侍、刀、そして魂。—時代劇風冒険活劇ファンタジー/Samurai, Sword and Souls—
ノラねこマジン
第1章 サムライ、オンミツ、そして旅に出る少女
第1話 『序幕 あるいは てめぇら ぜんいん ぶちのめすっ!』
戦乱の世も、今は昔。この世は天下泰平。
今では、どの町にもいる冒険者たち。その者たちが生まれたのは、皮肉にも
天下の覇権を争う大きな
しかしながら、大抵の者は全国の小国領主に召し抱えられ、領地を守るための侍となり、ある者は
そして、その
もはや
○ ● ○ ● ○
「な ん で こ う な る の !」
突然、有象無象の謎の
今は戦う
「じゃなくて、あのふたりは、いったいドコでナニやってんのよ!」
二人のお供を従え、ひと夏の大冒険っ!
そのはずが頼みの二人とは離ればなれ。ひとり町中を逃げまくる。
浮世離れした美しい顔立ちも、今は土埃で真っ黒。すらりと均整の取れたその体躯に長い脚。
そこに纏う衣装の裾も、どこで引っ掛けたのやら所々が破れ、その白い肌が
掴みかかる手を巧みにすり抜け、追いすがる手を右へ左へひらりと
狭い路地裏を縦横無尽に駆け抜け、塀をよじ上り、垣根を飛び越し、逃げる、逃げる。
たまに、休む。
しかし、敵もさるもの。ひっかくもの。何故か見つけ出され、追いかけっこはまだまだ続く。
道ばたの石ころを
その他諸々、即席の罠で相手を撒いてきた。馬丁通りで馬糞桶の中身をぶちまけたのはやり過ぎだったか。
追っ手の数をかなり減らしたであろう頃には、人気のない町の外れにまで来てしまった。
物陰に隠れ、懐に忍ばせていた小振りな握り飯を一口で頬張り、竹筒の茶で一息つく。
微かにだが、風に乗って、遠くから自分を探す声と足音が聞こえてくる。
「おちおち一休みもできやしない」
少女は顔をしかめながらも、そっと辺りの様子を伺う。
「あんまりしつこいのは嫌われるよー」
近づく足音に、不敵な笑みを浮かべ少女は呟く。
しかしそれにしても、と少女は考える。追っ手の数がまだこんなに多いってのはどういうこと。
見ると途中脱落させたと
しかも、自分の背後からも、少なからぬ数の人の気配を感じる。周りを囲まれているようだ。
「でも、ちょっと楽しくなってきたかも」
すっくと立ち上がり、緩んだ帯を、きゅっと締め直すと、追っ手の前に立ちはだかる。
もちろん逃げ出すのには、十分な距離をとって。
「うーん、
やにわに懐に手を入れると、丸い竹皮の包みを取り出した。
「これで、アンタたちもイチコロよ。ってコレおむすびじゃない」
慌てて懐の中を探る少女に、追っ手の男たちも失笑混じりにザワつき始めた。
「おいおい、握り飯でオレたちをどうするって」
「だいたい、何だよ。今時コシャクとかイチコロって」
じわじわと迫り来る男たちから、視線を反らさず少女は言う。
「あーっ! もー、うっさいわね。そもそもアンタたちは、なんでワタシの行く先々に追って来ちゃうのよっ?!」
男たちの一人が、竹皮何枚かを、その手に答えた。
「そりゃオメーが、逃げた先々で飯喰って、包みを捨てていくからだろうがっ」
「そうだ、そうだーっ!」
他の男たちも、口々にそれに応える。
「通った道筋、マルバレなんだよっ」
「そうだ、そうだーっ!」
「ゴミはきちんとゴミ箱に、そう教わらなかったのか」
「そうだ、そうだーっ!」
男たちの言葉に、顔を真っ赤にした少女が叫んだ。
「だーっ、もー面倒ね。爆裂弾でも投げて、終わりにしちゃおうかしら」
少女の物騒な物言いに、追っ手の包囲の輪がぐぐっと広がる。
堪り兼ねたように、
「私はさるお方の依頼で、あなたを保護するために追いかけて来たのです。どうかご理解を」
更に一歩二歩と、少女の方へ近づきながら、説得を重ねる。
「もう、本当にお願いします。大人しく帰りましょうよ」
両手を大きく広げ、土下座せんばかりの勢いで懇願する追っ手の
「だーまーさーれーまーせーんっ。アンタたち、どう見ても町のチンピラどもにしか見えないんですけどー」
何故かトクイ気に胸を反らせ、腰に手を当てる少女。
「ワタシを捕まえてどうするつもりよー。きっとあーんなコトや、そーんなコトやっちゃうつもりでしょ」
その言葉に途端に色めき立ち、叫ぶ男たち。
「失礼な。下級とはいえ我々も冒険者の端くれ。子どもには手を出さん」
「そうだ、そうだーっ!」
それを聞いた少女の表情がピクリと変わる。
「……ど……も……じゃない」
地の底から響いてくるような恐ろしい声。
「ワタシは子どもじゃなーい」
少女の豹変ぶりに、正体不明の追っ手の
「て め ぇ ら ぜ ん い ん ぶ ち の め す っ !」
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