第4話 快楽の代償
「さぁ着いたよ!」
次にマインが転移させた場所。そこは変哲のない一軒家の室内だが外を見ると空が赤く、生えてる植物も地面も赤が基調となっていた。
「ここは?」
「脱出の国さ!」
「だ、脱出!?」
楽しいことしかないと言っていたはずだがマインから発せられたのはとてつもなく不穏なワードの言葉だった。
「名前は少し怖いけど楽しいとこだよ!ここにはゲームやアニメなどの楽しみが一杯あってどれだけ楽しんでもいいんだ、けど一つだけルールがあってね?」
「ルール?」
「この国には定期的にデットタイムというのがあってね、発令されてからのタイムリミットまでに指定された場所まで身支度をして逃げなきゃ行けないんだ」
「逃げれなかったら……?」
「そしたら……身体がバァァァァン!って弾けて死んじゃうの♪」
ネバーランドには似合わない過激な表現の数々。それを笑顔で話す姿はまるで天使の仮面を被った悪魔のように見える。
「な、何だよそれ……」
「大丈夫大丈夫!脱出するのは簡単、デッドタイムが伝えられたらタイムリミットまでに逃げればいいだけ、普通にすれば誰でも逃げられるよ!ということで今回君にやってもらうゲームはこれ!」
指を鳴らすと目の前に今度は俺と同じくらいの身長のドラゴンが出現する。赤い毛並みはボサボサで覇気を感じない。
「この子の名前はクラン、君はサポーターになってくれればいいの」
「サポーター?」
「その名の通りだよ、君はデッドタイムが宣告されたらクランに助言をする、見事に安全エリアまで逃げれたらゲームクリアだ!」
「それだけなのか?」
内容で言えば先程のよりも容易なゲーム。その発言で全てが決まる訳ではないからだ。
「それだけさ、ではゲームスタート!パンパラパーン!」
ファンファーレと花火の派手な演出がゲームの開幕を知らせる。マインは霧に隠れ再び姿を消す。
(さっきよりも簡単……だが)
あの惨劇が思い浮かぶ。自分の甘さによりロイは崩壊してしまった。クリアしなくてもいいとはいえ、もうあんなものは見たくない。頬を叩き気を引き締める。
(出来ることならクリアしたいが……)
「おいお前」
乱暴な口調の抜けたような低音が口から発せられる。
「えっ?」
「サポーターか?」
「あ、あぁそうだけど」
「ならその時にここに来て伝えてくれよ、用がない時は出ていってくれ、俺の自由な時間の邪魔になるから」
「じゃ、邪魔って……」
こちらを邪険に扱う敬意の欠片もないような言葉。ゲームのキャラとはいえあまりの酷い態度に不快感や怒りが募る。
「ほら、趣味の邪魔だから出ていってくれ」
不満の言葉をグッとこらえ、追い出されるように家を後にする。扉を開ける前にクランの方を振り返ったが俺のことなど知らぬような顔でゲームをしていた。
(何なんだよあいつ……)
追い出されるような形で外を散策することになってしまった。もう少しマシな性格のキャラは作れなかったのか。
(これがネバーランドなのか?)
改めて外の世界を見回すとディストピアという言葉が相応しい場所だった。付近の市街地を歩き回っても全員何処か不安そうな顔を浮かべている。
「おいお前さん」
「ん?」
声を掛けてきたのは初老のドラゴン。クランと違って品があり黒いハットやスーツは綺麗に仕立てられている。
「見たことない顔だが、もしかしてサポーターかい?」
「あぁ……まぁそうですが」
「なら一つ覚えておいてほしい言葉がある、備えあれば憂いなし、それだけは頭に入れておきなさい」
「どういうことか」と質問をする前に初老のドラゴンは立ち去ってしまった。
備えあれば憂いなし、常日頃の準備が大切だという昔からのことわざ。
(まさか……)
一つの考察が脳裏を過る。マインは伝えるだけでいいと言った。だがそれでは間に合わないのでは?
焦りや不安が思考を支配する。脳が判断する前に体は走り出していた。
「クラン!」
「あっ?ってお前かよ……」
クランは相変わらず能天気にゲームを続けていた。危機感はなく、寧ろ余裕を感じる表情をしている。
「何でここに来たんだよ、用がないのに来るなって言っただろ?」
「用はもちろんある、身支度をしていつでも出れるように準備をしていてくれ、デッドタイムから生き残る為に」
「はっ?そんなことする必要ないだろ、デッドタイムが来ますよって発令されるんろ?ならその時に逃げればいいじゃないか」
「それじゃ駄目かもしれないんだ!少しの時間でいいから身支度を……」
「嫌だね、そんなことで楽しみを奪われてたまるかってんだ、後でやればいいんだよそんなこと」
全く聞く耳を持とうとしない。何かと理由を付けて全てを後回しにして楽しいことを優先する。その態度に次第に腹が立ってきた。
「命に関わることだぞ!少しの時間でいいんだ!頼む、準備をしてくれ」
「うるせぇな!」
突如激怒したクランは近くにあった花瓶を投げつける。間一髪避けたお陰で幸い当たらず怪我はないが余りの横暴な行いに怒りを越えて呆れを覚える。
「俺には俺の考えがあるんだよ!お前に指図される筋合いはない!とっとと消えろ!」
「クラン……!」
「ふんっ……さっさと出てけ」
その後もクランは堕落の一途を辿った。諦めずに何度も何度も説得を試みても変わろうとしない。あの初老のドラゴンの言う通り他の住人は着実に身支度を始めている。
「クラン、準備を……」
「だぁ!うるせぇんだよ!そんなもん後でいいだろ!」
輪廻のように繰り返されるやり取り。だがそれも遂に終わりを迎える。
WARNING!WARNING!WARNING!
「「っ!?」」
突如、不快なアラーム音が鳴り響く。
ーデットタイムが発令されました、指定エリアまで逃げてくださいー
目の前に出現したビジョンには恐怖を煽る文体。鼓動が早くなり冷や汗が流れる。
「クラン!早く逃げないと!」
「ハ……ハハ、そんな焦るなよ、今から準備すれば間に合うはずだ」
ーデットタイムへの時間は5分ですー
「「はっ……?」」
唖然とするしかない事実。1時間は猶予があると内心思っていた。だが告げられた時間は僅か5分。絶望的な宣告。
「ふ、ふざけんなよ!何でそんな短いんだよ!?もっと長いはずだろ!」
「落ち着けクラン!早く逃げろ!」
危機感と焦りをようやく覚えくれたが遅すぎる。これまでに何度もタイミングはあったはずだ。
「くっそ!」
「おい!そんなもの置いてけ!」
「置いていける訳ないだろ!これは俺の唯一の救いなんだ!」
全てを捨てでもしなければ逃げ切れない切羽詰まった状況。だがあろうことかクランはゲームやアニメの持ち物をリュックに積めていた。
「馬鹿野郎!どんなことよりも命が大切だろうが!死んだら元もこうもないんだぞ!」
何処まで自堕落なんだ。ギリギリまで追い詰められないと危機感持たなくて、それでも目先の快楽から抜け出せない。
「でもこれは……これだけは持っていかないと!」
「そんなものどうでもいいだろ!早く逃げろ!逃げろって言ってんだよ!」
「……分かった」
ようやく吹っ切れた。どうしようもない奴だが性根が腐りきってる訳じゃない。
「さぁ早く安全エリアに!」
ータイムアップ、ゲームオーバーですー
「えっ……?」
時間とは無情。どれだけ運命が掛かっていようと理不尽に時を進めていく。
何が起きたのか、真っ白な思考は直ぐに理解することは出来なかった。冷酷な時間切れの宣告と共に視界が真っ赤な爆炎に染まり身体を強く打ち付けたのか、背中に鋭い痛みが走る。
「っ……」
ようやく取り戻す意識と思考。痛みが走る身体に鞭を打ち、辺りを見回す。
「!?」
凄惨。地獄。悪夢。
先程までクランだったモノは肉の塊となり周辺に飛び散る。頬は返り血に染まっていた。耐えきれないグロさに激しい吐き気が身体を遅い、静寂な冷たい場所に嗚咽の音が響き渡る。
「やっほー!調子はどうだい?」
「っ!」
「って……アッハハハ!酷いねこれ、めっちゃウケる、臭いしグロいしこれじゃまるで地獄「お前ッ!」」
クランの死を嘲笑うような態度でその場に現れるマイン。それを見た瞬間、理性は激情に犯され憤怒の感情は増幅する。頭で考える前に身体が動き胸ぐらを掴んでいた。
「なんだよその態度……目の前で人が死んだんだぞ!これの何処がネバーランドだ!」
「ちょっと落ち着いて落ち着いて、これはゲーム、あくまでフィクションなんだからそんなに熱くなんないでよ?それに君はクランののこと嫌っていたじゃないか」
「そう言われて吹っ切れるほど俺は薄情じゃない!確かにあいつは憎かったよ!ウザいし快楽に甘えてるどうしようもない奴だった!けどな……あいつだって生きたいって気持ちはあったんだよ!お前みたいに人の死を笑う奴よりもよっぽどマシだ!」
怒りが止まらない。それまでに頭の片隅な抱いていた不信感や疑念のストレスが一気に解放される。
「はいストップ」
だがそんな俺を見てもマインは顔色1つ変えなかった。俺の腕を簡単に振りほどき乱れた衣装をなに食わぬ顔で整えていた。
「ごめんね、君に辛い思いをさせたのは申し訳ないと思ってる、でもこれも君のためにしてることなんだよ?」
「俺のためだと?」
「楽しいってさ、苦しみがあって初めて実感出来ると思うの、勉強に仕事にその他諸々、そういう辛い事を得てようやく楽しいって感情を抱けると思ってる、ずっと楽しかったらそれが当たり前になって楽しいって感情すら失くなってしまう、有り難みがなくなっちゃうんだ」
筋が通っている言葉。だがその言葉はこの世界にとってはあってはならない内容だった。
「何が言いたい……?ここは楽しいことをする国じゃないのか?言ってることが矛盾してる、あんなこと俺にさせる必要が!」
「そうだね矛盾してる、じゃあ何で矛盾してるか君は分かるの?」
「矛盾の意味?」
そう言われると言葉が詰まってしまう。表面の言葉だけで指摘しただけでありその言葉の本質となるものは全く理解していないからだ。
「まぁ今の君じゃ分からないかな?だからさ、答えをあげる」
「答え?」
「それは次の最後のゲームに隠されている、それを見つけられたら……ご褒美が待ってるよ?」
マインに対する負の感情は増幅していくばかり。だからこそ答えを見つける。マインの化けの皮を剥がしてやる。
「決意を固めた顔をしてるね、それでは行こうか……最後のステージに!」
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