第6話
「お姉ちゃんの話だって聞いてるわよ。」
「お母さん、皮膚むしり症って知ってる?」
今しかない。私がこんなにも家での居場所に困ってて、小さいころから蔑ろにされてきて、それで今、こんなに唇が汚くなって、目も汚くなって……。すべての不満をぶつけてやる。直希が生まれたからだ。直希が生まれて以来、私は邪魔者になったんだから。除け者にされ続けてきたんだから。
「ワセリンを塗ったところで、私の唇は良くならないよ。だって自分で自分の皮膚剥いてるんだもん。お母さんは知らないだろうけど、知ってると思ってないけど、ワセリン塗れ塗れ言われて、もうほんと、ウザい。どうしてこんなことに……。」
「皮膚、むしり症……。」母は小さく呟く。
「私は直希が生まれたから、いらなくなったんでしょ。そんなこと百も承知よ。ずっと、誰も、私に興味もってくれない。小学校の授業参観だってお母さんは直希のほうばっかりだったし、子供のころ、一緒に折り紙やりたくても直希が優先だった。私より直希が大事なんでしょ。私なんてどうせいらないのよ!」
私は何もかもぶちまける。弟は今にも泣きだしそうな目で姉を見つめていた。
「お姉ちゃん。あなた、変よ。何かあったの?」
心配そうに母は私を見つめる。直希とお母さんの二人の視線を一身に浴びているうち、私の目はいうことを聞かなくなった。喉に空気の塊が詰まる。何とか飲み込んでも、またすぐにせりあがってくる。
右目から、小さな雫が零れ落ちた。
「病院に行くなら、皮膚科じゃなくて精神科のほうがいいよ。
自分で皮膚を剥くのがやめられないのは、自傷行為がやめられないのと一緒なんだって。」
「お姉ちゃん、何かあったの?辛かったらなんでも言うのよ。」
はあ!?お前の口が何を言うか。お前のせいで、私はボロボロになったのに。お前のせいで!!
「誰があんたなんかに悩み相談するのよ。
私を!直希が生まれてからずっと!除け者にし続けてたじゃない……。」
お母さんは、弟の顔を見つめた。
突然壊れた娘が怖いのか、それとも本気で心配してくれているのか。火を見るよりも明らかだった。
「お母さんに、何か原因があるのね。ごめんね。本当にごめんなさい。」
お母さんは頭を下げる。
頭頂部では、頭皮がうっすら見えているのが気になった。
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