第9話

翌日。

小鳥のさえずりにカーテンの隙間から差し込む朝日。

目頭を擦りながら、快眠で好調な体を起こす。

 昨日は結局昼食を取った後すぐに床に就いたため、早朝に起きることができた。

 は、良いものの、することがない。

 所詮は駆け出しの俳優。

 毎日仕事に追われる役者なんて白浜さんほどの人気がないとあり得ない。

 今期は朝ドラの役しかもらえていないため、その収録がない日は必然的に休暇になってしまうのだ。

 そして学生ではない僕は学業に打ち込むことも、部活に勤しむことも、学友と交流を深めることも(まず友達がいない)できない。

 結論から言って暇だ。

 この上なく暇だ。

「……とりあえず、朝飯作るか」

 パジャマからランニング用のジャージに着替え一階のキッチンへと降り、フライパンで目玉焼きを作り出す。

 香ばしいベーコンの香りがキッチンを通してリビングに充満する。

 目玉焼きが半熟になるまでの間、冷蔵庫からキャベツを千切りにして、ミニトマトと一緒に皿に盛る。

 盛り付けが終わったところで目玉焼きも出来上がり、一人前の二品を食卓の上に置く。

「んぅ、あれ、お兄ちゃん?」

「ああ、おはよう梓」

「うん、おは…よう、お…兄……ちゃ、……zzzzz」

 梓が起きてきたかと思うと、ソファで二度目の睡眠をとり始めてしまう。

 しっかり者の梓も早朝の睡魔の前には無力だ。

 相変わらず梓は朝に弱い。

「おい、ソファで寝るなよ」

「zzzzz」

「ダメだこりゃ」

 眠りこけた梓を放って置き、僕は食パンにジャムを塗りトースターでチンする。

「ほら、また寝ると学校遅刻するぞー」

「うぅ~ん、あと二か月」

「夏終わっちゃうよ。馬鹿なこと言ってないで座りな」

「んぅううん、はぁい」

 締まりのない返事をし、ふらふらとした歩調で食卓に着き、梓は皿に載せられた目玉焼きをもしゃもしゃと頬張る。

「食パンに塗るのイチゴジャムでよかったよな?」

「うん」

「ミニトマトも残さず食べろよ」

「うん」

「それじゃあ僕、ちょっと走ってくるから」

「うん」

「ご飯食べたらちゃんと学校行けよ」

「うん」

「……ちゃんと聞いてるよな?」

「うん」

 これはたぶん聞いてないな。

 まあそのうち目が覚めれば自分で用意するだろう。

 僕はランニングシューズを履き、外へと駆け出す。



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