第3話 私立魔天学院

 翌朝6時。雪村蓮斗ゆきむられんとは起床した。大きく背伸びをして体を解す。太陽の光が窓からさしている。

 そしてパジャマからカジュアルファッションに着替える。今日から家庭教師生活が始まる。

 そして朝7時頃に、メイドの1人が彼を呼びにきた。昨日のメイドとは違う女性メイドだった。


「おはよう御座います。雪村様。朝食の準備が出来ましたのでご案内致します」


 見た目は茶色のツインテールに翡翠のような大きな瞳にメガネをかけた女性だった。何処か上品な雰囲気が伝わる。

 彼女は岸谷きしたにうらら。主に3姉妹達を世話するメイドである。

 ダイニングルームに案内される雪村は朝の挨拶を交わした。


「おはよう御座います。皆さん」

「おはよう。雪村君」

「おはよう御座います、雪村さん」


 3姉妹達も皆、おはようと挨拶してくれた。諒は昨夜は眠れたか聞いた。


「昨夜は眠れたかな?刺激を受け過ぎて興奮してしまったかなと心配していたが…」

「はい。ベッドとシーツの触り心地が良かったのでぐっすりと眠れました」

「それは良かった」


 朝食はご飯に、鮭の塩焼き、小鉢にほうれん草のお浸し、味噌汁が出た。全く持って普通の朝食だ。

 そうして、朝食を摂った3姉妹と諒はリムジンに乗り、私立魔天学院へと向かった。

 リムジンの中で美咲が父も来るのかと訊いた。


「お父様も学院にこられるのですか?」

「ああ。今日は理事会議だからな」


 15分程で、リムジンは私立魔天学院の校庭へと入り込む。そして運転手がドアを開けると取り巻きの生徒達が周りに集まり、それぞれ挨拶をする名物の光景がきた。


「美咲お姉様、おはよう御座います!」

「お姉様、おはよう御座います!」

「おはよう。皆さん」


 美咲は微かに唇を微笑ませ、華麗なる微笑を浮かべ、取り巻きの生徒達と共に大学へと向かって行った。


「千秋様。おはよう御座います」


 千秋を出迎えるのは少し陰険そうな雰囲気の生徒達だった。まるで極道の姐さんを出迎える雰囲気である。

 千秋は何かの手帳を読みながら「うむ」とだけ応え、アジトへと直行した。


「夏美様。おはようございます」

「ハーイ。おはよう!」


 フランクに取り巻きに返事をする夏美。彼女も取り巻きと共に高校へと歩いていった。

 私立魔天学院は偏差値70以上か、金持ちしか入れない学院だ。主に小学部、中学部、高等部、大学部があり、エレベーター方式で進級する。

 つまりは小学生からいる者は自動的に中学生へと進学し、中学生から高等部へ進学する際は試験を受けて、合格した者のみが高等部へと進学出来るのだ。更に高等部で進学試験を受けて合格すると大学まで進学する事が出来る。

 理事長には海蛇諒みずちりょうが務めているが、その海蛇家が理事になった時を境に、不穏な噂も流れ始める。

 その噂とは、学力に関係なく理事に賄賂を贈りさえすれば、学力に関係なく進学出来るというものだ。勿論、上の等部に行く際も彼に賄賂を払えば、自動的に上へと行けるのだ。

 なので、この魔天学院の生徒達は、一般的な不良よりも危険度が高く、親の金で遊びまくる子供も多く、そこらの不良よりも質が悪いと評判だった。

 女…喧嘩…ドラッグ…レイプ…暴力。金を持ち勘違いしているお坊ちゃんの方が余程質が悪い。その上、教師にまで反抗的で自己中心的な態度で接して、見下し、悪態をつく生徒も実に多い。

 故に周囲の者達は私立魔天学院は最低の学院だと言う者が実に多かった。

 この学院の制服は典型的な制服で、女子はセーラー服。男子は学ランである。主に黒を基調とした制服だ。

 実は高等部は、千秋または夏美に肩入れしている生徒が殆どで誰にも肩入れしていない生徒は稀である。また、千秋も夏美も自分達がチヤホヤされるのは当然だと思っているらしく、彼女たちに肩入れしない生徒の事を疎ましく思っている。

 千秋派は主に不良とおちこぼれが属している。特に目を引くのは『四天王』と呼ばれる暴力と喧嘩とセックスをこの上ないほど好きな4名の男子生徒である。

 千秋に楯突く者はこの四天王が即座にリンチする。恐るべき生徒達である。故に千秋に肩入れする者は自然と彼女に忠実なイヌに成り下がる。

 アジトには赤いソファが置かれ、その前には机が置かれている。そして生徒の1人がごっそりと貯まった金の入った箱を恭しく差し出した。


「千秋様。これが今日、手に入れたお金です」


 千秋はそれを見てほくそ笑む。その格好はひどくくつろいだ姿で背後には四天王が控えている。


「フフフ……この次はこの倍は集めておくのよ?ここは金ズルが一杯いるからねぇ…」


 一方、夏美派は真面目な優等生キャラの生徒達が属している。

 それは表の顔である清楚で温厚な性格に惹かれて心から慕っている生徒達が殆どだ。

 しかし、夏美は1人の生徒に対して嫉妬の念を抱いていた。

 この魔天学院には、人気先生がやはり居て、ランキングでも必ず上位に入っている魅力的な男性教師がいる。

 梅原竜也うめはらたつや先生。魔天学院きっての端正な男性教師である。女子生徒の中では圧倒的な人気の先生だ。夏美も梅原竜也先生を独占したいと思っている。何せ夏美は欲しがり姫だからだ。

 しかし、梅原竜也先生は1人の女子生徒に想いを寄せている様子だった。

 夏美を嫉妬させているこの女子生徒は家が貧乏なのか学院で禁止されているアルバイトを特別に許可されていたのであった。どうも梅原竜也の独断という噂話がある。

 その女子生徒が朝、日直帳を届けに教員室を訪ねた。


「梅原先生。おはよう御座います」

「おはよう。鈴村すずむら

「ちょっと外に出ようか?」

「はい」


 人があまり居ない場所で彼らは激しくキスを交わす。

 梅原の手はスカートの下の下着を触っていた。


「梅原先生……ダメっ……」

「大丈夫……見てないよ」

「んっ…ンンッ…先生…」


 彼らは大胆にも学院内でイチャイチャする。そして、梅原先生は自分の生徒であるこの女子に学院が終わったらデートしようと誘った。


「でも……私、お金がないです」

「俺が奢るよ」

「卒業したら結婚しような、すみれ」

「そんな……私は」

「他の生徒の目線なんか気にするな。お前はお前なのだから」


 そんな秘密の逢い引きも夏美の手の者に見られている事もつゆ知らず。


「不潔な女…!私達の梅原先生を汚しやがって…!」


 一部始終を目撃した女子生徒は夏美に報告すべくその場から去った。

 その女子生徒は鈴村すみれが梅原先生と逢瀬を楽しんでいた事を夏美や他の生徒にばらした。

 噂話好きの女子生徒は皆で無責任な暴言を吐く。夏美の所属するクラスの教室で。


「何、それ?不潔ね」

「鈴村すみれ。気に入らない女ね!」

「そいつ、確か1年A組の生徒じゃない?」

「弄ってやろうか?」

「放って置きなさいな」

「夏美様」

「どうせ鈴村の奴、梅原とヤルでしょうし、証拠を取ればいいだけでしょ?」

「誰か、ソイツらのデートの偵察に行ってちょうだい?礼は弾むわ」

「後、鈴村の家の場所も教えてくれる?」


 夏美の謀略の糸が紡がれていく。

 何も知らない鈴村すみれは、その謀略の生贄になる事もまだ知らない……。

 夏美の心の中は嫉妬と憎悪で渦巻いていた。まるで蛇がとぐろを巻いて牙をむくように。

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