私は魔石を使った魔導具の開発、研究に携わっている者です。勇者様のお話、大変興味深く聞かせていただいておりました!」


小柄な美少年だと思ったけど、声を聴いてから気付いた。

この兵士・・・女だ・・・

キラキラと瞳を輝かせ、好意的な目で見つめられ、年甲斐もなく顔が熱くなった。


「先程の魔族の言葉を魔石を使って翻訳が可能かどうか・・・についてですが、恐らく技術的には可能なはずです。・・・が・・・それは魔族が協力してくれればの話で・・・」


やはりそこが問題になるよなぁ・・・。


魔族を1人生け捕りにしたとしても、協力してくれなければ意味が無いだろう。


「勇者様でしたら、どのようにして魔族に協力をお願いしますか!?」


その勇者様ってやめてほしい・・・

俺は勇者にはなりたくなくてこんな面倒臭いことになっているわけで・・・

まあ、可愛さに免じて何も言わないでおこう。


さて、どのようにして協力してもらうか・・・


「まずはこちらに敵意が無い事を示す必要がありますね・・・」


言葉でのやりとりは出来ない・・・となると・・・


「手始めに贈り物でもしましょうか・・・」


「な、なるほど・・・!贈り物・・・美味しい食べ物でもプレゼントしましょうか!?」


うーん・・・

俺さっき魔族は食べ物を食べないのでは・・・て仮説立ててなかったっけ・・・?


どうやら彼女もその事に気付いた様だ。


「あ!魔族は食べ物とか興味無いかもしれないんでしたね・・・。・・・勇者様なら、何を贈りますか?」


興味津々に見つめられ、やはりちょっと照れる・・・

なんだろう・・・

さっきまで可愛げのない男2人と相手していたせいか、この子と話しするの、ちょっと楽しい・・・て、だからオッサンが何を考えてんだ。


そ、そうだなぁ・・・

魔族が好きそうな物か・・・

人間界でなにか不便な事があれば、それを解消するもの・・・


「サングラスとか・・・?」


「え、ええええ・・・?」


「ぶふっ・・・」


・・・またか・・・

吹き出したような声の主は、やはりローブ男であった。


「す、すみません・・・想像してしまって・・・ふふっ」


この男、結構笑い上戸なところがあるのかもしれない。


「あ、そっか。太陽の光が眩しいのかもしれない・・・て話がありましたもんね!えっと、サングラス・・・と・・・」


彼女は懐から出したメモ帳に何やら書き込んでいる。

大事な事はメモする。真面目だな・・・


「もちろん、最初は上手くいかない事もあると思いますが・・・こういうのは時間をしっかりかけて関係を作っていくのが大事だと思います」


「そうですよね!こういうのは何度も失敗を積み重ねてこそ、成功へと繋がるものですよね!」


そう・・・時間をかけて・・・

10年くらいかかったら俺も40半ばだから、さすがに戦えとか言われないだろう・・・

それが俺の狙いである。


「おいおい、まさか魔族と本気で和解しようとか考えてるのか!?」


楽しい会話を邪魔してきたのは先程の兵士その2であった。


「魔族と人間とでは力の差がありすぎる!たとえ会話が出来たとしても、魔族の気分次第でその場の人間が全員殺される危険もあるんだぞ!そんな相手と良い関係なんて、出来るはずが無い!」


「人間が魔族に劣っていると・・・?」


俺はわざと相手の癇に障る言い方を選んだ。


「この世界の人間はお前達と違って魔力を持っていないんだ!魔族を相手に勝てるはずが・・・」


「100年前の魔族との戦争・・・勝利したのは人間ですよね」


俺は彼の言葉を遮るように、口を開いた。


「・・・それは!」


「人間は、すでに魔族に匹敵する力を持っているではありませんか」


そう、勇者なんて本当は必要ないはずだ・・・

この国は魔族との戦争を終えてからの100年間、凄まじい勢いで文明の進化を遂げている。


エルフ、魔石、異世界人の力によって・・・


しかし、この辺のことは正直なところ、


「もう良いであろう」


ずっと口を閉ざしていた国王が満を持したのか言葉を発した。

兵士達は顔を強ばらせ、表情からは緊張した様子が滲み出ている。


「お主が勇者になりたくない、という意志はよく伝わった・・・そなたを勇者にするのは諦めよう」


や・・・やった・・・!!

俺は心の中で両手でガッツポーズを決めるが、表情筋が緩まないように顔に力を入れる。


「幸いにも、もう1人勇敢な若者がいるからのう」


隣の男子学生はビクッと肩を震わせ、開いていた口をグッと締めて顔を引き締める。

が、若干目は泳いでいる。

しっかりしてくれよ勇者様・・・


「この場は一旦解散とする。皆、ご苦労であった。各自持ち場へ戻る様に」


「「「はっ!」」」


国王の言葉に、俺と男子学生以外は敬礼ポーズで返事をすると、足早に解散した。


「勇者様はどうぞこちらへ・・・」


ローブ男は男子学生へ声をかけると、2人は一緒にその場を後にした。


残ったのは国王と俺のみになった。


き、気まずい・・・

というか、俺はこれからどうなるんだろうか・・・


俺はさっきから気付いている国王の視線に、あえて顔を向けないようにして、気付かないふりをしている。


「ところでお主・・・」


「は・・・はい!!」


国王に急に話しかけられ、俺は姿勢を整え国王と向かい合う。


「勝手に召喚して悪かったのう」


まさかの謝罪に、俺は思わず呆気に取られた。


「い、いえ・・・」


このタイミングで謝られるとか予想外だ・・・


「で・・・衣食住の確保を望んでいるのだったな?」


・・・それは願ったり叶ったりなんだが・・・


なんだろう、この違和感は・・・


たしかに、衣食住の確保を望んだが・・・俺はそれを口に出してはいないはずだ。


「しかし用意する部屋は日当たりが悪く、ちょっとばかし窮屈かもしれぬ・・・お主の想像していた拉致監禁にちょっと似たような状況になるかもしれんな」


・・・!!まさか・・・!!!


俺は全身からドッと冷や汗が吹き出す感覚に襲われた。


そして反射的に右耳の魔石に触れる・・・


「ほう・・・お主本当に勘が良い男だな」


俺の行動に感心する国王だが、それに反応する余裕はない。


この魔石は俺の脳に直接作用している・・・

そう説明を受けた・・・


つまり、俺の思考を読み取ることができてもおかしくない・・・


なんてこった・・・

異世界に来てチート能力で無双する・・・なんて漫画を読んだことがあるが・・・

まさかのこちら側の人間がチートじゃないか。


「残念ながら、ワシではお主の考えている事を読み取ることが出来ない・・・お主の考えを読み取ったのは、そちらの男じゃ」


国王が指さすその先には、いつの間にか戻って来ていたローブ男が立っていた。

相変わらず深く被ったフードにより、表情は確認することが出来ない。


まあ、予想はしていたが・・・やはりこの男、エルフなのだろう。


「さて、とんだ茶番劇だったな。お主、本当は分かっているのだろう?」


国王は含みのある言い方で俺に話しかけた。


「魔族との和解など、不可能な事を」


・・・ここで分からないフリしても、どうせまたあの男に思考を読み取られるのだろう・・・

素直に認めるしかない・・・

この世界の・・・この国の・・・

恐らく知られてはいけない事実に気付いてしまっている事を・・・


「ええ・・・魔族と和解をしたとしても、損をするのは・・・人間の方です・・・」


観念した俺の言葉に、国王は満足気に笑って見せた。


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