『騙されてもいいか』って思っちゃってる私もいるんだよね~

その後も彼と楽しくお酒を楽しんだけど、『悪い男が女性を酔わせて不埒なことをと考えている時によく使う』なんてのを勧められて、正直、私はその後もずっと内心では焦ってしまってた。


でもそれはあくまで私が『飲みやすいお酒だからってホイホイ飲んでグデングデンの前後不覚になるような迂闊な人間』かどうかっていうのを試す為だということが分かって納得できた筈だった。


……って、ホントにそれでいいんだよね…?


キラカレブレン卿は立派な人だと思うし、私としてもこうやって一緒にお酒を飲み交わす相手としては嫌じゃない。少し頭が固いところはあっても、真面目な性格の裏返しだろうからあんまり目くじらを立てることもないと思う。


だからってなんで胸が高鳴ってるの……?


とか思ってる私を真っ直ぐに見詰めて彼が言う。


「カリン殿。実は私はまだ独り身なんです。兄が二人いて、どちらも既に結婚し、家については安泰です。両親も兄も、私の好きなようにすればいいと言ってくれています。貴女が望むなら、これからずっと、貴女の傍でお守りすることも可能です」


……は、はいいぃっ!?


それって…それって私を口説いてますかぁっっ…!?


ぐわ~っ! 待って待って待って待って! ごめんなさいまだ心の準備が! 私こんなですよ!? 家に帰ったらウンチを睨み付けて髪も梳かず化粧もせず研究に没頭してたりするんですよ!? 今のこの姿は、アウラクレアにお任せで作ってもらった<余所行きの偽りの姿>でしかないですよ!? 普段の私を見たらきっとがっかりしますよ!


無理無理無理無理!


声には出さず、でもあわあわとうろたえる私に、彼はあくまでも優しかった。


「貴女が、いいんです」


だって?


そりゃ私だってチャラ男に同じようなことを言われたこともあったよ! 入学後すぐの新歓飲み会で未成年なのに飲まされて危うく<お持ち帰り>されそうになったこともあったけどさ!


でもでも、違う! その時のとは全く違う! あれは私は乗り気じゃなかった。だから何とか逃げ出した。そのせいで変な噂流されたりもしたけどそれも無視した!


でも、あ~っ! ダメ! 私揺らいでる? 明らかにぐらっときてる!? このまま彼にお姫様抱っこされてベッドまで連れていかれてもいいとか思ってる…!


ギャーっ!! ダメだダメだ! それはまだダメ!


そ、そうよ! これもきっと『試されてる』んだ! こんな風にいい雰囲気で迫られてホイホイ流されるような人間かどうかってのを見られてるに違いない!!


そうだそうだ、そうに違いない!


くそ~っ! 騙されないぞ! 騙されてたまるか…!


でも……


でも、『騙されてもいいか』って思っちゃってる私もいるんだよね~……


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