第2話

 きょうは、ようちえんからかえってきて、ママといっしょにおりがみをするやくそくだ。

 つるのつくりかたを、おしえてもらうんだ。でも、ママはなんだかたいへんそう。

もうまちきれないから、わたしだけで、さきにはじめちゃった。

 パンダ、ロケット、きりん。つくりかたをおぼえているやつを、ひとりでおる。ぜんぶで5つかんせいしたら、もうかみがなくなった。

「ねえママ」

「ちょっと待って。」

「ねえ」

「だから少し待って。」

「ねえ」

「静かにしなさい。」

 ママ、おこってる。おりがみがもうなくなったよって、いおうとしただけなんだけどな。

「直希、ミルク飲もうね。」

 なおきは「あぅ」とか「うぅ」しかいわない。こんなじかんにのむんだ。よるごはんのじかんはまだなのに。なおきは、もうおなかすいたのかな。

「おりがみ……」

「本を読んで自分で作りなさい。ママは、今忙しいから。」

「ちがうの。もうないの。」

「そこの棚に新しいの入ってるから、自分で出しなさい。お姉ちゃんなんだから、できるでしょ?」

 じぶんでやりなさい。じぶんでやりなさい。

 あたまのなかだけで、なんかいもきこえる。みうちゃんがいっていた、おかあさんのこと。それって、もしかして、こういうこと?

 なおきがうまれてから、わたしはじゃまになっちゃった。

 おねえちゃんより、あかちゃんのほうがだいじなんだって、それはとってもよくわかった。みうちゃんがいっていたことが、わたしにもわかる。

 おとうとなんて、いらない。

 ぺろり、とくちびるをなめたら、ちいさくあたるものがあった。

 これは、なに?

 ゆびでひっぱってみたら、ペリペリ、ととれた。

 これは、かわ?かわがむけちゃった。

 もういちど、さわってみる。

 さっきむいたところは、ちょっとヒリヒリしたけど、いやなかんじはしなかった。むしろ、おもしろい。つめがひっかかるところをみつけて、またひっぱる。こんどは、もっとたくさんとれた。

(なにこれ……!)

 おおきいのがとれると、うれしい。

 たのしい!

「瑞希、おまたせ。鶴折ろっか。」

「ママは何色?」

「うーん、赤がいいな。」

「はい、ママ!」

 あかいろのおりがみをふくろからだして、ママにわたした。そしたら、ママはわたしのかおをみて、いった。

「ねえ、唇どうしたの?」

「え?えっと……」

「上の右側、すごい赤くなってるけど。痛くない?大丈夫?」さっきむいたところをゆびさした。

「ぜんぜん、へいき」

「そう。それならいいんだけど……」

なにしたのかばれたら、きっとおこられる。かくさなきゃ。もうやめなきゃ。

「ねえ、はやくおしえてよ。」

「ごめんごめん。

瑞希、まずは、三角に折ってね。」

「できた」

「次は、もう一回、三角に折ってね。」

「できた」

ママがつくったかっこいいつると、わたしがはじめてつくりあげた、つる。むずかしかったけど、なんとかわたしもかんせいした。パパがかえってきたら、この2つをみせて、びっくりさせてやろう。きっと、すごいって、いってくれる。

あ、でも、なおきがいるから。さきになおきのところにいって、いないいないばあするかもな。もしそうだったら、わたしはじゃまになる。

いっぱいれんしゅうして、もっとじょうずにできたら、ママとパパにあげたいんだ。なおきは、おもちゃがあるから、いらないよね。


 あの日、初めての日。直希がうちにやってきた時から、私の居場所はなくなった。家族は、両親は、親戚縁者は、みんな直希をちやほやする。年増の女なんて必要ない。

 小学生の時も、私はいつも、皮を剥いていた。

 あの頃はまだ、睫毛を抜いてはいなかった。

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