第83話 真相

「調達の銀山です。失礼します」

怖々ドアを開いていった「あれっ」


 思わず変な声を出してしまった。ベッドに寝かされているのは羽黒だと分かったが、他に誰もいないのだ。


「銀山か」


 死んでいるはずの羽黒が喋った。ホラーでよくあるように別れを言いたくて霊が留まっているのではと思ったとき頭が動いて目が開いた。


「は、羽黒さん。死んだんじゃなかったんですか」


「江留の狂言だ。俺がいると思ったら銀山に助けを求める甘えが出るからな。一人でやってみてすっきりしたんじゃないか」


「そんな」


 体の力が急激に失われていく。


「それでどうだった」


「どうもこうも何がどうなっているのか、さっぱり分からないですよ。それに羽黒さんはどうなんですか。本当に死にそうになっているのですか」


「死にそうだというのは本当だ。治し方が分からないんだからな。しかしそれは昨日江留が手配してくれて、今日の午後に東京からグルが来てくれることになった」


「グルとかいう人が来れば治るのですか」


「生きているということは望みがあることだ言っていたそうだ」


 それでは良いのか悪いのか分からない。


「僕のことは」


「それも江留に聞いてみないと分からない」


 社長になったらしいから、すごく忙しいはずだ。どうしようか悩んでいるとこちらに向かってくる靴音がした。


 ノックと同時に扉が開く。思った通り江留だった。


「羽黒さんは元気か」


「はい。話も聞きました。江留さん悪趣味ですよ」


「ははは、気に入ってくれたようだな」


 入るなり羽黒に飛び掛かって抱きついた。


「銀山がいるんだ。少しは我慢しろ」


 行動一つ々々にメリハリがある。会社のトップにいるには、こういう気持ちの切り替えが必要なのだろう。


「そうそう銀山のことだったな」


 江留の話によれば報告会が始まってから五分くらいで瑠璃が仕切って江留に引き継ぐことが決まったらしい。


 問題は正式な後継者だった。江留は一代なら問題ないが子供は男女を問わず男性配偶者の家系に移ることになる。江留自身は羽黒なら問題ないと考えていたが、その正当性を訴える手段がない。


 その場に羽黒を召喚できるならそうしたが病床にあったので僕が呼ばれた、ということだ。


「それで次期社長と言っていたのですね。でも次長の話だと社長が江留さんになることはないということでしたが」


「親父は心配性だからな。オレがプレッシャーに潰されるとでも思ったのだろう。それで多数決に入ろうとしたところで瑠璃姉ェから待ったが掛かったんだ。スマホを手に、なぜこんな優秀な者がいるのに候補に挙がっていないんだとね。専務以下は経験がないからということで反対したが、それなら久史だって候補に入らないだろうという話になり、今度は朱里さんが社長と血がつながっていない者が候補に挙がることはおかしいと言い出したんだ」


「それが僕のことなんですか」


 自分が捨てろと言ったスマホに助けられたことになる。


「圭吾兄ィを含めてだ。そこでまた瑠璃姉ェから反論が出た。久史じゃ社員が納得しないというわけだ」


「椎奈さんは何か発言したのですか」


「椎奈姉ェは微妙な立場だったらしい。社長になって会社をつぶしてしまったら、とんでもない借金を背負うことになる。かといって暴言を吐いて飛び出してきた会社には戻れないし、下手な主張をして立羽も駄目となったら行くところがない。久史が暴走したら止めるつもりで出席したというわけだ」


 一番乗りした意味がよく分かった。


「それなら圭吾重役はどうなったのですか。一番の本命だと思っていましたが」


「銀山がネットで持ち上げられているのを見て瑠璃姉ェの頭から圭吾兄ィの存在は消えていたらしい。まあ技術系の担当役員が務まらなかった時点であきらめていたと思うが」


「結論を聞いてないのですが僕はどうなったのですか」


「言おうと思っていたら親父が倒れちまったからな。とりあえずお前は役員だ。断ってもいいが、そうなると久史を役員にしなくちゃならない」


「はっ」

話の飛躍が大きすぎる「僕が役員になったら久史氏はどうなるんですか」


「お前が抜けた穴を埋めなきゃならんだろう」


「僕の穴って」


「部品調達が一人減ってしまうじゃないか」


「ヒラですか」


 役員とは究極の開きがある。


「穴埋めなんだから当然だ。だけどお前が受けないと言ったら久史を重役にする。どっちがいい」

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