第3話
ソラは、森の中を歩いていた。
1時間ほど、ひたすら歩いていた。
霧と化し、上空から見つけた最寄りの街に向かっている途中である。
既に今世での能力の把握は大体出来ている。SIOでの能力より、かなり自由度が高まっていた。恐らく、ゲームでの設定から解き放たれた結果だろう。
因みに、霧の色は白だった。
通常なら禍々しい黒い霧になるのだが、どうやらここも両親によって変更が加えられたようだ。
これなら、空を漂っていても不自然に映ることはない。使い所が広がり、便利だ。
……それにしても、何もいない。
この森にはSIOで初期の回復アイテムとして重宝される薬草が所々に見られるのだが。
ソラは首を傾げる。
街の森に近くに薬草が生えているのなら、取りに来る人が何人かいてもいいはずである。
それに人間だけでなく、フィールドに存在する生き物たちもいないのはあまりにも不自然だ。
「まさか、何かが起こる前兆か……?」
『いや、もう起こった後じゃな』
急に、ソラの頭の中に声が響く。
「ペンダントは握ってないんだけど」
『そうそっけない態度をとるでない。傷付いてしまうじゃろ』
「……別にいいし」
『母さーん。ソラが冷たいんじゃー』
『あらあら、うちの子は反抗期かしら?』
「もういいから! 何か説明しに来たんだろ?」
本題に入れそうな気配が全くなかったことに痺れを切らし、ソラは声を高くした。
『おっと、そうじゃった。この森に生き物が見られないのは、ソラの誕生が関係しておる。ソラの誕生には、膨大な魔素が必要だったからな』
「魔素って、多ければ多いほど能力が高まるって認識でいいのか?」
『うむ』
「俺の能力はそこまで高くなかったが? 初期キャラくらいだと思ったんだが。まさか……見た目やら耐性やらで色々消費したんじゃないだろうな」
『……さて、ソラの言う通り、魔素は力の象徴となるものじゃ。量が多いほど、比例して能力も高くなる。魔素量はSIOでの強化値と思って貰っていいじゃろう』
創造神は無理やり話を逸らした。どうやら図星だったようだ。
『その魔素が何かを生み出すべく、膨大な量となり、集まっておる。ここにはもともと魔物たちが住んでいたのだが、逃げ出したのだよ。これは勝てない、とな。そして、逃げ出した魔物たちは森を出て、人里の近くまで住処を動かしたようじゃ。人間たちはその対応に追われておるのよ』
『もともとそうなる予定だった場所を選んだのだから、ソラは気にしなくていいわよ。魔物も弱い種ばかりだったから、被害もあまりないことだし』
「なるほど……やっぱりSIOと同じく魔物もいるか」
それは前情報で大体予測できていたのでひとまず置いておく。今はこの森の状況だ。
弱い魔物たちとはいえ、一斉に逃げ出したなると、原因はこの森にあると踏んだ一部の人間が調査に来るかもしれない。
調査が行われるとしても、精鋭が少人数で来ると思われるが……。
だがもし、その一部の人間とここで鉢合わせたら、どうなるだろうか。ソラは予想を巡らせる。
魔物たちが逃げた場所に、得体の知れない存在が現れる。その二つが因果として結び付けられる可能性は、十分にある。調査に来た者がソラだった場合も、同様に考えてしまうだろう。
そうなってしまえば、印象は最悪。この世界で生活する大きな支障となってしまう。
今、ソラは街に向かって森を抜けようとしているのだ。探索者と出会す場合を想定しなければならない。
しかし、身分証はない、知人はいない。そんな不審な人物が現れたとして、誤魔化す方法はあるだろうか?
ソラは、無理だと早々に見切りを付ける。
となると、【霧化】して誰にもバレないように潜入するのが一番安全か。
森の異変と突然現れた謎の人物、この二つが重なっていることが問題であり、舞台を街中にしてしまえば、神たちが用意してくれた身体のお陰で自然と溶け込めるだろう、ソラはそう考えた。
自由度が増した【霧化】のお陰で街へ入る方法はクリアー。次は、街に入ってからどうやって休む場と食事を得るかだ。
産まれたばかりのソラは無一文である。
「何か入れられる袋は貰えないか?」
ソラはこの森で資金源を得ることにした。
幸い、この森には薬草と見て分かる植生があった。SIOでも序盤で手に入るほど、珍しいものではなく、この森が産地であると特定出来ないことも丁度いい。
そう思い、ほくそ笑みながら頼んだのだが……。
『あら? それが人に物を頼む態度かしら?』
「……何か物を入れられる袋をくださいませんか?」
『ふむ、親に対してはそこまで畏まらなくてもいいのではないかのぉ』
「じゃあどうしろと!」
『貴女は娘なのよ? 可愛らしくお願いすれば良いのよ!』
「…………何か入れる袋ちょーだい?」
少し躊躇したが、ソラは前世を捨てることにした。
代わりに、上目遣いでおねだりを覚えた。
『ハッハッ、可愛い愛娘の頼みじゃ、張り切って叶えるぞ!!』
『デザインは任せて! 飛び切りオシャレに仕上げるわ!』
「っ………」
ソラが羞恥に顔を覆っていること30秒。
空からぽとりと、小さなポーチが落ちてきた。
拾ってみると、空色の可愛らしいショルダーポーチだった。黒を基調としたソラのドレスに良く合いそうである。
「これは?」
『うむ、儂の創造の力をぎゅうぎゅうに詰め込んだ、収納ポーチじゃ! 収納だけにな!』
『あらあら、親父ギャグは娘に嫌われますわよ』
『おっと、いかんな』
「………」
まさかとは思うが、辺りの薬草を手あたり次第にポーチへと詰めていく。
入る。
入る。
入る。
……入る。
まだ入る。
『うむ、上手く機能しておるな! SIOでのアイテムボックスの代わりと思って貰えればいいぞ!』
『見た目もオシャレに仕上げたから、何処にでも着けていけるわね!』
「うん。ありがとう。ところでこういう収納アイテムって他にある?」
『似たようなものは人間たちが開発したようじゃが、儂が創るものには遠く及ばんな! 何しろ儂が創ったそのポーチに限界はないからな!』
「へぇ」
試しに、ポーチの口に合わないサイズの石を入れようとしてみた。重い……が、するりと吸い込まれていく。ポーチに吸い込まれた後は、重さを感じなくなった。
「へぇ……」
大きさに限界もないようだ。重さもなくなる。まさに、ゲームのアイテムボックス。ソラの口からは溜息が漏れ出た。
これは人前で使えないかも知れない、と。
スーパーの袋はない? のような気軽な感じをソラはイメージしていたのだが、貰ったのは恐らく神器クラス。
まぁ、薬草などの小さな物はこのポーチから出てきても不自然ではない。とりあえず、人間たちが作ったという物を手に入れるまでは、このチート性能を上手く隠して立ち回ろうと、ソラは決意した。
「ありがとう」
『うむ、うむ! 娘の願いじゃ、叶えられんようじゃ父は務まらん!』
『あら、私も負けてないわよ〜』
キャッキャと喜ぶ親バカ二人に、コレは使えないなどと言えなかったのだ。
親から子への贈り物。ソラはそれが嬉しかったりした。
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