第2話 俺は何故こんな所にいるのか?

俺はたしかに自宅のベッドで眠っていたはずだった。

だが、目覚めたその先には見知らぬ光景が広がっていた・・・


俺はそっと目を閉じた。


ちょっと仕事のしすぎで疲れているのだろうか・・・?

しかも俺の肌に当たっている床は、冷たく硬くなんかザラザラしている・・・

目が覚めたのもその不快感からだろう。


再び目を開く。先程と変わらぬ光景。


少し目線を動かすと、俺の近くに学生服を着た男子学生が転がっている。とりあえず俺は起き上がることはせずに、再び目を閉じる。


いやいやいや・・・


目が覚めたら知らん場所で知らん人と一緒に寝てるとか怖すぎるわ!

怖すぎてちょっと目を開けられない。

俺は目をつぶったまま、今の状況について考えることにした。


『俺は何故こんな所にいるのか?』


とりあえず最有力候補にあげるべきは、『ただの夢だから』である。このまま再度眠りにつけば、目覚めるのは我が家のベッドの上だろう。


うん。やっぱり寝よう・・・・・・・・・


俺は考えるのをやめて、眠ることに集中する。


「んん・・・?」


どうやら、隣で寝ていた学生が起きたようだが、俺はそのまま寝たフリをすることにした。


「な、なんだここは!?」


おいやめろ。

今ちょっと吹きそうになったぞ。

男子学生のわざとくさい言葉に必死に笑いを堪える。

おそらくこの男も俺と同じように、起きたら見知らぬ光景、という状況なのだろうか。

しかしいくらなんでも、とっさにそんな台詞出てくるだろうか・・・?

せめて「え?え?」くらいのリアクションなら許せるが・・・


「まさか・・・異世界に来たのか!?」


「・・・っ!!!!」


ほんとやめて。

吹き出すのは我慢したけど、今ので完全に俺の表情筋が崩壊した。男子学生に悟られないように、そっと両手で自分の顔を覆った。

フルフルと体が震えてしまうのはどうか気付かないでほしい。


確かに近年、異世界に来て〇〇系の漫画や小説が多いのはよく知っている。

若くて感受性豊かな男子学生がそういった物語の世界に夢を見るのも頷ける。

しかし、異世界というものはその物語の作者が作り上げたフィクションなのだ。

作者が実際に異世界に行って取材をしない限り、そんな世界は存在しないはずだ。


しかしそう考えると、この世界は誰かが作った物語の世界・・・・・・・いや、無いな。


「まさか家に何者かが侵入して俺を誘拐したとか・・・?」


おお?ちょっと冷静になったようだ。

誘拐か・・・え、俺も誘拐された可能性あるのか?

しかしそれなら目隠しされるとか、拘束されて動けなくされてるはずだが・・・


それにしても、こいつよくしゃべる奴だな。

思ったこと全部口に出るタイプなのか?

それとも俺が人の心の声でも聞こえるようになってしまったのか?


あ・・・まさか・・・


もう一つの可能性を思いついた。


これはドッキリってやつか!?


俺が寝てる間に俺の友人が家から連れ出し、知らない場所に寝かせ、カメラを仕掛けて俺の反応を見ているのか?

ということは、この男子学生は仕掛け人の1人ってことになる。

だとしたら、これまでの台詞じみた言葉をやたら口に出すのは納得がいく。


「友人拉致して異世界へ来たと錯覚させてみた」


とかいう動画をインターネットにアップする気か?


誰か分からんが悪趣味な事をするな・・・

それなら俺がすべき行動は・・・


このまま寝てやる。

意地でも寝続けてめちゃくちゃつまらん動画にしてやろう。


・・・いや、待てよ。もしカメラがセットされていたとしたら、さっきの笑いをこらえた顔もしっかり見られてるかもしれない。

だとしたら、向こうももうバレてると思って一気に勝負に出るだろう。


コツ、コツ、コツ・・・


誰かが近付いてくる。


「誰だ!?」


ほんとコイツいい演技するな。

俳優志望の男なのだろうか?

良い俳優になると思う。応援しよう。


「ようこそおいで下さいました。異世界の勇者様。そのお力で魔族を倒し、どうか世界をお救い下さい。」


その瞬間。


俺は瞬時に飛び起き、その男がプラカードを持っていないと分かると、すぐに周囲にカメラやプラカード持った人物がいないかを見渡した。


しかし残念ながら、カメラもプラカードも見つけることは出来なかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る