第9話 All's fair in love and ・・・

「ふぅ・・・」


 私はベッドに座ってようやく肩の力を抜いた。今まであった気疲れは今日だけの物じゃない。アドルド王子に婚約破棄をされ、アテネシア王女の絡みを見せられ、恋に落ちたつもりが、ベランダから落とされて・・・そして、ユリウス大臣に受け止められた。これは、イナゴの大群が大発生した時よりも気持ちをすり減らしたに違いない。


 私は布団に入って身体を横にする。空き家の割には本当にいいお家があって良かった。きちんとしたベッドで寝られることに感謝をする。


 感謝を・・・誰に?


 私は扉を見る。

 その扉の向こう側には彼がいる。


 あの絶望で私はアドルド王子に落とされなくても、自ら飛び降りたかもしれない。


(それはないかな?悲しみよりも怒りと嫌悪の方が強かったから、死ぬにしてもアドルド王子を魔法で殺してから死んだかも・・・って、私、そんな魔法を覚えてないけどね」


 私は身体も扉の方に向ける。


 でも、自分があんな風に負の感情で満たされるのは、初めてだった。

 みんなが喜んだ笑顔を見るために魔法を使ってお手伝いしていたら「豊穣の聖女」と呼ばれていたけれど、あの時の私は人を殺す魔法を生み出して、魔女になっても不思議じゃなかった。


 あの時にすぐにユリウスが現れて、私の味方になってくれたから今の私がある。

 ユリウスとは王国の食料のことで相談されたり、私も国に上がってくるみんなの困りごとを教えてもらったりして、情報共有をしながら仕事をしてきたけれど、仕事もできるし、見た目も爽やかで、気配りのできる優しい男性だとは思っていた。


 でも、別に彼から特段のアピールをされたわけでもないし、アドルド王子が猛烈なアピールをしていて、その対応でいっぱいいっぱいで彼のことを異性として見る暇がなかった。

 そして、私は恋愛なんてよくわかっていなかったし、結婚って男の人が勝手に好きになって決まるか、家柄で決まるものだと思っていたから、アドルド王子の婚約の申し込みを受け入れた。

 

 しかし、私はユリウスにお姫様抱っこをしてもらった時、幸福に包まれてドキドキしたのを覚えている。

 あれは、二階から落ちたからじゃない、恋に落ちたからだ。

 だから、私は馬車に乗っている最中に、


「ねぇ、私にアプローチするって・・・ほんと?」


 と勇気を出して聞いた。すると、ユリウスは、


「今はまだ・・・その時じゃない。だって、今は君のピンチじゃないか。そんなのフェアじゃない。ちゃんと、君の落ち着いた暮らしを取り戻して、正常な判断ができるようになってからさせてもらいたいと思っているよ」


 と答えていたのを思い出した私は寝返りをうって、窓の方に身体を向ける。


「バーカ、正常な判断なんて・・・もうできないっつーの」


 私は後ろの扉からユリウスが夜這いに来て、自分の背中を抱きしめてくれないかなと思いながら、身を丸めながら、目を閉じた。顔が暑かったのは、夏のせいじゃない気がした。

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