第7話 吸水と逃亡
オネショだった。
間違いなく、ムーラチッハの半生において最大級のオネショだった。
まさか十五歳にもなって、このような過ちをすることになるとは……。
ムーラチッハは頭を抱えた。
だが、彼が悩んでいるうちにも、刻一刻とマットレスに物体Xは染み込んでいく。
このまま手をこまねいていれば、被害が甚大になるだけだ。
なにか早急に手を打たないと……!
「そうだ! "吸水"を使えばいいんだ!」
天職をもたない子どもでも使える生活魔法の一つ、"吸水"。
幸い、"聖女"は魔法の使用が不可能になる天職ではない。
「助かった……! 助かったぞ……!」
この絶望的な状況のなかで見出した一筋の光明。
ムーラチッハは、全力で詠唱を始めた。
「
だが、一向にマットレスには乾いた様子がない。
いまだ宇宙地図は広がっていこうとしている……。
このままでは、宇宙を越えた何かに発展しそうだ。
「くっ……! 詠唱が違ったか!
思いつく限りの詠唱を唱えるが、なぜか効果が出ない。
「なぜだ! なぜなんだ!」
ムーラチッハは、半ば絶叫するように大声を張り上げる。
「そういえば……、"吸水"は事前にセットしておくタイプの魔法だった……ッ! もはや事後の状態では効果がないということか!」
一体、どこが多い日でも安心なんだろうか。
そんな疑念が尽きぬが、ムーラチッハには更なる名案は思い浮かばなかった。
そして、とうとう物体Xはマットレスを貫通してしまった。
ピチョン。ピチョン。
水滴が床に落ちるような音が響いた。
「いかん! この部屋の下は……たしか女将が住んでいたはず!」
とりあえず騒ぐのを止めると、彼は耳を澄ませてみた。
「まったく、上のお客さんは随分と騒いでいるねえ。ウチは連れ込み宿じゃないんだけど……おや。この黄色い水滴は雨漏りかしら。やだわあ」
(マズイ……)
「くんくん。それにしても変な臭いがするわね……。ペロッ。これは……アンモニア!」
(もう無理だ! 逃げるしかない!)
ムーラチッハはメモ帳に詫び文を書きなぐって床に投げ捨てると、窓から飛び降りて逃亡したのだった。
全ての財産が入った革袋を置いていったことに彼が気が付いたのは、逃亡してから随分と時間が経ってからのことだった。
■■あとがき■■
2021.12.12
ごめんよ。ちょうどいい切れ目だから、今回短め。
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