第21話


「おーい、今日はここで野宿にしよう……ってなんだよこれ!」


 馬車の中へ振り返ったゼブライが驚きの声を上げる。座席にソラとレオナは座っておらず、空間を切り取ったように存在する扉の向こうに居たのだ。


 マジックハウスの中には馬車の振動が伝わってこないため、二人は玄関に腰掛けてのんびりと過ごしていた。


「聞いて驚くなよゼブライ。今日はソラが風呂付きの部屋に泊めてくれるようだぞ」

「何? ……あぁ、神の創造物か。だとしても馬はどうするんだ。見張りがいるだろうが」

「見張りは問題ないよ。なんか、お父さんがこの馬車に聖属性を付与したらしくて。一時的だけど、魔物が寄って来ないんだってさ」


 ゼブライは驚きを通り越したようで、苦笑いを浮かべた。


「ははっ、何でもありかよ」

「……私もそう思うよ」

「まぁいいじゃないか。野宿では疲れなんて取れるわけもないが、ここが使えれば一流の宿で休んだような最高のコンディションで明日を迎えられるだろう。今の私たちにとって体調管理は重要だろう?」

「まっ、そうだな」

「切り替えが早いね。あっ、そこで靴は脱いで」


 土足で玄関を越えようとしたゼブライを、ソラは慌てて止める。この辺りに住む人には土足文化があるようだが、生憎この家は日本式だなのだ。


「靴を脱ぐのか。勝手が違うんだな」

「そうだね。色々使い方がわからない物もあると思うから、色々説明していくよ」

「助かるぜ」


 ソラはレオナに説明したのと同様に、トイレから案内していく。


「トイレはここだよ。この便座に座ってね。後始末は、横に付いてる窪みに魔力を少し流すだけでいいよ。後は勝手に流れてくれるから」

「従来の汲み取り式と違って臭いが気にならないのが素晴らしいな」

「なー、便利だなー。だが、何処に流れていくんだ?」

「さぁ。でも心配はいらないってさ」


 そこはソラも詳しく聞いてはいないところだった。ただ、自然に還るように処理されている、ということは聞いている。

 この世界を作った創造神がそう言うのだ。自然の栄養バランスといった難しげなことも問題ないのだろう。


 次の魔法具へと進む。


「ここはお風呂ね。トイレと同じ窪みがあって、ここに魔力を流すと水が出るよ。これがシャワーヘッド。ここから水が出るから。温度調節は横にあるこのつまみを赤い方へ回すと暖かく、逆に青い方へ回すと冷たくなるから。湯船は私が溜めておくよ」

「マジか……。ちょっとやってみてもいいか?」

「いいよ。シャワーの向きに気をつけてね」

「足元にも気をつけるんだな」

「レオナが裸足なのはそう言うことか」

「なかなか暴れるからな」


 それを聞いたゼブライは、笑いながらシャワーヘッドを手に取った。


「暴れん坊の手綱を取るのは慣れてるぜ」

「御者の専門じゃないとか言っていた癖に、調子のいいやつだ」


 ゼブライはシャワーヘッドを壁に向けてから、窪みへ魔力を流す動作をした。ソラはそっと距離を取る。


「おぉっ! マジで水が出た! すげぇ!」

「ゼブラ、足濡れるよ」

「おおっと、いけねー」


 はしゃいだゼブライは危うく靴下を濡らしそうになるが、流れてくる水とは反対に立って回避した。

 そして、裸足のレオナを見て、ニヤリと笑った。どうやら、俺は濡れなかったぜ? という意味のようだ。


「なんだ」

「別にー?」


 次はキッチンだが、ゼブライは料理をしないようで、少し興味が薄い様子だ。両親の、火事が起きないようにという配慮によりコンロはIHとなっていることも興味が薄れた要因の一つだろう。火が出ない分、地味に映ったのだ。


「火は出てないけど、凄く熱いから絶対に一人で触らないでよ」


 ソラはそんなゼブライに要注意をしておく。


「わかったわかった」


 本当に理解したのかわからない返事だが、一応注意はしておいた。これで言いつけを破って火傷などすれば、ソラはもう知らない。ゼブライも子どもではないので大丈夫だとは思うが。


「これくらいだね。説明が必要そうなのは。ゼブラとセレナの布団は準備のいいお父さんが用意してくれてるみたいだし、夕食食べて後は自由にしようよ」

「夕食と言っても保存食しか持ってないがな」

「寝床とのギャップが凄いな」

「事前にここを使うって分かってたら食料を備蓄しておいたんだけどね」


 三人は揃って微妙な顔をしながら、干し肉を齧るのであった。

 

 



________


前回とだいぶ時間が空いてしまいましたー

_(┐「ε:)_

手が空いて来たのでぼちぼち再開します。

相変わらずストックがないので頻繁には更新出来ないけど……。

最悪でも週1〜2は更新できると思います。


20210827

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