すいません。偉そうなこと言っちゃいましたね

「まだようやく呪いが解けたところなだけです。これからまた土を作り直さないといけない」


私が魔法で残っていた未熟な人肥を完全に堆肥化した畑を担当していた農家の男性に、私は畔に座ったままでそう告げた。


「本当に呪いが解けたんですかい?」


彼は縋るようにそう尋ねてくる。


「ああ、呪いについてはね。でも、今も言った通り、土そのものは弱ってしまったからそれについてはこれからですね……


農というのは積み重ねなんです……土を耕したからってすぐにほいほいできるものじゃない。それこそ、何代にも渡って土を作り上げてきたからこそいい作物が採れる。それを一足飛びに大儲けしようと思うとしっぺ返しが来る……


って、すいません。偉そうなこと言っちゃいましたね……」


仕事として農業に携わってる人相手につい語ってしまって、私は苦笑いになってしまった。こういうの、<釈迦に説法>って言うんだっけ……だけど男性は、


「いえ、よくぞおっしゃってくださいました。私らも分かってた筈なのに、今があるのはこの土を作ってきてくれた先祖達のおかげだって知ってた筈なのに、それを忘れちまってた……あなたはそれを思い出させてくれた。ありがとうございます……!」


と言って、彼は奥さんらしき女性と一緒にその場に膝を着いて体を折り畳むようにして深々と頭を下げてくれた。それは、日本で言う<土下座>に当たる仕草だった。構えられた剣の前に首を曝すというのが由来だという、『命さえ取られても構いません』って覚悟の姿だった。


これほど誠実な人達を騙した輩がいたというのは、悲しいことだと思う。いや、もしかしたら別に騙すつもりはなかったのかもしれない。ただ楽して儲けようとしただけなんだろう。実際、彼らは何かを騙し取られたとかいうのはまだなかった。ただ失敗して目算通りにいかなかったというだけだ。


「頭を上げてください……私は自分にできることをしただけです。それにこれは、皆さんにだってできることです。


ウンチを土に変える魔法が使える人なら、たぶん、殆どの人が使えると思います。それを今から皆さんにお伝えしますから、人を集めてもらえますか? 手分けしてやれば、すぐに終わりますよ」


「はい! 他の奴らにも声を掛けてきます!」


その時、キラカレブレン卿が声を上げた。


「では、ツフセマティアス卿の別荘の近くの集会場に集まってもらいましょう。私もこれから卿の屋敷に戻り改めて説明しなければいけませんし、その時に話を付けてきます」


「お願いします……」


私が顔を向けて頭を下げると、キラカレブレン卿は「任せてください」と笑ったのだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る