第9話


 食事を終え、再び客室へ案内されている時であった。


「お手洗いってどこ?」


 ソラは催してしまっていた。


「こちらでございます」


 ハンセンは客室近くに用意してされたトイレへと案内してくれる。

 ちなみに、ハンセンは使用人であるため、主人の客という立場のソラヘ敬語を使うのは変わらない。


 トイレの場所がわかった後は、客室のすぐそこまで来ていたため、ハンセンには元の仕事に戻ってもらった。


 さて、と扉が閉まる音とともにソラは腕を組んだ。流石に下の世話をしてもらうのは精神が耐えられないため、両親には見るなと言ってある。


 ここは独りの戦場である。

 いざっ! と大袈裟に自分を鼓舞し、ソラは便座に座った。


 だが用を足すのは男と対して変わらない。問題は拭く時である。モノを自分で触らなければならないのだ。いや、モノはないか。


 静止すること30秒。

 ソラは無事に拭くことができた。


「ふぅ〜」


 出し切った解放感も一入で、つい声が漏れてしまったソラ。その頬はやはり、また朱を帯びていた。


『お帰りソラ』

『ただいま』


 客室へ戻った時、出迎えるように声を掛けたのは美の神である。

 魔道具だろうか、部屋はオレンジの光を放つランプにより、ある程度視界が保たれていた。なかなかのセンスが感じられる代物である。


『待っていたぞ、ソラに伝えなければならないことができたのでな』

「……ん?」


 創造神の声は、いつものように何かを創り上げた時の声色だ。ソラはなんだと首を傾げて続きを待つ。


『何、先程の赤眼の出現についてじゃ。どうやら、吸血をトリガーにして現れるようなのじゃ』

『俺の知らないうちにどうやって調べたんだよ……』


 いつの間にか、ソラ自身も検証が必要だと思っていたことへの解答を用意されていたことに、悪寒を感じ、ソラは自分の身体を抱くようにして隠した。


『こら、ダメよソラ。せっかく可愛い話し方になってきたのに! いつも可愛い話し方にしてないと、前世の話し方がふとした時に出てしまうわよ? お父さんからも何か言って!』


 今まで口出ししてこなかった癖に、なぜ今……ソラの目がジト目に変わる。


『そ、そうじゃな……さっきの喋り方の方が可愛いぞ?』

『別に、可愛くなりたいわけじゃないし……』


 ソラがそう言うと、二人は悲しそうな声を上げる。


『もうわかったから! で、伝えることはそれだけ?』

『いや、まだあるぞ。実はソラがイノシシのソテーを食べた時、少しじゃがソラの魔素量が増えたのじゃよ』

「ほぅ……」


 ソラは自身の身体能力が、SIOでの初期ステータスとほぼ変わらないことを気にしていた。技量には自信があり、それでも十分戦えるだろうが、それは吸血鬼のスキルを使用してのことである。


今回のように両親が出てくる事態は避けたいので、吸血鬼のスキルは温存していく方針だ。


 なのでソラには目撃者の残らない必殺の場面ではその限りでもないが、体術の心得しか戦闘に置いて使えるものがない。心許なさを感じるのは仕方ないだろう。


 そこへ来て、身体能力を上げられることが判明したのは僥倖だった。


「それにしても……」


 このままでは吸血鬼のスキルは隠れて【吸血】を、隠密行動に【霧化】をという感じになってしまう。窮屈さを感じてしまう。


 イレギュラーが起きたのかわからないが、これでは転生する際に両親が吸血鬼を選択した意味がないのではないか? ソラがそう伝えたところ、


『うむ! よくぞ聞いてくれた! 確かに今回の件はイレギュラーであった。だが、儂は創造神! 今晩ソラが眠りに落ちた後、ソラへアップデートを行うぞ!』

「アップデートって……」


 もう本当になんでもアリだな、とソラは諦めて降参のポーズ。


『それでは治るの?』

『治るどころではない。【吸血】スキルを強化して、不可視にするぞ!!』


 【吸血】が発動した際、対象者から赤い粒のようなエフェクトが発動者へと流れ込む様子が視認される。どうやらそれを不可視にする事で、人前で【吸血】を使用出来るようにするそうだ。さらに、直接牙による吸血を除き、赤目の出現するを防げたとのことだった。


 【霧化】は流石に使えないが、これで強敵相手のダメージソースを得られるわけだ。

 確かに、戦闘面での不安はあり、【吸血】が使えるようになるのは有り難いが、それはあくまでも今のソラよりも数段以上格上が相手での話である。


 創造神のこの対応は、それに対する準備のように思えた。


『……なんか、ボスキャラみたいなのと戦う予定があるみたいに感じるんだけど?』

『うむ、まぁそのうちわかるじゃろうて』


 創造神は言葉を濁すが、ソラはそれを肯定と捉えた。


「まぁ、いいか」


 戦い自体は好きなソラ。それも相手が強敵であるほど燃えるタイプである。だからこそ、SIOでは吸血鬼を選び、あのスタイルを貫いたのだ。


 魔道具で作られたベッドサイドランプを消し、部屋は暗闇に包まれる。【吸血】を解放しなければならない相手、それは一体どんな敵なんだろうか。


 闇の中、ソラは未来の強敵を見据え、ニヤリと肉食な笑みを浮かべていた。







__________



ストックがもう残り少なくなってきたことと、

体調を崩したので更新頻度が下がるかもです。

20210731


 





 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る