第2話 温泉にて
あらかたの荷物整理が終わる頃に雪村蓮斗は夕食に呼ばれた。
彼ら
今夜の夕食は、魚沼産コシヒカリのご飯に、水揚げされたばかりのカツオのたたき。そこにはミョウガや生姜など薬味が載っている。それをポン酢醤油で頂くのが海蛇家流。それから肉料理に豚肉の生姜焼きも出てきた。小鉢にはきんぴらごぼうがある。そして汁物として味噌汁が出た。
大富豪の夕食と言っても割と普通な食事内容だ。それでも水揚げされたばかりのカツオを出すあたりは流石1流家庭だと想った。
「このカツオのたたきは、最高ですね!」
「だろう?私もカツオのたたきは好きな料理なんだ。この屋敷は腕利きシェフが作ってくれるから、何時でも美味しい料理を食べられるのが強みかな」
「豚肉の生姜焼きも美味しいよね」
夏美は豚肉の生姜焼きをご飯の上に載せ食べる。
諒の隣には美雪がいた。
夫婦の正面には美人3姉妹が座り、
ダイニングルームには何気なくテレビの音を流している。本日あったニュース番組が流れていた。
そうして、夕食を食べた雪村は諒に相談する。
「ご馳走さまでした。諒様。僕は明日のテストの問題を作るのに専念します。その前にお風呂に入りたいのですが」
「どうせなら我が家自慢の温泉に浸かってみるかね?」
「そうさせてくれると嬉しいです」
「なら、美雪。雪村君を男湯に案内してあげなさい」
「あなたはどうします?」
「少し食休みしてから入るよ」
「わかりました」
美雪は雪村を男湯に案内する。美雪は服は着物だった。なんて艶やかなのだろうと想う雪村。後ろに束ねた黒髪も艶髪で、独特の色香を感じる。
すると美雪が話し掛ける。
「雪村さんも大変ですわね。こんな家、想像もつかなかったでしょう?」
「はい。まさか富豪の家庭教師をするなんて、生まれて初めてです」
「着きましたわ。この先が露天風呂になっております。きちんと男湯と女湯に分かれているので安心してくださいね」
「着替えはメイドに持ってこさせますわ」
「助かります」
雪村は纏う衣服を脱いで、下半身にはタオルを巻いた。外に出ると、いつの間にか雨はやみ、満月が浮かんでいた。
月光浴など中々お洒落だなと思い、湯船に入る。本当に源泉掛け流しだった。数メートル先は女湯がある。今の時間は誰が入っているのかな?
雪村は気になり、聞き耳を立てる。
「絵画コンクールに出るの?あなたが?」
「出て悪いのかしら?美咲お姉様」
「別にあなたが出ようと出まいと関係ないわ。好きになさい」
どうやら女湯には、長女の美咲と三女の夏美が入っているらしい。
すると何処か明るいメイドの女性の声が聴こえた。
「雪村様〜!」
「は、はい?……君は誰かな」
「申し遅れました!私は
稲村さやかは金髪のショートヘアーに、ちょっと可愛いロリータ系の顔立ちのあどけない少女だった。瞳は茶色の大きな瞳だ。
挨拶の仕方は明るくて、まるで向日葵のように明るい。何だか彼女がいると気分も明るくなれる。そんな魅力があった。
さやかは軽いノリで、着替えを持ってきた事を伝える。
「雪村様の着替えを持って来ましたので、更衣室に置いてありますから!後、旦那様もそろそろ入浴するらしいですよ」
すると、さやかは、頬に手を当て諒の事を話す。
「諒様って何時でも素敵!渋いし、ダンディだし、髭もお似合い過ぎですわ!それに、あの片方の目が青くて、綺麗…!」
「さやかさん。諒様って産まれた時から片方の目が青いの?」
「ええ。本人もそう仰っていました。なんでも、自分は『オッドアイ』だからと仰っていましたね」
「オッドアイ」
オッドアイとは、虹彩異色症というものである。海蛇諒は産まれた時から右眼だけが青い男性だ。左眼は茶色の瞳。
灰色の髪の毛もかなり目立つ存在で、しかも片方の目は青色の瞳という事で、昔から異性に好意を持たれていた。
天性の人たらしのような魅力にやられた異性は数知れず。しかし、諒は美雪一筋の男性だった。
さやかの賑やかな声を聴いて、その噂の当人が男湯にやってくる。
「何か賑やかだなと思ったら、さやか、君が居たのか」
「旦那様!」
「相変わらず賑やかだな。そんなに楽しいかい?私の話は?」
「こんばんは。諒様」
「やあ。今夜は満月なんだな。さやかがいつも以上にハイテンションなのはそれか」
「私、嬉しいです。雪村様のお世話係になれて、本当に嬉しいです」
「君の働きを見てると本当によくやってくれている。雪村君の世話係に相応しいと思ったよ?」
「ありがとうございます!頑張りますから」
「じゃあ……もっと頑張ったら、私と風呂に入るかね?」
「え!?御冗談を…」
「私は本気だよ?君に背中を流して欲しいし、ついでにあちらの相手もして欲しいくらいさ」
「そんな事を仰ると美雪様に怒鳴られますよ?旦那様」
「そういう君も満更でもない様子だね」
「私は……」
不意に瞳を閉じてモジモジする姿も可愛い。諒は優しい声で促す。
「さやか、お酒を持って来てくれるかな?月見酒をしたい」
「は、はい。すぐにお持ちします」
「慌てて出ていくあの姿も可愛いな」
普段の海蛇家を少しだけ垣間見た雪村は少しのぼせたのか、先に風呂から上がる事にした。
「諒様。僕は上がりますね。のぼせたみたいです」
「後でさやかに冷えた麦茶を持ってくるように伝えるよ」
そうして温泉から上がった雪村は、用意された着替えを着て、私室へと戻り、明日の夕方に千秋の実力テストをする為のテスト用紙の確認をする。
ふと、窓から外を眺めると立派な日本庭園が広がる。奥にはプールまで見えた。
「これは凄い。本当にここは上流家庭なんだな」
窓から見える日本庭園と満月を観ながら、ベッドに横になる雪村。
こうして初日はあっという間に終わった。
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