第6話 酒は呑んでも……
「なぜだ……なぜなんだ!
女神……
女神プギャープゲラゲラよ!!」
その慟哭の後、俺の記憶はなくなった。
周囲の人々からただ逃げるように動いていたような気が、うっすらとするぐらいだ。
幽鬼のごとく人目を避けて虚ろにある生き続けたということのようだった。
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ガツン。
「これは……外壁か」
領都を囲むように設けられた外壁。
それにぶつかって、やっと俺は意識を取り戻した。
フードを目深にかぶっていたし、とにかく人から離れることしか考えていなかった。
そのせいで、前方の外壁に気づくことすらできなかったようだ。
「ははっ……。武人にあるまじき油断……いや。もはや武人になることすら叶わぬのか」
今日の"神託の儀"で与えられた天職が"聖女"だった。
そのことを思い出すと、全身の力が抜けてしまう。
(俺は……いったい何のためにここまで研鑽を積んだというのだ。笑いものになるためだったというのか)
考えただけで心が痛んでしまう。
ムーラチッハは外壁を背にすると、地面に座り込んだ。
(つらい……。この痛みを取り除きたい……おやっ)
ふと、視界に入ってきた赤提灯。
「こんなところに赤提灯とは。しかも、どうやら宿も兼ねているようだな。今日はもう疲れた。ここで疲れを癒すとしよう」
俺は気をとりなおして、居酒屋に吸い込まれていったのだった。
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「くはぁ。喉が焼ける」
強い酒精を放つそれを一気に飲み下すと、食道が焼けるかのように熱を帯びた。
そして、全身が熱をもちはじめると同時に、少しだけ緊張がゆるんで内心の苛立ちがおさまったような気がした。
(初めて酒を飲んだが……。旨いな。道理で、
俺は、舐めるようにしながら喉を焼いていく。
「いや~あんた良い飲みっぷりだね」
「すまんな、女将」
「久しぶりに気持ちよく飲んでくれる客だわ。どんどん飲んでちょうだい!」
そういうと気さくな女将は、酒瓶を取りにバックヤードに下がった。
「流れで泊まった宿だったが……ずいぶんと落ち着くな」
街はずれにあるだけあって、内装も華美ではない。
それに、俺のような田舎者であっても気兼ねなく接客してくれる女将までいるのだ。
「これも何かの縁か……。人との出会いに感謝しないとな」
そうして、俺は女将に出されるがままに俺は呑み続けたのだった。
「しかし、酒とはずいぶんと良いものだ。おかげで俺もいまや立派な酔っ払いだな」
思わず自嘲してしまう。
ふらつく身体を自覚しながらも飲まないわけにはいかなかった。
グラスの底の円が随分と歪んで見えるが……。この楽しい気持ちは、酒がなければ味わえないものだ。
もし酒がなければ俺は今頃正気を保てていたかどうか……。
「いや~お客さん、随分と飲んでくれたね! 酔い覚ましに水をおいておくから、これを飲んで部屋で寝て頂戴! 今日はもう閉店だよ!」
「すまんな。女将、ずいぶんと楽しませてもらった。感謝する」
俺は酒代を渡すと、ジョッキに入っていた水を一気飲みした。
「お客さんの部屋は、私の部屋の上だからね。騒ぐんじゃないよ!」
「ああ。もう寝るだけだ」
そう返事をした俺は、部屋に戻るとベッドに身を投げ出すようにして眠りについたのだった。
「こ、これは……"武侠"確定エフェクト!」
「すげえ……確率0.1%の"武侠"確定……」
「一体、どうなるんだってばよ!」
「"武侠"! この者が授かった天職は"武侠"!」
「やった!
「ムーラチッハという新たな英雄の誕生だ!」
「ムーラチッハ! ムーラチッハ! ムーラチッハ!」
延々と続くコールのなかで俺は胴上げをされていた。
最高の気分だ。
そのときだった。
突如として尿意が襲ってきた。
「すまん。少しトイレに行ってくる」
俺はそうしてトイレに行き、小便器の前で全力で放尿したのだった……。
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猛烈に頭痛がする。
だが、それ以上に自らの下腹部付近の違和感が半端ない。
「はっ! コレハマサカ……!」
俺は掛け布団を跳ね飛ばした。
掛け布団は壁にあたると、ベチャッと嫌な音をたてて床に落ちた。
「いかん……!いかんぞ!」
そう。
オネショだった。
類まれなる盛大なオネショであった。
もはや世界地図どころか宇宙地図といってもよいレベルの広大さであった。
ムーラチッハは頭を抱えた。
■■あとがき■■
2021.12.11
酒は呑んでもトイレにいけよ!
あと、これはお話だから15歳で酒飲んでるけど、リアルでは「お酒は二十歳になってから」だぞ!
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