あの時、私が面接で落とさなかったらこうはならなかったのかな

「この度は我が国の危急に対しての過分な配慮、誠に大儀であった。国王として直々に礼を言わせてもらいたい」


リグルベンド・エル・カ・ブラドフォンセス国王陛下は、こう言っちゃ失礼だけど、ファルトバウゼン国王陛下以上に厳めしい顔の、すっごい<頑固親父>風のオジサンだった。


ただ、ちゃんとお礼を自分の口から言うあたり、筋は通す人なんだとも感じた。でもその次の瞬間。


「それに先立って、我が領土内で不埒な真似を働いた者を捕らえ、その一族もろとも厳しく処罰させてもらった。広場にてその者らを晒してあるので、石を打つなり唾を吐きかけるなりして少しでも腹の虫を治めてもらいたい」


とか言い出したのを聞いて、『ああ…そういう時代なんだな…』というのも改めて実感させられたけどね。


聞けば、あの村の人達にでたらめなやり方を教えた人物は、幼い子供を抱えてお金が必要らしかった。だから手っ取り早く私のやり方を真似て大金を稼ごうとしたらしい。


だけど結局、奥さんも子供も兄妹も捕らえられて、全員、磔の上、槍で突かれて殺されたってことだった。


まだ五歳くらいの子供まで……


……分かってる。そういう時代なんだ。まだ戦争が身近で、人の命が安かった時代だから、<敵>と見做されれば子供さえ容赦なく殺されるのが普通の世の中なんだ……


分かってる……分かってるけど……


…あの時、私が面接で落とさなかったらこうはならなかったのかな……


どうしてもそんなことを考えてしまう。


ブラドフォンセス陛下は私を労ってくれて、カリン商会がこの国で農業の発展に尽くしてくれるなら協力は惜しまないと言ってはくれたけど、正直、私の気持ちはぜんぜん晴れなかった。


こればっかりはキラカレブレン卿では理解してもらえない感覚だと思った。彼はこの世界の人間で、かつ支配階級側だ。体制に仇なす者となれば子供だって容赦なく剣を突き立てるだろう。


「メロエリータ……お願いがあるんだけど……」


咎人を晒してあるという広場に、私はメロエリータに付き添ってもらって行った。


そこで磔にされて晒される、七つの人影。その中でも特に三人の小さな亡骸を見て、気が遠くなりそうだった。涙が勝手に溢れてきて止まらない。


メロエリータが言う。


「これは、お前の所為ではない。あの者達自身が招いたことだ。お前は何も間違ったことをしていない。


だが、自分の判断が何を招くのかということを、お前も知らなくちゃいけない。それを知った上で、事を成さねばいけない。


それが、生きるということだ……


でも、今は泣けばいい。思い切りな……」


そんなメロエリータの胸に縋って、私はただ泣き続けたのだった。


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