第3話「鬼ごっこ」

「えーっと何処が白石の部屋だ?」


しばらくしてそんな疑問が浮かんだ。

当たり前のように家にいたから家族の様に接してしまったじゃねぇか。


え?俺どうすればいい?


困惑して笑いが込み上げてくる。

そうしている内にまた誰かが忙しなく2階へと上がってくる音が聞こえた。


「あ、あの奏汰さん!お姉ちゃんの部屋は此方ですよ」

息切れをした白石の妹が肩で息をしながら教えてくれる。

どうやら下に行って俺が何を探していたのか聞いてきたようだ。


「あ、ありがとう」

呆然と立ち尽くしている俺を見て眉を簸せめたあと白石の妹は微笑んだ。

「ふふ、奏汰さんって意外と抜けてますね」


抜けてる?

俺が?

馬鹿ってことか?

もしかして俺は白石の妹に馬鹿呼ばわりされてるのか?

そんなことを考えていた俺は白石の妹が何を呟いたのか聞こえなかった。

「…ですね」


「何か言ったか?」

小首を傾げて眉を寄せた俺を見て白石の妹は微笑んだまま「なんでもないです」と答える。

なんだなんだ?怪しいな?

そう思うと衝動に勝てなくて白石の妹に質問攻めをしていた。

「言った方がいいぞ?」

俺は優しそうな笑顔でそう返した。

どう見えていたのかは分からないが、白石の妹は身を捩り、焦れったく俺から逃げる。

そうしている内に鬼ごっこが始まってしまった。

「早く言った方がいいぞ?」

「嫌ですっ!」

「後で後悔しても知らないからな?」

「後悔しませんっ!!」

俺らは軽く家の中を走り回りながら会話をしていた。

どちらが辞めたのか覚えてないが肩で息をして2人で疲れた様な顔をして見せた。

「はは、楽しかったな」

俺は自然とそう答えていた。

「全然楽しくないですっ!」

と反論しながらも何処か表情は全力で楽しんでおりました、という顔をしている。

すると、突然視界からとてつもないオーラを放つ白石が上がってきた。

「何をしているの?」

白石は冷笑して淡々と言う。

しまった…忘れてた…

俺は心の中でそんな事を呟いた。

「…お姉ちゃん」

先に口を開いたのは白石の妹だ。

「奏汰さんはね、悪くないよ?だから怒らないであげて!」

白石の反応を見て察したのか白石の妹はそう告げた。

すると意外な言葉が帰ってくる。

「そう」

少し表情を和らげた白石が妹の方にやってきて頭を撫でた。

え?俺はこんな白石を知らない。

いつも問答無用でぶっ叩く奴だと思ってた。

なーんだ、白石。いつのまにお前は優しくなったんだ?

俺は完全に油断していたのか自ら白石に近寄ってしまった。

それが悪かったんだ。

バシンっ!

大きな音が鳴ったかと思ったら俺の肩を強く叩きやがった。

なんて酷いやつなんだ。

「何すんだよっ!?」

俺は叩かれる筋合いはないと言った表情で見つめる。

「…この変態ロリコン男が」

気味が悪そうに俺の事を見た後、自分の妹を大事そうに抱えた。

「俺は変態でもねぇしロリコンでもねぇよ!」

そう答えると眉を八の字にして綺麗なお顔を歪ませた。

「それじゃ、さっきのは何?」

「さっきのって?」

俺は白石がどの様に見えていたのかをさりげなく聞き出す。

「だから…貴方が私の妹を追いかけてたところよ」

「あぁ、鬼ごっこだよ」

すると白石の妹が顔を出して頷いてくれる。

「そうですよ」

その言葉を何度か繰り返した。

「あっそ」

すると白石はいつもの表情に戻りまた素っ気ない返事をするのだった。

ーENDー

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る