畑に掛けられた<呪い>を解かなくちゃいけない
家庭菜園レベルの話なら、ここまでの被害が出ることはそんなにないと思う。大量に有機物を混ぜ込んでわざと窒素飢餓の状態にしてから安定するまで放置して化学肥料で不足した窒素分を補うとかいう方法もあると思う。
でも毎年確実に収穫を得なきゃいけない農家の場合はそうはいかない。しかも今回、従来のやり方なら休ませてる筈の畑まで使って耕作した。せめてそっちを残して置けば来年は無事な畑を使うという手もあったけど、それもできない。
だから私は、今、この畑に掛けられた<呪い>を解かなくちゃいけない。元はと言えば私が始めたことが悪用されたからという理由もあるからね。
畑の中の微生物に魔法で働きかけ、とにかくまず有機物を徹底的に分解させる。この際、更に窒素が使われてしまうけど今は仕方ない。とにかく先にこの不安定な状態をなんとかしなきゃいけない。
同時に、土壌の状態も再確認した。素性は悪くない。と言うかむしろ余計なことをしなければきっと今年も十分な収穫が得られた筈だ。だからこそ悔しい。
畑全体を一気にできればいいんだけど、残念ながら私にはまだそこまでできない。そこまで広範囲を同時に完全に制御することができない。もしかしたらネローシェシカにはできたかもしれなくても、私には無理。
だから少しずつ確実に対処する。そこの畑を全部どうにかできたのは、もうすっかり日が暮れた頃だった。
さすがに疲れて、私は畔に座り込んでた。護衛の為に付き添ってくれてた兵士達も心配そうに「大丈夫ですか?」と声を掛けてくれる。
その時、私の耳に届いてきた声があった。
「臭いが…マシになっている……?」
特使としてここを治めてる貴族に会いに行ってたキラカレブレン卿だった。しばらく離れてたからこその正直な印象だった。ずっといると鼻が麻痺してマシになったような気がするものだけど、間をおいて改めて臭いを嗅いだ上でのそれで『マシになった』っていうことは、ちゃんと効果が出てるってことだった。
ここだけじゃなくて周囲の畑からも臭いが来るから、完全にはなくならないけどね。
「カリン殿、上手くいったのですか?」
私に向かって手を差し伸べながらキラカレブレン卿が、問い掛けてくる。立ち上がろうとしたけど、脚に力が入らない。
「たぶん……でも、ごめんなさい、ちょっと立てそうにないのでこのままでもいいですか?」
貴族に対して失礼なのは分かってても、立ち上がれなかった。なのに彼は、
「ああ、これは申し訳ない。私の方が思慮が足りませんでした」
と言ってくれた。優しい人だなと思ったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます