第17話


 魔法と弓の練習に加えて、森に戻ってきた魔物たちの狩猟をしていると、あっというまに二日が過ぎた。


 そういえば、どの時間帯に戻ればいいのか聞いていなかったと思い出し、朝ラインハート家へと向かったソラ。


 これまで五体の魔物から魔素を吸収していたお陰で、四キロ程の距離を【霧化】で移動してもスタミナを温存出来るようになっている。

 この辺りの魔物で酔えなくなったのは少しだけ残念だと思うソラだが、能力の上昇はそれ以上の喜びだ。


 弓、魔法、空中の長距離移動……ゲームの中も含めて、前世では出来なかったことが出来るようになる。低い能力値で強者に果敢に挑んでいた、やや戦闘狂気味のソラには堪らないことだった。


 街の上空へ辿り着くと、いつものようにソラは誰もいない裏路地へと降り立つ。

 辿り着いたラインハート家の前には、大きな馬車が止まっていた。どうやら朝に来て正解だったようだ。


「おはようソラ。来てくれてありがとう」


 銀に輝くガントレットと胸当てをつけたレオナがソラに気付き、微笑む。


「おはよう。もしかして、朝早くからずっと待ってた?」

「いいや、それほど早くはないさ」


 どうやら待ってはいたようだ。あまり人を待たせるのが得意ではない国での記憶を持つソラは申し訳なさを感じてしまう。


「ごめんね?」

「ん? あぁ、気にしないでくれ。朝食はちゃんと摂ったし、今日からの予定はこの依頼しかないからな」


 ソラが謝ったことに一瞬きょとんとしたレオナ。その返答も少しずれているような気がする。どうやら、この国ではなのかこの世界ではなのかはわからないが、待ち合わせにはルーズなようだ。

 ソラはそう思い切ることにする。


「そうだ、ソラは何か必要な物はないか? うちにあるものなら何でも用意するぞ」

「んー、ちょうど矢が欲しいと思ってたところ。ある?」

「もちろんだ。何本でも用意しよう」


 レオナは屋敷の門番の一人に、ありったけの矢を持って来るように伝えた。ソラは練習で矢を使い切ってしまっていたため、この支給品は大助かりだ。これで武器屋へ行って矢を買い込む必要が無くなった。


「……ソラは剣士だと思っていたが、弓も使えるのか?」


 よくぞ聞いてくれたとソラは笑顔を見せる。黒い笑みだ。


「遠距離からガンガン攻撃してしてくる相手に、やっとのことで近づいたら、実は近接が本職でしたって感じ、よくない?」

「は、腹黒いんだな」


 ソラの笑みが邪悪なものだとレオナはすぐに気づいた。


「人聞きが悪いなー。強い人はみんな切り札をいくつも隠し持ってるものでしょ?」

「うーん、確かにそうだな……」

「と言っても、弓はまだ中距離からしか狙えないんだけどね」

「前衛とスイッチ可能な中衛か! それは助かる」


 この任務では第二王子であるアダンと、その妻となる予定のレオナは積極的に前にはでることは難しい。この二人が消えてしまうこと即ち国の崩壊となるため、いざと言うときには生き延びなければならないのだ。


 従って、ダンジョン攻略のメンバーは実質前衛2、後衛2、+αと言った構成となる。そこへ近接もできるソラが中衛として入れば、パーティとしての安定性が増し、メンバーの安全も向上するだろう。

 仕方ないと割り切ってはいたものの、レオナは前衛の二人に負担をかけ過ぎる編成を気にしていたのだった。


「レオナ、言われた矢を持って来たぜ!」


 そうこう話しているうちに矢を抱えて現れたのは、ソラが初めて見る大剣を背負った男と……ラインハート家一同だった。


「ソラ殿。歯痒いが、私たちはこうやって支援することしか出来ない。どうか娘を頼んだ」

「もちろん。大船に乗ったつもりで任せてよ」


 ソラは力に強く頷く。


「父上……そんなに持って来て、馬車に乗り切らないではないですか」

「……大丈夫だよ。いくらでも持っていける」


 ソラはこの場にいる者の目を一通り見回した。大剣の男はわからないが、誰もがソラを信じていると感じた。そんな人たちに、宇宙容量のポーチを持っていながら持って行けないと、ソラには言えなかった。


 執事やメイドたちが抱えていた束を合わせると小さな一軒家くらいは埋め尽くしてしまいそうな量になっていた。それをするすると飲み干したポーチを見て、一同は目を見開くが、ソラに後悔はない。


「ありがとう、余った分は返しに来るよ」


 気楽に言ってのけたそれは、勝利宣言に他ならない。

 帰りを待つ者たちは心強く思い、頷いた。


「ソラ殿もこう言っている。特別な言葉は贈らんぞレオナ」

「では、絶対に最後の言葉にしてはいけないことでも言っておきましょうか。父上の執務室の棚には仕掛けがあって――」

「おっほんおっほん!!」

「あら〜? 私それ初耳ですわ」


 レイラが興味を持ち、わざとらしい咳払いで遮った先を聞こうとする。


「あーレオナ、そろそろ行かねぇと日が暮れる前に東の森を抜けられねーぞ? どこに魔物が潜んでるかわからねぇ、ところで野宿なんて無理だ無理だ」


 いつの間にか御車台に座っていた男が早口でレオナを急かす。どうやらこの件についてはジャガーとグルのようだ。


「む、そうだな。続きは帰ってからにするか」

「僕にも聞かせてよ姉上。男の中で僕だけ仲間外れになってるんだ」


 ライアンはそう言って頭を描いた。何かがあることは知っていたようだ。

 レオナは少し笑いを溢し、頷く。


「もちろんだ。では、皆んな……行ってきます」

「「行ってらっしゃい」」

「「行ってらっしゃいませ」」


 こうして、ソラたちは王都へ向けて出発した。



__________





ユナイト楽しくて今度こそストックが無くなりました_(┐「ε:)_エリートになりたい……。

多分二日更新開けまーす。

次回は木曜日の予定です。

20210809


 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る