第10話

sideラインハート家


 ソラが眠りに就いた頃。


「レオナ、第二王子の鍛錬はどの程度まで進んだ?」


 執務室に、レオナとジャガーが居た。

 間に挟む執務机には、何処かの地図が広がっている。


「殿下はだいぶ筋がいい。お陰で、攻めを考えず自衛に専念すれば、私でも突破が難しくなってきました」

「なるほど。シルバーランクでも上位のレオナが、か。それは間に合ったと見ていいな?」


 レオナの答えに魔道具のランプで照らされたジャガーの口元が弧を描く。しかし、レオナの顔に喜色は伺えない。


「殿下は、はい」

「殿下は、か。やはり突破力が足りないか?」

「そうです。この件には大人数を連れて行けませんから、どうしても少数でなければなりません。信頼出来る人材を集めたのですが……彼らでも後一歩力が及ばないように感じました」


 レオナは申し訳なさそうに項垂れる。


「信頼できる人材を集めることが優先だ。レオナはよくやった」

「ですが父上、時間がもうありません! ……すみません」


 状況は芳しくないというのに、楽観的な姿勢を崩さないジャガーに、レオナはつい声を大きくしてしまった。

 ジャガーは気にしていないと首を振る。


「父上はなぜ笑っていられるのです? 何か秘策があるのならば、教えていただきたい」

「秘策、というわけではない」

「ではなぜ!」

「落ち着けレオナ、今話す。……ソラ殿のことだ」

「まさか、彼女を巻き込むつもりですか」


 ソラにはこの街に来て早々に嫌な思いをさせてしまっている。このことは父であるジャガーにも通していたのだが。


「確かに、ソラは神徒であり、それだけで信頼に値する人物ですが……」

「言わんとすることはわかる。不埒な輩からの隠れ宿にと我が家を勧めた手前、そこで面倒を掛けるのは私にも抵抗はある」


 だが、とジャガーは続ける。


「このタイミングで神徒であるソラ殿が現れたこと、何か意味があるとは思わんか?」

「それは……こちらに都合の良い解釈かも知れません」

「そうだった場合は、今の戦力で作戦を強行するしか、選択肢はないだろう。私たちが引くわけにはいかんのだ。だが……創造神様の御造りになった命が、無駄に散ることになるだろうなぁ」

「父上……」


 創造神が食事の際に放った言葉を引用し、恐ろしいことを言ったジャガー。しかし、その言葉は彼にとってメッセージとして受け取られていた。


 無駄な生命が消えることを良しとしない創造神が、この地に神徒を送り込んだ理由。


 それはこの作戦を成功させるために違いないと、ジャガーは確信していた。

 窮地に立たされているこの国を守るために、神は神徒を使わしたのだと。


 そして、この会議はソラが参加する前提で進められていく……。






__________


文字数いつもの半分以下だけどここで区切らせて

_(┐「ε:)_


 

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